第十八話 メイクデビュー!
『ボスが新たな
そんなニュースが世間を駆けめぐった。
『ボスことクリスティナ・マクラウド氏はメディアに対し、「やれやれ、貴方たちは本当の男の娘を見たことがないようだ。土曜日の配信に来てください、本当の男の娘ってやつをお見せしますよ」とコメントしており──』
ボス当人のネームバリューに加え、彼女は現在、人気沸騰中の
つまり〈ハルカ・ミクリヤ〉は刀華の後輩ということになる。
しかもなんと男の娘!
誰一人予想だにしなかった新人の登場である。
その記念すべき初配信の内容は、『誰にでもできるファングボア料理』。
Dランク
探索者協会から借り受けたモニター室では、クリスティナ、レア、シオンが集まっていた。
クリスティナとレアはコンソールの前でドローンやカメラの操作、コメント欄のチェックなどを担当する。
シオンはその後ろの席で、ハルカの配信を見学することになっていた。
それだけでなく、遼とシオンの先輩に当たる
余計なトラブルを起こさないために、刀華はこれまで遼、シオン両名との接触を避けていた。
だがいよいよ後輩のデビューという段になって、応援に来た次第である。
「初回配信なんて大抵の配信者は黒歴史になるものですから、失敗しても気にしなくて大丈夫ですよ」
おっとりとした調子で送った応援の言葉はどこか微妙にズレていたが。
「とにかく実力を見せればいい。きっとそれだけで喜んでもらえる」
シオンも自分なりに考えたアドバイスを送った。
現在、遼の探索者ランクはC級だが、シオンの見立てだと純粋な実力はB級以上。おまけにその武器や戦い方は、豪快の一言に尽きる。
それを見れば、きっとリスナーは喜ぶだろう。
『ありがとうございます、先輩。ハルノもありがとう』
ハルカにそう言われて、シオンは小さく頷いた。
衣装を着てカメラの前にいる時は、
「頑張って、ハルカ・・・・・・」
そう小さく口の中で呟く。
モニターを見つめるシオンの顔は、緊張で血の気が失せていた。
遼本人よりよっぽど緊張しており、今にも倒れそうだ。
「大丈夫ですか、シオンちゃん? 顔色が・・・・・・」
その横顔を見た刀華が、心配そうに声をかけた。
「・・・・・・へ、平気、です」
シオンはふるふると首を振って答える。
だが正直言って、緊張で気絶しそうだった。
もし、ハルカが緊張で大失敗をやらかしてしまったら?
もし、コメント欄が心ない言葉で溢れたら?
もし、それを見た遼がショックを受け傷ついたら?
そんな悪い想像ばかりが膨らむ。
と──膝の上でぎゅっと握り固められたシオンの手に、刀華がそっと触れ、優しく微笑みかけた。
「きっと大丈夫ですよ。ボスのやることは、いつだって最後には上手くいくのです。だから心配するよりも、応援をしましょう」
楽観的とも言える根拠を欠いた励ましだったが、有無を言わせぬボスの存在感と、刀華の持つおっとりとした雰囲気によって、シオンは落ち着きを取り戻した。
「・・・・・・はい、刀華さん。・・・・・・ありがとうございます」
なんとか刀華に笑い返し、それからモニターの中のハルカに目線を向ける。
全ての準備が万端に整い、後はスタートを切るだけ。
そして、ボスが配信開始の合図を出し──
『みなさん、こんにちは!
いよいよ、ハルカの初配信が始まった。
シオンは食い入るようにモニターを見つめながら、ハルカの成功を祈った。
結果的に言って、〈ハルカ・ミクリヤ〉の初配信は大成功と言って良い結果に終わった。
明るく軽快なトーク、豪快な戦闘スタイル、巧みな料理の腕。
巨大な包丁を振り回す、エプロンドレス姿の美少女というビジュアルのインパクト。
おまけにその中身は、少年だという。
ちょっと属性を盛りすぎのような気もするが、ともかく様々な要素が渾然一体となったそのキャラクター性は、多くの人々を混乱させながらも魅了し、リスナーに絶大なインパクトを与えた。
祈るような気持ちでその配信を見ていたシオンも、いつしか緊張を忘れ、一人のリスナーとしてハルカの配信を楽しんでいた。
そして、配信終了後──
「お疲れさま、御園くん」
着替えを終えた遼を出迎え、シオンは労いの言葉をかけた。
「ああ。なんか上手くいったみたいでよかったよかった」
「うん。・・・・・・ハルカの配信、見ていて楽しかった。
「あはは、なんか照れくさいな」
自分がエプロンドレスを着てノリノリで配信していた姿を目の前の少女に見られていたと思うと、さすがに若干気恥ずかしさを感じる遼である。
「次はお前も配信に出るのだぞ、シオン。心の準備をしておけよ」
と、そこにクリスティナが刀華を伴ってやって来た。
彼女の言うとおり、〈ハルノ・カノン〉は次の〈ハルカ・ミクリヤ〉の配信で、ハルカの護衛兼助手としてデビューすることになっている。
予定は一週間後だ。
「う・・・・・・は、はい」
と言って黙り込んでしまうシオンに、刀華が優しく声をかけた。
「遼くんとシオンちゃん、二人が一緒ならきっと上手く行きますよ。ねぇ、ボス?」
「ああ、間違いない。遼、一週間とはいえお前は配信者としてシオンの先輩になった。先輩としてしっかりサポートしてやれ」
「そっか、そうですね。了解、ボス」
「先輩・・・・・・」
シオンは顔を上げて遼を見た。
言われてみれば、確かにそうである。
そして今日のハルカの配信を見た限り、頼りになる先輩と言って良さそうだった。
「よろしくお願いします、先輩」
「ああ、任せとけ、後輩」
珍しく冗談めかした微笑を浮かべるシオンに、遼もまた、冗談めかした調子で笑って見せた。
その笑顔を見ると、本当に全てが上手くいくような気がして、シオンは気持ちが楽になった。
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