第三十九話 仲良くしてやらないこともない

 探索者協会から送られた情報をもとに、ハルカ、カノン、刀華、レン桐花キリカの五人パーティは、〈アイアン・アント〉の女王クイーンを目指して出発した。

 近接戦闘に特化したハルカと刀華が前衛として敵を食い止め、火力に特化したカノンとレンが後方から射撃。桐花キリカが遊撃手として全体を援護、というフォーメーションで進む。

 結論から言うと、一行はあっさり女王クイーンのもとへど辿り着き、その首を獲って迷宮災害ダンジョン・ハザードを終息させた。




「〈チェイン・ライトニング〉!」


 レン女王クイーンを護衛する〈アイアン・アント〉の群れに向けて腕を突き出し、魔法系の攻撃スキル〈チェイ・ライトニング〉を発動する。

 手のひらから放たれた白い大蛇の如き雷光が、蟻たちに次々に喰らいつき、焼き尽くした。

 〈魔法使い〉系のクラスは、元来範囲攻撃に長けている。

 その中でもレンの実力は、人外の存在である特級を除けば最高峰にある。

 黒い激流の如く押し寄せた〈アイアン・アント〉の大群が、数匹を残して瞬く間に倒れた。

 さらに――


「〈影渡り〉」


 桐花キリカは短くスキルの名を唱えながら、背中の鞘から〈雷電重工〉製の直刀を抜いた。

 その体が、水に潜るように足元の影の中へと沈んだ――かと思えば、レンの雷撃から生き残った蟻の足元の影から現れ、鋭い斬撃で止めを刺す。

 影から影へ瞬間移動する〈アサシン〉の移動スキル、〈影渡り〉を使った奇襲攻撃だ。

 桐花キリカは続けざまに影から影と転移し、一撃で急所を抉っていく。


「こんなものですか」

「雑魚は大したこと無いね」


 と、桐花キリカレンがそれぞれコメントする。

 〈魔導王〉のレンがド派手な範囲攻撃を撃ち込み、〈アサシン〉の桐花キリカが〈影渡り〉を駆使した奇襲でトドメを刺す。

 それがこの二人の基本戦術だ。


『レン様の火力ほんまエグいな』

桐花キリカちゃん相変わらず忍者やな』

『さすがA級コンビ』

『レン様はもうすぐ特級かな?』

『陛下とどっちが先に特級行くかよく話題になるよな』


 A級の〈魔導王〉レン

 A級の〈アサシン〉桐花キリカ

 二人のコンビネーションに、リスナーも沸き立つ。

 さらに――


「〈半月〉!」

「〈太刀風〉!」


 護衛を失って無防備になった女王クイーン――全長一〇メートルを優に超える巨大な女王蟻――に向かって、ハルカと刀華が立て続けに飛ぶ斬撃を放ち、頑健な外骨格を叩き斬る。


「・・・・・・これで終わり」


 最後はカノンが傷口に〈ジャベリン〉を叩き込み、女王クイーンを内側から粉々に打ち砕いて、戦闘は終了した。

 圧勝。瞬殺。そんな言葉が似合う戦いぶりだった。


『すげー一瞬で終わった』

『まあA級三人にB級二人ならこんなもんよ』

『ハルカノもB級にしてはかなり強いからな』

『それな。ギリA級くらいはあるんじゃね?』

『やっぱ陛下とレン様のコラボは最高だな』

 

 刀華と共演コラボや、レンとのハグで沸き起こった反応は、戦いに興奮するリスナーたちのコメントに押し流されて見えなくなっている。

 なんだかんだ言って、やはりリスナーは強い探索者が好きだ。

 強ければ何をしても許される――というわけではないが、それに近いのが迷宮配信者ダンジョン・ライバー界隈である。

 さて、戦闘および配信終了後――


「ちょっと戦力過多だったねー。あっという間に終わっちゃった」


 大きく伸びをしながら、レンが言った。


「あらためてちゃんと自己紹介するね。あたしはクラン〈スターライト〉のリーダー、〈レン・スターライト〉だよ。よろしくね、ハルカくん、カノンちゃん。こっちは桐花キリカ。ほら、挨拶して」

「・・・・・・よろしくお願いします、二人とも」


 レンに促されて、不承不承という感じで桐花キリカが挨拶する。


「ハルカ・ミクリヤです。よろしくお願いします、レンさん、桐花キリカさん」

「・・・・・・ハルノ・カノンです」


 ハルカが素直に挨拶し、カノンは警戒しながらレンの様子をうかがう。

 もう一度ハルカに抱きつこうとしたら、即座に間に入るつもりだ。


「うんうん、よろしくね二人とも。知ってると思うけど、刀華はあたしの一番の友達なの。その刀華にすっごく可愛い後輩が出来たみたいだから、ずっと会ってみたかったんだ」

「会ってみたかった、ってのはいいんですが・・・・・・」


 ハルカは苦笑した。


「いきなり抱きつくなんて、あり得ないです」


 カノンが不機嫌そうに言う。


「ごめんごめん、推しに生で会えた感動が抑えられなくて」

レンはもう少し、節度というものを身につけてください。いくら見た目が女の子でもハルカくんは殿方です。いきなり抱きつくなんてはしたないですよ」

「というか、出来れば相手が女性でも誰彼構わずハグしに行くのはやめてくださいませ」

「手厳しいなー、二人とも」


 刀華と桐花キリカに相次いで説教され、レンは頭をかいた。


レンさんは、その、大丈夫なんですか。炎上とか・・・・・・」


 ハルカは思わずそう訊ねてみた。

 レンがハルカに自分から抱きつく瞬間は、配信に思いっきり乗ってしまっている。

 まず間違いなく切り抜かれ、拡散させることだろう。

 レンのように見目麗しい配信者なら、熱狂的なファンもさぞ多いとは思うが・・・・・・


「あー、だいじょぶだいじょぶ。あたしはそういうの慣れてるから」


 と、レンは笑った。


レンは昔から、周りの反応や後先を考えずに、やると決めたことは必ずやり抜く性格なのです」


 と、刀華。


「まあ、あたしくらい有名になると何やっても絶対に何かしら叩かれるし。それなら、炎上なんて恐れずに自分のやりたいことをやったほうがマシでしょ? だからハルカくん、カノンちゃん、これからもあたしと仲良くしてね。桐花キリカとも友達になってくれると嬉しいなー。ねっ、桐花キリカ

「・・・・・・レンがそう言うなら」


 桐花キリカは仕方なさそうに頷いた。

 とはいえハルカを見る目は警戒心バリバリで、どう見てもお友達になりましょうという感じではない。


「仲良くしてやらないこともないです、ハルカ、カノン」

「う、うん。よろしく、桐花キリカさん・・・・・・」


 鋭い視線を浴びながらも、ハルカはなんとかそう言った。


「・・・・・・むう」


 そんなハルカの様子を見て、カノンは唸る。

 自分でも何故かはわからないが、ハルカに女友達が増えるのは面白くない。

 ましてやレンは、いきなりハルカに抱きついた不届きな輩だ。

 とはいえ先輩である刀華の友人である以上、邪険にもできない。

 仲良くしてくれと頼まれれば、嫌とは言えなかった。

 こうしてハルカとカノンの二人は、四天王の一人〈レン・スターライト〉と、その副官〈桐花キリカ〉との邂逅を遂げたのであった。


────

あとがき


執筆用キーボードの調子が悪い

ちょっとペース落ちてます

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