第16話 仲がいいのはいいこと

 サルザスたちが帰ってから、私は落ち込みながらラッキーと共に部屋へと戻った。


 私の泣き声でバレていたかもしれないけど、お父さんの姿を隠れて見ていたことをできれば知られたくなかった。




 回復魔法協会は私が生きていた時よりもかなり勢力を拡大させていたのは知っていたけど、まさかここまで権力を持っているとは思っていなかった。




 絶対に過去の記憶を持っていることはバレていけない。


 だけど、このままお父さんがバカにされたままなのも、回復薬で回復する病気を知っていて対処療法でしか治療をさせないのも許せない。




 私が部屋に戻り、寝台の上に寝かしつけられるのと同じタイミングでお父さんが部屋に戻って来た。




「サーシャ抱っこさせてくれー」


「だぁ」




 お父さんが私を思いっきり抱きしめる。


 胸の鼓動がいつもより早い。




 かなりのストレスを感じていたに違いない。


 もし、お父さんの立場だったら……きっと、発狂していたかもしれない。




 大人になることが理不尽に耐えることだというなら、私にはやっぱり公爵家の娘は向かないと思う。




「いやーでも良かった。せっかく手に入れた家畜を全部持っていくかと思ったら三千匹だって」


「だぁ?」




 予定よりも千匹も多く言われていることになぜ納得しているのか私には理解できなかったが、お父さんとしてはそれでよかったらしい。




「余った家畜を領民たちに貸し出せば、領民たちにもお金が回るし、去年の飢饉でこの家の蓄えも心もとなくなったのも少しは改善されるだろうし、サーシャが生まれてからいいこと尽くめだよ。ありがとう。僕の天使ちゃん」




 最初はこの天使呼びも少し気持ち悪かったけど、段々と慣れてきていた。


 無視すると、寂しそうな目をするので一応喜んでおく




「キャッキャッ」


「あら、お父様に抱っこされて喜んでいますよ」




「マーガレットもこれくらいの時、よく喜んでくれたんだぞ」


「あっそれはないですね」




 せっかく私が喜ばしたのに、お姉ちゃんが一気にお父さんの気分を奈落へと突き落としていた。どうにかしてやってくれ。




「サーシャは私と違って優しいからお父さんの相手してあげてるだけだもんね」


「だぁ」




 思わず本音で返事をしてしまったが、お父さんにはバレていないのでセーフということにしておこう。




「もう、あんまり二人でいじめないであげて。お父さんは今、とっても大変なお仕事を片付けたんだから」


「本当に。できればもう二度と来ないで貰いたいけど、回復魔法を握られている以上、どうしようもできないからな」




 私はマッシュお兄ちゃんの方をチラリと見るが、お兄ちゃんは他の人にバレないよう軽く首を横に振るだけだった。


 回復薬の作り方はやっぱり表に出してはいけないものらしい。




「それにしても、あの牛さんや豚さんはどこから来たのかしらね?」


「だぁー」




 私がラッキーが連れて来てくれたと言っても誰にも伝わりはしなかった。


 だけど、ラッキーは私だけが知っていればいいのか尻尾を振って喜んでくれた。




「誰かはわからないけど……こんな少なくとも私たちの家はいい方向へと向かっているってことだね」


「そうね。今は神様にあの家畜たちをお借りしておきましょう。いずれお返しする時がきてもいいように、私もしっかり働かなくちゃ」




「ダメだよ。子供を産んでからのこの時期は一番大事なんだから。骨盤が歪むと将来的に病気になりやすいって言われただろ」


「もう、本当に心配症なんだから」




「僕の病気の時もそうだったけど、身体の不調を放って置くと後からくるんだからね」


「はいはい。もうこういうとこだけ真面目なんだから」




 お父さんは優しくお母さんの髪の毛を撫でる。


 そのままキスしてしまいそうなほど顔が近い。




 私たちの存在絶対忘れているでしょ。


 まぁ、お父さん頑張ったから見なかったことにしておくけど。




 ラッキーがそっと部屋からでていく。


 きっとラッキーもお父さんとお母さんのイチャイチャするのを見ていられなかったに違いない。




 そう言えば、さっきサルザスのことについて考えがあると言っていたけど、どうするつもりなのだろうか。




「あっサーシャにミルクあげなきゃ。この子あまり泣かないから定期的にミルクあげないと忘れちゃうのよね」




「みんなそれじゃでていようか」


「あなたもですよ」




「僕はいいじゃ」


 お母さんが枕を父さんの顔面に投げつけた。




「次は花瓶か、あなたのコレクションを……」


「すぐでていくよ」




「ふふっ本当に、ダメなお父さんでしゅね」


「んばっ」




 よく泣いて、よく動いてお母さんから母乳をもらったせいか、段々と瞼が重くなってくる。お母さんの優しさに包まれ、私はゆっくりと眠りについた。

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