プロローグその四 男の娘料理人の大胆不敵な宣言
特級探索者クリスティナ・マクラウド。
通称“ボス”。
世界に十人といない本物の
それが
口を閉じて物憂げな表情をすれば深窓の令嬢とも思える美貌の持ち主だが、今のところそんな姿を見せたことは一度もない。
自信と遊び心に満ちた、ガキ大将のように不敵な笑顔が彼女のトレードマーク。
その性格は一言で表すなら自由人である。
「カメラマンはさっきマネちゃんに代わってもらった。よって今は無職だ。仕事がなければビールを飲んでも問題あるまい」
『いや問題あるだろマネちゃんに謝れwwwwwww』
『無職wwwww言い方wwwwwww』
『無敵の人みたいな言いぐさで草』
『無敵の人(物理)』
『世界で唯一単独でドラゴン討伐した人だからなぁ。みたいじゃなくて実際に無敵の人よ』
『もうこいつがこの世界のラスボスだろってことでついたあだ名が“ボス”だからな』
『子供の頃の夢はスーパーサ○ヤ人でそれを実質叶えた史上唯一の人類』
『人類?』
ボスが登場した瞬間、もともと加速していたコメント欄がさらに勢いづき、文字列が滝のように流れていった。
同接もうなぎ登りと言える曲線を見せ、あっという間に十五万を超えている。
「あー、ボスにはサプライズで最後にちょっとだけ出てもらうつもりだったんですが・・・・・・我慢できなかったみたいですね」
「我慢は体に悪いというのがマクラウド家の家訓でな。私は忠実に守ることにしている。というわけでいただきます」
「どうぞ召し上がれ、ボス」
『ほんとに仕事放棄して食べ始めたwwww』
『ビールも飲んでるwwwwwさすがボスwwwww』
『マネちゃんなんか言ってやれ!』
『自由すぎて草』
『そりゃそうだ大統領でもこの人には命令できないんだぞwwwww』
『男の娘メイドに作らせた飯は美味いか? ボス』
「うむ(もぐもぐ)美味い(ゴクゴク)格別の味わいだ(ぷはーっ)。豚肉にありがちなベタッとした油の甘さがなくて実にビールが進むなこれは」
『完全に開き直ってて草』
『でも気持ちわかるわこれ絶対美味いしビールに合う』
『あーハルカくんの手料理食えるボスも、ボスに手料理食べてもらえるハルカくんも羨ましい』
『それな。実にそれな。心の底からそれな』
『ボスの趣味は実に格調高いと言える』
『ほんとに究極の自由人で趣味人だよそこに痺れる憧れる』
『ああもうコメントすら見てないぞこの人』
「えー、ボスが完全に食べるモードになってしまったので、それを背景に今後の配信について話したいと思います」
『シュールすぎるwwwwwww』
『すごい勢いで肉がなくなっていく』
『こんな豪華な背景見たことあるか?』
『世界中の配信者が嫉妬wwwww』
『百億積んでもこの背景は無理wwww』
一心不乱にボアジンジャーを食べ続けるボスを背後に、ハルカは居住まいを正してカメラに向き直った。
「今後のハルカ・ミクリヤの配信ですが、今日のようにモンスターとの戦闘とモンスター料理をメインにしていきたいと思います。今回はファングボアという楽な相手を獲物に選んだので短く終わってしまいましたが、今度はもう少し難易度の高い
『楽しみだけど無理しないでくれー』
『ハルカくんが怪我するところは見たくないぞ』
『ファングボアが楽ってことは少なくともCランクかな?』
『俺探索者だけど動き見た感じBランクかそれ以上だと思う。クラスがよくわからんからなんとも言えんけど』
『俺いろいろ探索者の動画見てるけど馬鹿でかい包丁出すスキルなんて見たことない。かなりのレアクラスと思われ』
『もっと難易度高いってことはCより上行くの? 一人では危なくない?』
『Cから上は一気に危険度上がるからなあ』
「あー、さすがにCランク以上の
『おおパーティ組むのか。相手は女の子? それとも男の娘?』
『普通の男という選択肢がなくて草』
『もしかして陛下? 陛下だったらちょっと面倒なことになりそうだが』
『どうなんだろ。ハルカくんめちゃくちゃ可愛いし陛下のユニコーンも黙るんじゃね?』
『陛下って視聴者だけじゃなくて同じ配信者とか探索者にもめちゃくちゃ人気あるからなあ。パーティ組んだらハルカくんの負担でかそう』
『しょっちゅう勧誘とかナンパされてるよね』
『陛下が悪いわけじゃないけどこればっかりはな』
『あーでもハルカくんが陛下を守る男の娘メイド騎士みたいになったら超絶てぇてぇかも』
『そ れ だ !』
『こいつボス並みの発想力持ってて草』
「ええと、パーティメンバーについてはまだ秘密ということで。あまり先走ったコメントはせず、腰を据えてお待ちください。で、俺の配信の最終的な目標ですが──」
と、そこで大きく息をついて呼吸と気持ちを整え、
「この手でドラゴンを狩って、ドラゴン料理を配信したいと思います!」
堂々と、そう宣言した。
ドラゴンとは、言わずと知れた迷宮最強のモンスター。
それを倒すという宣言は即ち、最強の探索者になるという宣言に等しかった。
『え、
『応援したいけど目標高すぎる』
『壮大すぎワロタ。世界で十人おらんのやぞ、わかっとんのか?』
『ボスが師匠やってくれるならあるいは』
『いや絶対無理だろ。人間やめてる特級探索者の中でもごく一部しか倒せないのがドラゴンだぞ』
『それでもボスなら・・・・・・ボスならきっとなんとかしてくれる!』
『なんかそう言われると出来そうな気がしてきて草』
『確かにボスが鍛えれば不可能じゃなさそうで草』
『お前らボスに無限の可能性感じすぎだろwwwww俺もなんかボスなら出来そうな気がするけどwwwwww』
「えー、ご声援? ありがとうございます。遼遠な目標ですが、ボスの指導のもと仲間と手を取り合って全力で挑む所存です。応援よろしくお願いいたします!」
『まあボスの言うことよく聞いてご安全にな』
『そうそう命が一番大事。でも目標そのものは応援するわ』
『収益化解禁したらスパチャしまくる! 装備とポーション代にしてくれ!』
『俺も俺も。はよスパチャ解禁してくれ』
『グッズとかCDも出してくれていいぞ! 絶対買う!』
身の程知らずの妄言としてもっと叩かれるかと思ったが、実際はそうでもなかった。
なんというか、ボスへの信頼感が厚すぎるという感じもするが──
お前のやることを応援する!
と、これだけの人にそう言ってもらえるのは初めての経験で、とても嬉しく、そして照れくさかった。
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