真夏の熱血修行編
第三十二話 真夏の熱血修行編プロローグ
「ハルカ。今からお前に、確実にドラゴンに勝てる方法を教えてやろう」
果てしなく広がる海を背景に、白い砂浜に立つクリスティナが言った。
ラフなジーンズにドラゴ○ボールのキャラTシャツというお気に入りのスタイルで、この海辺の風景には妙にマッチしている。
まるで海に遊びに来た観光客のようだ。
「えー、ないでしょうそんな方法」
ハルカ・ミクリヤはジト目でボスを見ながら、そう返した。
その容姿は一目には絶世の美少女だが、中身は御園遼という高校一年生の少年。
いわゆるひとつの
服装はいつものエプロンドレスで、灼熱の日射しが降り注ぐこの砂浜では、見ているだけで暑苦しいことこの上ない。
ただし、〈虎ノ巣〉社のオーダーメイド品であるこの服には、高性能の耐寒・対暑結界が組み込まれている。なので、熱中症でぶっ倒れる心配はない。
B級の
ドラゴン。
数多の探索者を返り討ちにしてきた、
その確実な倒し方なんてものがこの世にあるなら、誰も苦労はしない。
が、そんなハルカの疑念をよそに、クリスティナは自信に満ちた態度を崩さない。
「いいや、あるとも。私はその方法でドラゴンを倒した。どうだ、聞きたいだろう? ん?」
特級探索者クリスティナ・マクラウド。
通称“ボス”。
彼女は世界で十人といない
つまりこの世界で唯一、
その彼女が言うのならば──ひょっとして存在するのか?
確実にドラゴンを倒せる方法なんてものが。
思わずそんな期待をしてしまう存在感が、クリスティナという探索者にはある。
「じゃあ、教えてください。ボスはどうやってドラゴンを倒したんですか?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれた。なあに、実に簡単だぞ」
ハルカがそう訊ねると、腕を組み、自信満々の笑顔を浮かべながら、クリスティナは言った。
「修行してドラゴンより強くなればいい! ただそれだけだ!」
「そんなことだろうと思った・・・・・・!」
ハルカは気が遠くなった。
この人は発想のスケールとか方向性が、いろいろと常人とは違いすぎる。
──ドラゴンを倒したかったら、ドラゴンより強くなればいい。
確かに、この上なく確実で単純な作戦と言える。
実現可能であれば、という注釈がつくが。
「それを簡単って言えるのはボスだけですよ。もっとこう・・・・・・弱点を突くとか、罠を張って待ちかまえるとか、そういう感じの作戦はないんですか?」
とりあえず一般的の観点から、そう提言してみる。
が、クリスティナは首を横に振った。
「ドラゴンと戦う時、そういう考え方をするのはやめておけ。奴らに弱点などないし、小細工が通用するほどバカな相手でもない。力で上回り、真正面から叩き潰す──これがもっとも確実で、安全な方法だ」
実際にドラゴンを倒した実績のある特級探索者からそう言われてしまえば、首を縦に振るしかない。
確かに小細工に頼った戦い方をすると、それが通用しなかった場合、戦局は一気に崩壊する恐れがある。パーティが全滅する可能性も高いだろう。
だが、こっちが最初からドラゴンを上回る戦力を持っていれば、確実かつ安全に勝利を手にすることができる。
要は、十分にレベル上げをしてから挑めばいい、というわけだ。
理屈の上では、確かに正しいように思えるが──
「・・・・・・ボスは可能だと思うんですか? 俺がドラゴンより強くなるなんて」
問題はその点である。
ハルカ・ミクリヤのクラスは〈料理人〉。
一般的な探索者のクラスである〈剣士〉や〈魔法使い〉などとは異なり、どう考えても戦闘に向いているようには思えぬ字面である。
世界的に覚醒例の少ないレアクラスであり、強いのか、弱いのか、伸び代はどれくらいあるのか、などはよくわかっていない。
これまでの経験を鑑みるに、他のクラスと比べて極端に弱いということは、どうやらなさそうだが。
しかし──
〈料理人〉が力でドラゴンを上回るなど、そんなことが本当に可能なのだろうか?
「私はこれまで常に、この世に不可能など存在しないと思いながら生きてきた。これからもそうするつもりだ」
ハルカの疑問に、クリスティナは胸を張って答えた。
「だから答えはイエスだ。私が鍛えてやれば、お前は必ずドラゴンより強い〈料理人〉になれる。私はそう信じて疑わん。──お前はどうだ、ハルカ?」
「俺は・・・・・・ボスがそう言ってくれるなら、俺も信じます」
ハルカ・ミクリヤ──御園遼は、これまでずっと
そして幸運にも、世界最強の
ハルカを羨むものは、世界にごまんといるだろう。
それほど恵まれた立場にいながら、俺には無理だ、諦める、なんてヘタれた台詞を抜かす奴にはなりたくない。
現実的に可能か不可能かなんてことは考えない。
とにかくやり抜く。
それだけだ。
「ふっ、なかなか良い顔になったではないか。それでこそだ」
覚悟を決めたハルカを見て、クリスティナは満足げに言った。
「それでは真夏の熱血修行編、開幕と行こうではないか!」
────
あとがき
新章開幕です
まだ構想が固まっていないので更新頻度落ちます
ご容赦ください
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