第十五話 〈ルーインド・キングダム〉について語るスレ

 迷宮配信者ダンジョン・ライバーとしての方向性、そして配信の具体的な内容について決める前に、遼とシオンの能力について一通り確かめることになった。

 二人はクリスティナの前で一通りスキルを披露し、またそれ以外の特技や能力についてもいろいろと話し合った。

 その結果──


「やはり料理配信、これしかないな。迷宮ダンジョンを攻略し、倒したモンスターの肉で料理を作る。当面はこの方向性で行くとしよう。料理はいつだって人気のあるジャンルだからな。その分ライバルも多いが、その中でどう目立つかは私のプロデュース次第だ」


 特技は料理、という遼の自己申告に従い、記念すべき初配信の内容が決まった。

 となると、次はシオンだが。


「お前の仕事は、しばらくは遼のサポートだ。迷宮ダンジョン攻略や料理を手伝ったり、後は完成した料理を食べるのもやってもらおう。それ以外のことは、お前たち二人が配信に慣れてきてから考える」


「了解です、ボス。料理なら任せてください」

「わかりました。でも、なんというか・・・・・・見切り発車ではないですか?」


 往来能天気な性格であり、配信の内容が得意分野の料理ということもあって、遼は楽観的だ。

 しかしシオンは、ほとんど計画らしい計画がないことが不安なようだった。


「最初に完璧な計画を立てたところで、その通りには絶対にいかん」


 クリスティナはそう言った。


「配信者というのは、その場のアドリブやリスナーの反応に応じて配信を進めていくものだ。その予測不能さが、配信をする側にとってもリスナーにとっても楽しみなのだ」

「アドリブ・・・・・・あまり、自信がないです」

「そういらぬ心配をするな」


 クリスティナはシオンの肩を叩き、ニヤリと笑った。


「仮に上手くいかず放送事故になったとしても、それはそれで面白いものだ!」


 まったく慰めになっていなかった。




 ところで、一方。放送事故と言えば──

 〈ルーインド・キングダム〉での事件から命からがら生還した浅村正樹は、自宅でスマホを握りしめ、食い入るように画面を見つめていた。

 表示されているのは、匿名掲示板の『ルーインド・キングダムについて語るスレ』だ。


XXX 名無しの探索者さん

 この前の迷宮災害ダンジョン・ハザードでボスと陛下が救援に来たってマ?


XXX 名無しの探索者さん

 マジ。ニュースにもなってるよ


XXX 名無しの探索者さん

 俺現地にいた! すごい遠くからだけど二人が戦ってるとこ見た!


XXX 名無しの探索者さん

 俺も。ボスがボーリングのピンみたいにオークの群れ吹っ飛ばしてて草生えたわ


XXX 名無しの探索者さん

 陛下の技もヤバかったな。もうすぐ特級ってのも納得


XXX 名無しの探索者さん

 裏山死刑。まさかCランク迷宮ダンジョンであの二人に会えるなんて俺も行けば良かった


XXX 名無しの探索者さん

 誰か動画撮ってた奴いないの?


XXX 名無しの探索者さん

 いないよ陛下は救援に来ただけで配信中じゃなかったし


XXX 名無しの探索者さん

 現地に一人くらい配信者いなかったのか?


XXX 名無しの探索者さん

 SEIGIが配信してたけど途中でドローンぶっ壊れてボスと陛下は映ってない

 動画ももう削除されるし


XXX 名無しの探索者さん

 SEIGIって誰? 有名な人? 聞いたこと無いけど


XXX 名無しの探索者さん

 強気な感じのイケメンで女性人気ある配信者。だけどオークから逃げ回ってるシーン自分で放送しちゃってイメージ崩壊中


XXX 名無しの探索者さん

 あーそりゃご愁傷様


XXX 名無しの探索者さん

 今調べたが登録者五万人超えてたのに一気に三万まで落ちてて草


XXX 名無しの探索者さん

 ざまぁwwwwwイケメンの不幸で飯が美味いwwwwwwwwww


XXX 名無しの探索者さん

 SEIGIって高一らしいね。ちょっとかわいそう


XXX 名無しの探索者さん

 調子乗ったガキが配信中に自分のマヌケ晒したわけか。よくある話だな


XXX 名無しの探索者さん

 命があっただけめっけもんよ。これで身の程知ったろ


XXX 名無しの探索者さん

 お前ら高一に厳しすぎだろwwwwwwww確かにざまぁだけどwwwwwwww


「・・・・・・くそっ、ふざけんなよ・・・・・・」


 好き放題にコメントするネットの住人たちに、正樹は唸るように呟いた。

 あの時、自動追従モードに設定していたドローンは、オークの群れから半狂乱で逃げる正樹の姿をしっかりと配信していた。

 そして──


『だっ、誰か! 誰か助けて──ぐえっ!?』


 正樹が無様に転び、オークに追いつかれそうになったところで、突如としてドローンが破壊され配信が終了している。

 自分の目でしっかり見たわけではないが、何が起きたか推理するのは容易だった。

 あの時自分を助けた、例のクラスメイトの男子(名前はまだ知らない)。

 彼がオークに放った攻撃スキルが、ドローンを巻き込んで破壊したのだ。

 おかげで〈SEIGI〉はそれ以上の無様を晒さずに済んだ。

 もちろん、動画は削除済みだ。

 命を助けられたことといい、本来なら感謝すべきところではあるが──


「絶対に許さねぇ・・・・・・」


 あんな地味で目立たない陰キャに、明らかに自分より格下の男に、本来なら自分に対等な口を利く権利もない奴に助けられた。

 その事実が正樹の心を屈辱と怒りで燃え上がらせた。

 しかもそいつは、シオン・スプリングフィールドと二人で迷宮ダンジョンにいた。

 状況的に考えて、彼らがパーティを組んでいたのは間違いない。

 つまり自分が先に唾を付けていた少女を横からかっさらっていったのだ、あいつは。

 それを考えると、感謝する気など一ミリも起きない。

 さらにしばらくスレを読み進めると、件の男子生徒の目撃情報と思われる書き込みもあった。


XXX 名無しの探索者さん

 そういやあそこにいた探索者に珍しい武器使ってる奴いなかった?


XXX 名無しの探索者さん

 珍しいってどんなの?


XXX 名無しの探索者さん

 なんかデカい包丁みたいなやつ


XXX 名無しの探索者さん

 デカい包丁ってなんだよwwwwwどこのメーカーがそんなん作るんだwwwwwww


XXX 名無しの探索者さん

 そりゃ〈虎ノ巣〉以外ありえんだろ


XXX 名無しの探索者さん

 確かに〈虎ノ巣〉なら作りそうで草


XXX 名無しの探索者さん

 いたいたなんかデカい包丁みたいな剣振り回してる男の子

 横にいた女の子がスゲー美少女だったから覚えてるわ


XXX 名無しの探索者さん

 俺も見た気がする。その二人ボスと陛下に声かけられてた


XXX 名無しの探索者さん

 マジか。なんて声かけられてた? もちろん聞いてたんだよなお前? 早く吐けよ


XXX 名無しの探索者さん

 食いつきエグくて草


XXX 名無しの探索者さん

 俺もめっちゃ知りたい早く話せ


XXX 名無しの探索者さん

 いやそんな近くにいたわけじゃないから聞こえなかったよ

 でもたぶん危ないところだったねーみたいな話じゃない?


XXX 名無しの探索者さん

 まあたぶんそんなとこだろ


XXX 名無しの探索者さん

 それだけでもクッソ羨ましいわ


「マジかよ。あいつ、陛下に声かけられてたのか・・・・・・くそぉ」


 屈辱と怒りに加えて、嫉妬の炎が正樹の中で燃え上がった。

 自分もあの迷宮災害ダンジョン・ハザードで活躍していれば、雷電刀華とクリスティナ・マクラウドに声をかけてもらえただろうか?

 きっとそうなっていただろう。

 いや、それどころか、自分の実力と人気を考えれば、あの場でスカウトされていたかもしれない。

 だが現実には、自分は二人の目にも入らなかった。

 それを言うなら、シオン・スプリングフィールドにも相手にされなかった。

 代わりに良い思いをしたのは、だ。


「絶対に許さねぇ・・・・・・!」


 正樹は再びそう呟き、そして、月曜日にに会ったらどうやってこの屈辱を晴らすか、入念な計画を練り始めた。


────

あとがき


正樹をどれくらいヒドい目にあわせるか悩みます

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