第三十四話 無人島で猛特訓
四方を紺碧に海に囲まれた、巨大な無人島。
島の中心には巨大な火山がそびえ立っており、その周囲には
それがBランク
夏の特訓はこの
一方を海、一方を密林に挟まれた広い砂浜で、降り注ぐ太陽の光のもと、ハルカは今ボスと模擬戦を行っている。
配信中ではないが、他の探索者と遭遇した場合に備えて、ばっちりメイクとコスチュームを決めていた。
「──はあっ!!」
「ふむ」
ハルカが全霊を込めて振り下ろした
身の丈ほどもある分厚く重い刃ごと、ハルカの体が後ろに押し返された。
斬撃の鋭さも、重さによる衝撃も、まったく通じていない。
「うわっ、刃こぼれしてる!」
それどころか、肉斬包丁のほうが拳に打ち負ける始末であった。
まるでキッチンナイフで戦車の装甲に斬りかかったような気分だ。
「やはり
と、クリスティナが言った。
たった今、肉斬包丁の一撃を真正面から受けた拳には、傷一つついていない。
武具や拳に込めることで威力を向上させることができ、また防御にも応用できる。
ハルカも〈半月〉のような攻撃スキルを使用する際は、武器に
しかしこの模擬戦では、攻撃スキルの使用は禁止というお達しが出ている。
スキルに頼らぬ
今はそれを鍛えている最中だ。
「覚えておけ、ハルカ。重要なのは集中と加速だ」
とクリスティナは言った。
「丸い石をぶつけるよりも、尖った石をぶつけるほうが威力が高い。そして時速五十キロでぶつけるよりも、百キロでぶつけるほうが威力が高い。
「なるほど・・・・・・」
クリスティナの拳が何のスキルを使わずとも肉斬包丁を砕くほどの威力を持っているのは、
これまで身体能力と肉斬包丁の破壊力に頼ってモンスターと戦っていたハルカには、そのような繊細な戦闘技術が欠けているのだった。
「ハルカ、お前の当面の課題は基礎的な技術の向上だな。──次、カノン」
「はい、ティナさん」
少し離れていた場所で一連の攻防を見守っていたカノンが、ハルカと入れ替わりにクリスティナの前に立つ。
「お前の場合、一番のネックはスキルの扱いづらさだな。これはとにかく使って制御能力を磨くしかあるまい。とりあえず海に向かって一発、適当なのを撃ってみろ」
「わかりました、ティナさん。ハルカ、もうちょっと離れて」
「ん? もっとか? わかった」
四、五メートルの距離で二人の会話を聞いていたハルカだったが、カノンに言われて、さらに距離を開ける。
ハルカが十メートルほど離れると、カノンはそれを確認し、海の方を向いた。
「〈ジャベリン〉」
スキルの名を小さく呟き、手のひらを広げて頭上に腕を突き出す。
次の瞬間、カノンの体を中心に、まるで爆発するかのように紅蓮の炎が出現した。
「うわ──大丈夫か、カノン!?」
ハルカは思わず叫んだ。
炎は瞬く間に巨大化してカノンの姿を飲み込み、怪物が身を捩るように渦を巻いている。
「大丈夫。見てて」
炎の中からカノンがそう応えた。
その声に反応するかのように、巨大な炎は徐々に小さくなっていく。
消えようとしているのか?
否。
内向きに圧縮されているのだ。
ほどなくして、高くかかげられたカノンの手のひらに全ての炎が凝結し、輝く光の槍のようなものが形作られた。
カノンが腕を打ち振ると、槍は輝く軌跡を宙に刻みながら、放物線を描く軌道で遠い海面へと飛び込んだ。
そして──爆発。
海中で発生した爆炎と衝撃波が轟音とともに海面を打ち砕き、海水と火炎が入り交じった巨大な柱が天に向かって立ち昇った。
〈パイロマンサー〉の攻撃スキル〈ジャベリン〉。
極大の炎を圧縮して一本の
その破壊力は、本物のミサイルと同等かそれ以上だ。
「おお、大した威力だな!」
クリスティナが楽しそうに笑い、
「なるほど、確かにこりゃ使い勝手が悪いな・・・・・・」
ハルカは思わずそう呟く。
以前、カノンが言っていたことを思い出した。
自分のスキルは、威力と範囲が大きすぎて使い勝手が悪い。
だからこそ彼女は普段、スキルではなく専用の銃を使って戦っているのだ。
「単純な
〈ジャベリン〉が巻き起こした嵐が収まると、クリスティナが言った。
彼女は以前、カノンの母親であり、彼女と同じ〈パイロマンサー〉である特級探索者アリサ・スプリングフィールドとパーティを組んでいたらしい。
その時のことを思い出しているのだろう。
「カノンの課題もハルカとあまり変わらんな。力の精密な制御を身につけることが最優先だ。仲間を巻き込まずにスキルが使えるようになれば、戦術の幅も圧倒的に広がるだろう」
「・・・・・・がんばります」
クリスティナの言葉に、カノンはこくりと頷いた。
「ところでボス。ここって
「ん? なんだいきなり。当たり前だろう」
不意にハルカに問われて、クリスティナは質問の意図がわからないと言いたげな顔をした。
「いや、
「そういえば・・・・・・」
ハルカが疑問を呈すると、カノンも首を傾げた。
事前に協会で調べた資料によれば、この島は恐竜型モンスターが多数生息しているはずだ。
なのにこれまで一度も遭遇していないし、カノンの〈ジャベリン〉があれほど派手な爆音を轟かせたにも関わらず、集まってくる様子もない。
「ああ、そのことか」
頭にハテナを浮かべる二人の様子を見て、クリスティナは事も無げに言った。
「この
ハルカとカノンは思わず顔を見合わせた。
モンスターが探索者から逃げるなんて、そんな話聞いたことがない。
しかし実際、モンスターは影も形もない。
ということはつまり、クリスティナの言っていることは本当なのだろう。
──どんだけ規格外なんだ、この人・・・・・・
そう思わずにはいられなかった。
まあ、邪魔が入らず修行に励めるというならありがたいのだが。
ともかく、こうしてハルカは『
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