第十七話 準備完了!
正樹が大人しくなったので、遼とシオンの学校生活は平穏そのものだった。
ただ二人とも、これまでよりちょくちょくクラスメイトに話しかけられるようになった。
放課後遊びに誘われることもあったが、現在は、クリスティナのもとで
用事があるから、と断り、授業が終わると二人連れだって急いで教室を後にする。
その後ろ姿を見て、誰もが「あの二人付き合ってるのかな?」と噂した。
正樹はその後ろ姿を、歯ぎしりしながら見ていた。
そして、遼とシオンが
その間、二人はクリスティナから様々な指導を受けつつ、
機材の操作や
と、そこへ──
『衣装完成したわよ。見にいらっしゃい!』
シュウ・フリーマンからその一報があり、二人は急いで〈虎ノ巣〉社を訪れた。
「んまあっ、きゃっっっわいいわねぇっ!!」
ドレスアップした遼とシオンの二人を見たシュウが、低めのイケボでそんな叫びを上げた。
遼の衣装はエプロンドレス。
シオンの衣装は騎士服。
ただし先日試着したものとは違い、二人の容姿や戦闘スタイルにフィットするよう一から作られたオーダーメイドだ。
見た目の印象は大きく変わらないが、随所でクオリティはさらにアップし、より二人の魅力を引き出している。
どちらも一見してまったく戦闘用の服には見えないが、着てみると非常に動きやすく、また衝撃に反応して防御障壁が展開する機能が組み込まれている。
ちなみに、お値段は一着五〇〇万円以上。
「ご、ごひゃく・・・・・・」
遼も
それでも五〇〇万円というのは異次元の数字だ。
「心配するな。収益化が通ったら五〇〇万くらいすぐに稼げる」
とはクリスティナの談。
この衣装は〈虎ノ巣〉社からの貸与という形になる。
〈虎ノ巣〉社の宣伝に協力する代わりに衣装を用意してもらう、という契約をクリスティナが取り付けた。
今後の反響次第では、〈虎ノ巣〉社の公式アンバサダーになってほしい、とシュウに頼まれている。
アンバサダーというのは宣伝大使というような意味で、もしそれに就任すれば、〈虎ノ巣〉社の広告塔として活動する代わりに同社の製品が使い放題になるらしい。
配信用衣装を身に纏った遼とシオンは、その場で軽く動き回ってみたり、クリスティナとシュウの指示に従っていろいろなポーズを取るなどして、衣装の具合を確かめた。
そのたびにクリスティナとシュウ、そして周囲の〈虎ノ巣〉の社員から感嘆のため息が漏れた。
「だいぶ品のある動きが身についたな、遼」
「本当ですか? よかった」
この二週間、遼はシオンの動きを観察して、彼女の持つ優雅さや上品さを身につけようと努力してきた。
ビジュアルというのは、見た目だけで完成するものではない。
“動作”というものも非常に大切だ。
歩き方、立ち姿、細かい仕草などをシオンを手本に洗練し、遼の女装はさらに
「こんな感じですか?」
クリスティナの要望に従い、その場でくるりと回転し、優雅に一礼する。
「・・・・・・ぐすっ。生きてて良かった」
「ボ、ボス!?」
「泣いてる・・・・・・」
「鼻血も出てるわよ、ティナちゃん」
それを見たクリスティナは、いろいろ垂れ流しながら感動していた。
今の遼の姿は、それほどの破壊力を持っていたのである。
さて、あとひとつ決めなければならないのは、
これは既にクリスティナが考案していた。
遼は〈ハルカ・ミクリヤ〉。
シオンは〈ハルノ・カノン〉と名乗ることになった。
「ハルカ、というのは遼という漢字の訓読みだ。ミクリヤは御厨、つまり厨房を意味する。料理人にぴったりの名だろう」
「結構単純ですね」
まあ、あまり複雑でも覚えにくいし、否はない。
「シオン、お前の名前は漢字だと“
「コンビ、ですか。はい、良いと思います」
こっちもまた、結構単純な由来である。
“コンビ”という言葉を聞いたシオンは、どこか嬉しそうに頷いた。
こうして、
そして、その次の土曜日。
ついに、〈ハルカ・ミクリヤ〉の初配信が行われた。
────
あとがき
ようやく初配信の準備完了
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