第二話 火星の天気を気にするくらい不毛
その夜。
風呂に入り、歯を磨き、ベッドに倒れ込んだ遼は、寝る前の時間を使って早速、スマホで
すると検索サイトのトップに出たのは──
『
というニュースだった。
知りたかったのは
まず最初に目に入ったのは、雷電刀華その人の写真だ。
青を基調とした和風の衣装を身につけ、手には刀を携えている。
大和撫子、という言葉がこの上なく似合いそうな美人だ。
『“陛下”の愛称で知られる
「五〇〇万、って凄いな。想像もつかんぞ」
記事の内容は、まるで雲の上の出来事だ。
もし自分が
──絶対無理だろ、五〇〇人も無理。
と、そんな風に思う。
『なお、刀華さんのクラスは〈剣帝〉。剣士系の最上級クラスであり、“陛下”の愛称はこれに由来している。現在刀華さんはA級探索者だが、一年以内に特級に昇格するのではないかと言われており、これが現実になれば最年少記録を樹立する見込みが──』
「A級の〈剣帝〉か。・・・・・・C級の〈料理人〉とは大違いだな」
記事の内容を目で追いながら、思わずそんな呟きが漏れる。
迷宮探索者とは、その名の通り
さて、では探索者にとってもっとも重要な要素とは何か?
体力、度胸、頭脳、知識、経験、個性、ユーモア、美しさなどいろいろと意見が別れるところではあるが、一般的には“クラス”だと言われている。
たとえば〈剣士〉のクラスであれば、武器をオーラで覆い斬撃の威力を強化したり、剣圧を飛ばして離れた敵を攻撃することができる。
〈魔法使い〉のクラスであれば、炎の塊を飛ばす〈ファイア・ボール〉や、雷撃を放つ〈ライトニング・ボルト〉などが使える。
クラスを手に入れる一番手っ取り早い方法は、
だが他にも、魔素を豊富に含んだものを体に取り込んだりすることでも、クラスに覚醒することはある。
御園遼は膨大な魔素を含むドラゴンの肉を口にしたあの瞬間、〈料理人〉のクラスに覚醒した。
そして一度覚醒したクラスというものは、上級クラスに進化することはあっても、別のものに変更することはできないのであった。
「はあ、やめやめ。こんな人と自分を比べても不毛なだけだわ。火星の天気を気にするくらい不毛」
そう誰にともなく主張し、ネガティブな考えを振り払う。
たとえ〈料理人〉でも、上位探索者の仲間入りと言われるB級にまで昇格できれば、パーティに勧誘される見込みは十分あると思うのだが──
B級への昇格条件は、Cランク
つまり、仲間がおらずCランク
まあ、今はそんなことを考えていても仕方がない。
「それにしても、あの“ボス”がプロデュースしてるのか。それだけ凄い才能の持ち主ってことかな?」
クリスティナ・マクラウドについては、迷宮探索者では知らない者はいない。
何しろ、世界に十人といない
しかも、世界で唯一の
遼にとっては憧れの存在であり、はばかりながら、目標とさせていただいている人物でもあった。
『なお、マクラウドさんが突如として日本に活動拠点を移し、二年以上米国を離れていることについて、合衆国大統領は「我が国の国益を損なう行為であり非常に遺憾だが、怖くて本人には言ってない」とコメントしており──』
「はははっ、さすがボス。・・・・・・この人がドラゴンの倒し方を教えてくれたらなー」
あまりにもスケールの違う話に思わず笑い声が出た。
ボスも、そしてもちろん雷電刀華も、自分とはかけ離れた世界に住む人々だ。
それこそ、地球と火星くらいに。
まあ、そんなのは当たり前のことなので別に落ち込んだりはしなかったが、記事が配信の参考になったとは言えなかった。
結局その夜は、
翌日の朝。
遼は三人前のBLTサンドを作り、二人分を自分と琴歌の朝食にして、残った分を自分の弁当にした。
BLTサンドを作る際に重要なのは、良いベーコンを使うこと。
その点については心配ない。
使ったのは、〈ビーストランド〉で狩ったファングボアの肉から作ったベーコンだ。
ちなみに琴歌の中学校は給食が出るので、彼女の分の弁当は必要ない。
「本当は三食お兄ちゃんのご飯が食べたいんだけどなー」
とは、ここ数年ですっかり舌が肥えてしまった琴歌の談である。
さて、昨夜は雷電刀華のニュースを読んだだけで、
「そういえば、うちのクラスにも
朝の通学路を歩きながら、ふとそんなことに思い至った。
現在、御園遼は高校一年生。
彼が通う学校のクラスメイトには二人、遼と同じ迷宮探索者がおり、しかも一人はそれなりに有名な配信者でもあるのだった。
彼に頼み込んで、
「・・・・・・でも俺、あいつと話したこと一度もないんだよ。馬が合う気も全然しないし」
同じクラスになってもう一ヶ月以上経つが、どう頑張っても仲良くなれる気がしないので、今まで一度も話しかけたことがなかった。
・・・・・・でもとりあえず、聞くだけ聞いてみるか。
と、そんなことを考えながら、教室に到着すると──
「シオンさん、俺とパーティを組むって話、考えてくれたかい?」
「・・・・・・その話はもう断ったはずだけど」
同じクラスの二人の探索者が、教室の真ん中でクラスメイトたちの注目を集めていた。
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