第三十五話 めいど・ざ・ろっく!

 探索者としての力量を磨くべく〈ロスト・アイランド〉で特訓を始めた〈ハルカノ〉コンビであったが、もちろん、配信者としての特訓も平行して進めている。

 現状、ハルカノのメインコンテンツは迷宮ダンジョン攻略と料理配信であり、これはとても上手く行っている。

 また、先日行われたハルカ単独の雑談配信も好評のうちに終わった。

 次に開拓していく予定なのは、音楽系のコンテンツである。

 御園遼の趣味は言うまでもなく料理だが、では料理に次いで好きなものは何かと問われれば、それは音楽である。

 妹・琴歌の趣味に付き合ううちに、今では結構な腕となっている。

 これを活かさない手はない。

 そこで今、遼は〈虎ノ巣〉社ビルの一角にあるスタジオに来ていた。

 目的は歌とギターの腕前を見てもらうことである。

 普段は自社装備の宣伝用写真を撮るための広い空間に、今日は楽器やアンプ、スタンドマイクなどが持ち込まれている。

 遼はメイクアップを終えてハルカへと変身すると、エレキギターを持ち、お気に入りの曲をいくつか披露した。

 観客はシオン、クリスティナ、レア、シュウ、刀華、そして数名の〈虎ノ巣〉社員。

 そのうちクリスティナがドラムを叩き、シュウがベースを弾いてくれた。

 二人とも、めちゃくちゃ上手かった。


「わなほらららー・・・・・・っと。ど、どうですかね?」


 演奏を終えると、ハルカは若干緊張しながらたずねた。

 これまで家族、というか琴歌以外の前で演奏したり歌ったりした経験はほとんどない。

 琴歌は上手いと言ってくれるが、身内からの評価はアテにならない。

 自分の演奏が他人ひとにどう聞こえているは、未知数であった。

 まず最初に、クリスティナが真面目な顔で大きく頷きながら言った。


「メイド服にギター・・・・・・最高だな!」


 いや、演奏について聞きたいんですが。

 〈虎ノ巣〉の社員たちも、彼女に追従してうんうんと頷いている。


「良い演奏だったわよ、ハルカちゃん。正直、予想以上の完成度だったわ。特にリズム感が素晴らしいわね!」

「今の段階でも、十分に配信に乗せられるクオリティがありますね」


 次にシュウとレアからお褒めの言葉を頂いた。


「ギターのことはよくわからないけど、上手だったと思う」

「そうですね。自然と体が動き出すような、楽しい演奏でしたよ」


 最後にシオンが真剣な表情で、そして刀華が優しい笑顔で言った。

 お世辞も入っているだろうが、とりあえず全員から高い評価をもらえたので、ハルカはほっと息をついた。


「ほとんど毎日、コトちゃん・・・・・・妹の練習を手伝ってますからね。そのおかげかな」


 加えて言えば、探索者の高い身体能力のおかげでもある。

 探索者は魔素の影響によって、強力なスキルを使用したり、超人的な身体能力を発揮することができる。

 魔素の薄い迷宮ダンジョン外の空間では、スキルは原則使用不可になり、身体能力も落ちる。

 それでも、一般人よりは優れた筋力や反射神経を持ち、歌を歌ったり楽器を演奏する際、それは有利に働くのだ。


「妹・・・・・・例の“世界一の美少女”か? 是非会ってみたいものだな」


 クリスティナが興味深そうに言った。


「世界一・・・・・・」


 シオンが神妙な顔でぽつりと呟く。

 それを横目に見ながら、クリスティナは何か悪いことを思いついた笑みを浮かべた。


「妹が世界一なら、シオンは何番目だ?」

「んー、悪いけど世界で二番目ですね」


 悪戯っぽい口調でクリスティナに問われて、ハルカはあっけらかんと応える。


「も、もう、何言ってるの・・・・・・」


 シオンは顔を真っ赤にしてうつむいた。

 妹、つまり肉親を除けば、世界で一番可愛いとストレートに言われたのである。

 冗談だとしても強烈な一言だった。


「ふふ、お二人は本当に仲が良いですね。少し羨ましいです」


 刀華がおっとりした調子でさらなる追撃を加え、シオンはますます顔を赤くして黙り込んだ。


「ハルカくんとカノンちゃんと一緒に配信できる日が待ち遠しいです。ボス、まだ難しいのでしょうか?」


 品のある仕草で首を傾げながら、刀華が言った。


「待たせてすまんな、刀華。今はタイミングを見計らっているところだ。だがそう遠くないうちに共演コラボの機会を設けるよ。約束する」


 クリスティナが苦笑しながら応えた。

 〈ハルカ・ミクリヤ〉と〈ハルノ・カノン〉は、クリスティナ・マクラウドのプロデュースのもと、〈雷電刀華〉の後輩としてデビューした迷宮配信者ダンジョン・ライバーだ。

 だが、今まで一度も共演コラボは実現していなかった。

 その原因は、〈ハルカ・ミクリヤ〉の中身が少年であるという事実に起因する。

 刀華の熱狂的なファン──俗にユニコーンとかガチ恋勢と言われる人々は、彼女の周りに男性の影がちらつくことを激しく嫌悪している。

 ましてや男性配信者と共演コラボするなどすれば、どんな過激な嫌がらせに出るかわからない。

 それがこれまで、先輩後輩の間柄にも関わらず共演コラボを先延ばしにしてきた理由だった。

 とはいえ、ハルカの見た目は刀華に勝るとも劣らぬ美貌の少女であり、単なる男性配信者とは明らかに異質な存在キャラクターだ。

 これまでの配信で多くのファンを獲得しており、その人気は今なお凄まじい勢いで成長している。

 少々の批判を吹き飛ばすだけの追い風は吹いている、とクリスティナは考えていた。


「・・・・・・いっそのことさっさと共演コラボしてしまって、問題を起こしたリスナーを片端から捕まえてしまえばいいのでは?」


 二人の会話を聞いていたレアが、そんなことを言い出した。

 確かに、その手もなくはない。

 一線を越えた誹謗中傷や嫌がらせは、立派な犯罪として扱われる。

 だがクリスティナは首を横に振った。


「私はユニコーンを叩き潰したいわけでも、豚箱に放り込みたいわけでもない。もちろん度を超えた連中には厳正に対処するつもりだが、理想は彼らに「ハルカなら共演コラボしてもいい」と思ってもらうことだ」


 そう言って、肩を竦める。


「私だってくだらん男が刀華に近づくのは許せん。ある意味、彼らは私の同類だ。だから敵として排除するのではなく、可能な限り納得してもらって、これからも末永く刀華のファンでいてもらいたい。そして出来れば、ハルカのことも好きになってもらいたいのだ」

「・・・・・・わかりました、ボスがそう言うなら。しかし簡単ではないと思いますよ」

「大丈夫、きっと上手く行きますよ」


 悲観的な発言をするレアに対して、刀華がハルカを見て微笑みながら言った。


「ハルカくんはとっても可愛くて良い子ですもの。みんな好きになってくれるはずです。そうでしょう、ボス?」

「もちろんだ。こんなに可愛い男の娘は他にいないからな!」

「いや、あはは・・・・・・照れますね」


 今度はハルカが赤くなる番だった。

 

「・・・・・・むう」


 シオンは不機嫌である。

 と、そこへ──

 クリスティナのスマホが、メールの受信を知らせる音楽を鳴らした。


「ほう・・・・・・」


 メールを開いたクリスティナが、表示された文面を見て不敵な笑みを浮かべた。


「喜べ、お前たち。が来たようだぞ」




────

あとがき


ハルカが歌った曲が何かわかるかな

こんなタイトルにしましたが実はぼざろ見たことありません

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