第六話 Cランク迷宮〈ルーインド・キングダム〉
今後の予定についてシオンと話していたら、午後の授業には遅刻した。
二人そろって遅れて教室に入ってきた遼とシオンに、クラスメイトはちょっとざわつき、先生にはちょっとだけ怒られ、そしてそれ以外は何事もなく放課後になった。
すると早速、
「ちょっといいか?」
と正樹が話しかけてきたが、
「よくない」
と即座に返した。
まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかったのか、正樹は鳩が豆鉄砲食らったような間抜け面でフリーズした。
と、その隙にシオンが近づいてきて、
「早く行こう、御園くん」
と、遼の袖をつまんで引っ張った。
今日の午後、二人はさっそく最寄りのCランク
夜の七時までには琴歌のために夕食を用意しておきたいことを考えると、無駄にしていられる時間はなかった。
「そうだな、急ごう!」
遼は頷き、呆気にとられる正樹やクラスメイトたちを教室に残して、足早に学校を後にした。
〈ルーインド・キングダム〉。
それが最寄りのCランク
どの
それほど大きくはないが、見た目はドーム型の野球場に近い。
内部には戦利品の買取所、更衣室、シャワー室、食堂、談話室など様々な施設が充実しており、客室を借りて泊まることもできる。
遼とシオンは早速受付で
ちなみに
「銃だよな、それ?」
遼がそう
「そう。でもただの銃じゃない」
そう言って彼女が遼に見せたのは、どこか芸術品のような美しさを感じさせる、一挺の拳銃だった。
彼女の言うとおり、ありふれた火薬式の銃ではあるまい。
ましてや片手で持てるピストルなど豆鉄砲のようなものだ。
「貴方の武器は?」
「俺のはスキルで創る。だから
スキルは原則的に、魔素濃度の濃い空間──要するに
つまり
だからこそ、探索者という職業はここまで人口に
「わかった。それじゃ、行きましょう」
「おう」
二人は肩を並べ、
探索者協会が
内部では他の探索者が休憩していたり、協会の職員が働いていたりする。
中世の城砦を思わせるその建物の外に出ると、ようやく目の前に〈ルーインド・キングダム〉の光景が広がった。
〈ルーインド・キングダム〉は〈ビーストランド〉と同じく、開放型の
つまり、全体が一階層になっていて、頭上には青い空が広がっている。
北(と仮定される)の方角には濃い緑の森が広がり、その向こう側には、赤茶けた岩の山脈が巨大な壁のようにそびえ立っている。
「あの岩山がオークの本拠地だってな」
「そう。だから近づいちゃだめ。できれば手前の森にも入らないほうがいい」
この〈ルーインド・キングダム〉は、かつてBランクの
それを探索者たちが数年かけて北の山脈まで追い返し、
以来オークは、定期的に山脈から降りてきて丘陵地帯に侵入しているものの、これまで
「今日はあくまで、お互いの能力を把握するだけ。大きな獲物は狙わない。それでいい?」
〈ダンジョン・ウォッチ〉から送られてくる情報で、他の探索者との位置関係は把握できている。
お互いの狩りを邪魔しないよう、少し間隔を開けて行動するのが協会の定めた規則だ。
「もちろんだ。安全第一で行こう」
遼に異存はなく、素直に頷いた。
パーティメンバーが見つかり、ようやくCランク
だが仲間がいるということは、自分がヘマをすれば仲間をも危険に巻き込むということでもある。
「シオンさんはこの
「うん。だから案内は任せて」
「わかった。よろしく頼む──っと、ちょっと待った。たぶんモンスター」
空気に混じる微かな異臭に気づき、遼は片手をあげてシオンを制した。
二人からそう遠くない場所にある廃墟の陰。
そこにモンスターがいると、遼の嗅覚が告げていた。
「どうしてわかるの?」
「鼻が良いんだ、俺は。〈料理人〉の恩恵だよ」
「そうなんだ・・・・・・面白いね、〈料理人〉」
香りというのは、料理において味と同じくらい重要な
〈料理人〉のクラスに嗅覚強化の能力があるのは、たぶんそのせいだ。
遼が今まで
「どうしようか。待ち伏せされてるっぽい気がするけど」
「私が攻撃して誘き出す。奴らが飛び出してきたら前衛に立って」
シオンはそう言って、腰のホルスターから銃を抜いた。
「私のクラスは〈パイロマンサー〉。ランクはB級。この銃は、私の能力を制御するためのもの。今から見せてあげる」
と言って、銃口を廃墟へと向ける。
そして彼女が引き金を引いた瞬間、比喩ではなく、その銃口が火を噴いた。
銃口から放たれたのは、鉛の弾丸ではなく、火の
シオンのクラス〈パイロマンサー〉は火炎を操る強力なレアクラスであり、そして彼女の持つ銃は、その力で生み出される炎を凝縮し、加速し、発射する装置なのだった。
廃墟の壁に着弾した瞬間、
その衝撃で廃墟が大きく震え、その陰に隠れていたモンスターたちが、泡を食って飛び出してきた。
数体のオークどもだ。
いよいよ、遼・シオン
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