第43話 回復薬のような瓶を掲げた美しい女性

「すごう」

 そこには魔術の本から魔法陣、武器、戦略的なものなど王様として必要な帝王学など多種多様な本が沢山あった。


「ここに人をいれるのは久しぶりです。代々王家の後継ぎ候補以外は入ることを禁じされてますので。そして、ここから先は私の代では誰も入れてません。フェンリル様は大丈夫かと思いますが、足元に気を付けてついて来てください」


 フォレスト王が暖炉の中へと消えていく。

 扉があるようには見えないけど……。ラッキーがそのまま暖炉の中に入ると、石壁だと思っていたものはただの幻影の魔法で、奥には地下へと続く階段があった。


 ラッキーが入ったことで階段の壁にある光スズランの花が明るくなる。

 ゆっくりと下っていくフォレスト王がこの場所の説明をしてくれた。


「ここは先々代の王が作ったレティ様を祀っている祭壇に続く場所になります。レティ様はきっと気が付かれていないかもしれませんが、先々代の使いがレティ様から薬をもらったことで助かったんです。レティ様がいなければ私の一族は生まれていませんでした」


 私が作った回復薬を誰に渡したのかなんて私でも覚えていなかった。

 だけど、こうやって厄災の魔女レティではなくて、回復薬を作っていた私を覚えていてくれる人がいたことは素直に嬉しい。


「ただ、残念なことに回復魔法協会の力が強くなるにつれて、この国でも表立ってレティ様の名誉を守る活動ができなくなっていきました」

「だーう」


 それは仕方がない。

 いつの時代も死人に口なしだ。


 力が強くて声の大きい人間が歴史を好きに作り上げていってしまうものだ。

 いくら違うと声をあげようとしても、生きていくのが一番大事なのには変わりはない。


 階段が終わると、そこは大きな礼拝堂になっていた。

 回復薬のような瓶を掲げた美しい女性がステンドグラスに描かれ、うっすらと星の光が差し込んできていた。


「きれーい」

「気に入って頂いたようで良かったです。ここがレティ教発祥の場所になります。あなたがいずれここに来ていただくことが一族の夢でした。とは言っても、もちろんあなたが何かをする必要はありません。ただ、この世界でもあなたの業績を覚えている人間が沢山いることを知って欲しかったのです」


 そこには未だに沢山の人がやってくるのか、数えきれないくらいの花束が飾られていた。

 私が助けた人の子孫が徐々に増えていって、今もこうして集まってくれているのだと思うと嬉しくなる。

 私がしたことは間違っていなかったのだ。


「それとこれを……」

 フォレスト王が見せてきたのは一冊の本だった。

 背表紙にも表にも何も書かれていない。

 私が本を開くと、そこには私が飼っていた魔物たちの特徴と生息地域が書かれていた。


「おー」

「気に入っていただけたら嬉しいです。これは今現在世界各地に散らばっているレティ様の従魔の一覧になります。もちろん魔物なのでレティ様を忘れている場合もあるかもしれませんが、魔獣王フェンリル様のように覚えていらっしゃる可能性もあります。今すぐは使えないかもしれませんが、今後お役に立てて頂ければと思います」

「あーとー」


 もしかしたらラッキーのように暴れていなくても、魔獣として認定されている子もいるかもしれない。

 できるだけ多くの子たちを探して見つけてあげたい。


 そして辺境の地で今度こそ幸せに畑を耕しながら生きるのだ。

 それから、フォレスト王はしばらくその場所を案内してくれた。

 私の知らない間に激しい戦いもあったみたいで、少しだけ心が痛んだ。

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