第8話 過去の私は厄災の魔女として絵本の主人公になってるって(白目0歳児)

 今私は、天井を見上げながら、ラッキーが振ってくれる尻尾を追いかけて遊んでいるフリをし、訓練をしていた。一生懸命手を伸ばして、足をバタバタさせて一日でも早く動けるようになりたかった。


 ラッキーは完全に私のお守り役として定着した。

 マッシュが一緒にお風呂に入ってくれたり、遊んでくれたおかげでラッキーの優秀さをみんなにアピールできたおかげだ。


 マッシュがギンジと話せるというのを今までみんな信じていなかったようだったけど、ギンジを仲介してラッキーと絶妙なコミュニケーションを取ったことで、徐々に信じてもらえるようになったようだ。


 生まれてからの怒涛の出来事がひと段落し、考える時間ができると今の私のことを考えてしまう。


 成長したラッキーがいるということは、少なくとも私は未来へ転生したということだ。

 そのことは良かったのか悪かったのかは私にはわからないけど、ラッキーはかなり喜んでくれているし、他の子たちも元気らしい。


 そのうち会いに行きたいが、少し会いに行くか悩んでいる。

 ラッキーのように私を好いてくれる子はいいけど、私のせいで彼らがどれだけ酷い目にあったのか思い出すと、私を恨んでいる子もいるかもしれないからだ。


 わざわざ私が名乗り出て、あの子たちに辛い思いをさせたくない。

 どのみち、会いに行くとしてもある程度自分が動けるようになってからだとは思うし、今のところは優先すべきは、まずは私の人生をどうするかの方が重要だ。


 どうやら私はベネディクト公爵家の次女として生まれたらしい。

 私が生きていた時には聞いたことがないので、もしかしたら別の土地に転生した可能性もある。


 ただ問題は、公爵家で豪華な家具などを使っているのに侍女などの数が少ない気がするのだ。お金持ちなのかと思っていたけど、多分それほど裕福ではない。


 周りの話に耳を傾けてわかったのは、お父さんの治療費にかなりお金がかかったってことだった。


 私が作った回復薬は日常で食べる食材を組み合わせるだけで作れる簡単な回復薬だった。

 魔法肺炎は放置していて治る病気はないけど、あそこまで悪化するにはかなり時間がかかったはずだ。


 あんな病気の治療薬にどれだけ無駄なお金を使ったのか……想像もしたくない。

 どうやら、お父さんは自分の保険でその後の私たちの生活の一部を賄うことを考えていたようだけど、お父さんはしばらく死ぬことはないので当てが外れてしまったようだ。


 調理場でマッシュがなんでもできたのは、侍女の数が少なかったからというのもあるのかもしれない。


 節約をしているようでも、公爵家である以上、出る物はきっと想像以上にでていく。

 このままいくとお父さんが死ななくても一家離散なんてことにも……?


 お金のことは私には難しいけど、できる準備はしておいた方がいいと思う。

 それとせっかく転生したのだから、前世であったあんな理不尽な目にあいたくない。


 回復薬で少しでも人を助けられればと思っていたけど、それをしたせいで誰かに恨みを買っているとか、考えただけでも震えがくる。


 人を助けるためには、根回しだったり、事前準備が大切なのだろう。


 それに、私のせいで可愛い魔物たちもひどい目にあわせてしまった。あんな惨劇を二度と起こさないためにも、もっとしっかりする必要がある。


 今回公爵家の娘に生まれたってことは、神様は私に権力を使って何かさせたいとかなのだろうか?


 もし前世の私に公爵家のような権力があればきっとあんな悲劇は起きなかった。


 絶対的な権力……。


「元気に遊んでいるみたいね。今日はお姉ちゃんである私が絵本を読んであげるね。この絵本は世界でもっとも売れたって言われているくらい有名な絵本なのよ」


 私が今後の人生に思いを馳せているとマーガレットが絵本を持ってやってきた。

 ラッキーは尻尾をパタパタさせるのを止め、私のすぐ横にゴロンと寝転がる。


「魔獣使い最恐悪女レティと12人の回復魔法使い」


 ん? レティ? どこかで聞いたことのある名前だ。そう前世でよく……。

 いやいやいや、なんかその絵本もの凄く縁起悪くない?

 私の前世の名前がどうせつくならもっと可愛い作品が良かった。


「これは本当にあった話を絵本にしたんだよ」


 私が生きていた時にはこんな話は聞いたことがなかった。


 もちろん、貴族と田舎民の私では読む物が違うかもしれないけど、それでも私は魔術書とかも読むくらいには勉強もできたし、何よりカラフルな色で書かれた絵本は好きで、街の本屋に行くと必ずといっていいほど、絵本のコーナーには立ち寄っていた。


「それじゃ読むわよ。別名、厄災の森と呼ばれる大森林サヴァリアにはレティというそれはそれは恐ろしい魔女が住んでいました」


「んぎゃああああああ」

「サーシャどうしたの?」


 嘘だ。誰か嘘だと言って欲しい。

 まさか、そんな……。いや、最後まで聞いてみないとわからない。

 だけど、これ私主人公にした作品じゃないよね?

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