第6話 廊下に倒れている人を発見! それは……
私たちはお母さんに気づかれないようにそっと部屋をでようとすると、侍女が半分居眠りしながら廊下を歩いていくのに出くわしてしまった。
一瞬全員の動きが止まる。
侍女は私たちに気がつかなかったのか、そのままノロノロと歩きながらどこかへ行ってしまった。
ビックリしたー。
マッシュは慣れているのか、キョロキョロと周りを見渡し、壁沿いに沿って目立たないように歩いて行く。
よく考えるといくら新しい妹が生まれたからといって、子供が一人で出歩く時間じゃない。私はそのことについて聞いてみる。
「んぎゃ」
『マッシュは昼間はあまり外にでないんだ。マッシュ話していいのか?』
「いいよ」
『こいつの姉が魔物と話すことに忌避感強くてな。そいつの侍女とかまで陰口言ってるのを聞いてしまったんだよ。だけどマッシュも頑固なところがあって、俺と話せることを譲らなくて。そしたら段々と昼間に出歩くのが怖くなっちまってよ。まったく俺なんかのために無理しやがって』
「ギンジは僕の友達だから。友達をいないことになんてできないよ」
『ありがたいけどな。俺は俺で複雑だよ』
「だぁーだ」
『気にする必要はないってよ。人と違うってことは別のことで才能を発揮できる可能性に満ち溢れてるって。それに、マッシュのおかげでお父さん元気になるんだよ。だって。ハハッ、サーシャは生まれたばかりなのにいいこというじゃねぇか』
「サーシャ、ありがとう。でも何度も言うけど俺の前以外でそういう素ぶりは絶対にダメだからね」
私は大きく頷く。
ギンジが私の耳たぶを小さい手で優しく撫でてくれる。
すこしくすぐったいが、とっても冷たくて気持ちいい。
そのまま厨房につくと、私は台の上に置かれて、マッシュたちは材料を探してくれた。
このレシピはそれほど難しくはない。
どこにでもあるものを組み合わせるだけで簡単に作れる回復薬だ。
マッシュはこれだけ大きな家に住んでいるお金持ちの子でありながら、調理場で火を起こしたりできるなかなか優秀な子だった。
私が動ければすぐにできる回復薬だけど、さすがにギンジに指示しながらマッシュに伝えてもらうという手段ではかなり時間がかかってしまった。
その薬は、外が少し明るくなった頃やっとできあがった。
「これがあればお父さんの病気治るの?」
「キャッ」
小瓶にうつした回復薬に私は最後おまじないをかける。
それはとても古いおまじない。
薬の効果が少しだけ強くなる。
(アバル・ステル・マラルカナ)
私がそう心の中で唱えると、地面が大きく揺れ、地を裂くような魔物の咆哮が聞こえてきた。
「大丈夫だよ。魔物がまた暴れたんだと思う」
私はびっくりして生まれたばかりなのに、心臓が止まりそうになったのに、マッシュは落ち着いていた。表面上は……。
床にシミが広がり、私を持つ手が震えている。
私は優しくマッシュの手を握る。
「んばっ」
「ふぅ。ありがとう。急いで部屋に戻ろう。今ので誰か起きて来たかもしれない」
少し多めに作りすぎた物は戸棚に奥に隠して、小瓶に詰めたものを持って急いで廊下へとでる。
何も考えていなかったが、こんな場面を誰かに見られたらマッシュの立場がさらに悪くなる。
マッシュは私を抱きかかえたまま小走りで廊下を走る。
「誰か……」
「んぎゃ」
『なんだよ。サーシャ部屋に戻らないと怒られるだろ』
「んぎゃ」
『声ってなんだよ』
「しっ」
暗くてあまりわからないが、誰かの声が聞こえて気がする。
マッシュもそれに気がついてくれたようだった。
窓から一筋の朝日が廊下を照らす。
そこにいたのは、お父さんのブライアンだった。
車椅子から転げ落ち、胸を押さえて苦しがっている。
「んぎゃ」
『マッシュ、すぐに身体を仰向けにさせて口の中に薬を飲ませろ』
「今?」
私はそのままマッシュの肩を叩く。迷っている時間はない。
「わかったよ」
マッシュは回復薬をこぼさないようにお父さんの口へといれる。
「んぎゃ」
『急いで部屋に戻って母さんを起こせってさ』
「わかったよ。生まれたばかりなのに人使いが荒すぎる」
マッシュはブツブツ言いながらもすぐに私の言う通りにしてくれる。
お父さんから離れる前に呼吸を確認すると、だいぶ落ち着いている。あれならもう大丈夫だ。私はそのまま安心してマッシュの腕の中で眠りにつく。
翌日、私が起きたらいくつも大変なことが起きていた。
それは、ある意味お父さんが回復したことよりも世間的にはビックリすることだった。
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