第四十二話 デートのお誘い?

 明るく、力強く、美しく、そして実に楽しそうに。

 スプリングフィールド家のリビングにある大型テレビの画面には、歌声を響かせる〈レン・スターライト〉の姿が映し出されている。

 新曲のプロモーションとして、地上波の歌番組に出演中なのだ。

 近年、迷宮配信者ダンジョン・ライバー界隈の盛り上がりは凄まじく、その中でもトップクラスの人気を誇る四天王は、下手なテレビタレントよりもずっと知名度がある。こうしてテレビ番組に呼ばれることも珍しくない。


 道を塞ぐ奴がいたら蹴り飛ばせ

 説教されたら耳を塞げ

 誰にも邪魔なんてさせるな

 自分のやりたいことをやるんだ

 怖がる必要なんてないよ

 わたしがお手本を見せてあげるから!


 自信に満ちた笑顔で堂々とそんなメッセージを歌い上げるレンを、シオンはソファーに座り、クッションを抱きしめながら見ていた。

 〈レン・スターライト〉は、魅力と才気に溢れた、まさしく星の光のように輝く存在だ。

 多くの人々が彼女に魅了されるのも、納得ができる話だ。

 シオンはふと思った。

 ハルカは──いや、御園遼はどうなのだろうか。

 彼もまた、レンに魅了されているのだろうか。

 彼女に憧れ、恋人になることを夢想したりすることがあるのだろうか?


「・・・・・・むうう」


 自分の想像で気分が悪くなり、シオンはうつむきながら唸った。


「きれいな子ねー。それに歌も良いじゃない。人気があるのも頷けるわ」


 シオンの隣に座り、のほほんとした調子で感想を口にしたのは、母のアリサ・スプリングフィールドである。

 アリサは〈ハルカノ・チャンネル〉を常にチェックしている。先日、ハルカがレンに抱きつかれた件ももちろん承知していた。

 それで、娘の前に突如として現れた強敵についてチェックしておこうと、レンの出演する番組を見ている次第である。


『ただ今お聴きいただいたのは、〈レン・スターライト〉の新曲で〈ロール・モデル〉でした! レンさん、素晴らしいパフォーマンスでしたね!』


 歌番組の司会が、ステージを降りてきたレンに興奮気味にマイクを向ける。


『自分でもとっても良い曲ができたなって思います。みんな、聴いてくれてありがとう! 動画サイトでPVも公開してるから、そっちも見てね!』


 無邪気な笑顔で、レンはカメラに向かってピースサインを向けた。

 それからレンと司会者は、新曲についていくつか質疑を交わした。

 作曲のきっかけや、歌詞に込められた想い、CDの発売日についてなど。

 それから──


レンさんの曲は動画サイト上で数多くのカバーが投稿されていますよね。今回の新曲もたくさんの配信者にカバーされると思いますが、レンさんの方から、この人に歌って欲しいという希望はあったりしますか?』

『もちろんハルカくんです!』


 ハルカの名前が出た途端、シオンはぱっと顔をあげて画面の中のレンを見つけた。


『ハルカ、というと、最近デビューした迷宮配信者ダンジョン・ライバーの〈ハルカ・ミクリヤ〉ですよね?』

『そうです! 絶対に似合うと思うから、歌枠でやってほしいですねー』


 先日の炎上など気にも留めぬ様子で、喜々としてハルカについて語るレンに、司会者は少し躊躇ってから訊ねた。


レンさんはずいぶん、彼のことを気に入っているようですね』

『もっちろん! すっごく可愛いし、良い子だし、意外とおっきくて凄く抱きしめ甲斐があるし、好きにならないなんて無理でしょ!』

『は、はあ、なるほど。では、今後のコラボの予定などは?』

『向こうが許可を出してくれたらガンガンやっていきたいですね。ハルカくんの手料理を食べられる日が待ち遠しいです!』


 ぶちっ。

 インタビューの途中で、シオンはテレビの電源を切った。

 自分でも何故かはわからないが、これ以上聞きたくなかったのだ。


「あっ、まだ見てたのに・・・・・・」


 と、アリサがつぶやくが、シオンは不機嫌そうに黙り込むのみ。

 アリサはその様子を見て、青春ねー、と心の中で思った。

 娘の考えていることは、手に取るようにわかる。

 要するに彼女は、レンにハルカを──遼を取られそうで、不安になっているのだ。

 シオンにとって遼は、今のところ唯一と言える親しい友人。

 そして探索者としても、また配信者としてもかけがえのないパートナーである。

 それにアリサの推理では、どうやらほのかな恋心を抱く相手でもある。

 もっとも、シオン自身はそのことに気づいていないだろうが。

 そんな相手が、レンのような魅力的な人物から熱烈なラブコールを受けているのだ。

 気が気でないのも当然である。


「あのね、シオン。遼くんを取られたくなかったら、自分からアタックしなきゃダメよ」


 アリサにそう言われて、シオンは顔を上げた。


「わたしは・・・・・・別に、そんなんじゃ・・・・・・」

「そういうのいいから。さっさとデートにでも誘っちゃいなさい」


 もごもごと口ごもるシオンを、アリサは一刀両断する。


「でっ、でーと・・・・・・」

「せっかくの夏休みなんだし、海にでも行ってきたら? なんなら、知り合いに頼んでプライベートビーチを予約してあげてもいいわよ」


 スプリングフィールド家の力をもってすれば、本国から遠く離れた日本の地でも、その程度のことは難しくない。

 引っ込み思案なシオンには、これくらいの後押しは必要だろう。


「うー・・・・・・いきなり海なんて、絶対引かれるよ・・・・・・」

「そんなことないわよ。世界一可愛いうちの娘に海に誘われて引く男がいたら、わたしが丸焼きにしてやるわ。さあ、さっさと電話しちゃいなさい」


 もはや海に誘うことは確定事項、といった感じで、アリサはシオンに迫る。

 と、その時、シオンのスマホが鳴動した。

 画面を見ると、『御園遼』と表示されている。


「あら、噂をすればかしら」

「・・・・・・ママ、ちょっとあっち行ってて」

「えー、仕方ないわね」


 シオンに言われて、アリサは仕方なくソファーから腰をあげた。

 まあ、気になる異性との通話を隣で親に聞かれるなんで拷問に等しいから、ここは大人しく退散してあげるとしよう。

 アリサがリビングから退散したのを確認すると、シオンは通話開始のボタンを押した。


「も、もしもし・・・・・・御園くん?」

『こんにちは、シオンさん。今、少し話せるかな?』

「う、うん。大丈夫」


 さっきデート云々の話をしていたせいで、妙に心拍数が早い。

 顔も赤くなっている気がする。

 電話越しの会話で、それが相手に伝わらないのは幸運だった。


『実は近いうちに、シオンさんと一緒に行きたいところがあってさ。そっちの予定はどうかなって思って電話したんだ』

「行きたいところ・・・・・・そ、それってもしかして、でっ、でー・・・・・・」

『でー?』

「な、なんでもない」


 これは、まさか。

 デートのお誘い、というやつではないだろうか。

 もともと赤かったシオンの顔が、さらに赤くなった。


「わっ、わたしはいつでも大丈夫。御園くんが行きたいなら、どこへでもついて行く」

『お、おう。ありがとな』


 ついつい力が入って、ものすごく大げさなことを言ってしまった気がする。

 が、半分は本心だ。

 遼と一緒に出かけることができるなら、目的地なんてどこでも構わない。

 嘘偽りなく、そんな風に思える。

 そんなシオンの胸の内を知る由もなく、遼は言った。


『シオンさん、〈ダーク・ネスト〉の時に会った桐花さんは覚えてるよな』

「覚えてるけど・・・・・・彼女がどうかしたの」


 遼がいきなり他の女の名前を出したので、シオンのテンションが微妙に下がった。

 桐花のことは、もちろん覚えている。

 クラン〈スターライト〉のナンバーツー。レンの側近を務める少女だ。

 レンをとても慕っているようで、レンに気に入られたハルカをあまり快く思っていないようだった。

 ハルカとレンを近づけたくない、という意味では、シオンと利害の一致する間柄である。


『いや、実は桐花さんにカラオケに誘われててさ』


 遼の口から出た爆弾発言に、シオンの思考はフリーズした。


『シオンさんも一緒でいいかって聞いたら、是非連れてきてくれって言われてさ。それでシオンさんに都合の良い日があるか聞きたかったんだけど・・・・・・シオンさん? おーい、聞こえてるか?』

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