【配信外】落ち着いたから色々話す【プロゲーマー/百合】

『お疲れ~。なんか、色々大変だったらしいね~? オタクくんから少しだけ聞いたよ』

「ああ、心配かけてすみません。……ちょっとゲームの時間が取れないくらい忙しくて」


『まぁ、俺も軽はずみなアドバイスしちゃったかな~と思ってたからさ、またこうやってゲームができてうれしいよ。……一回さ、タイマンしない?』

「良いですけど、かなーり鈍ってると思います」


 案件から離れることを決めた翌日、ぐっすりと眠った後にヴォイドさんをゲームをやることになった。数日前から誘われていたのだが、スケジュールが合わなくて断り続けていたからだ。


 当然、ここ数日まともにS&Fをやっていなかったので、ヴォイドさんとの1VS1の打ち合い勝負は私の乾杯によって終わった。悔しいという気持ちはあるが、手に汗握る駆け引きと、プロとの読み合いは、本物の戦場に立った気分がして気持ちがいいい。


「……負けたのが悔しいんで、リベンジ良いですか?」

『言うねぇ!? いいよ、何回でも付き合うよ』


 ヘッドホン越しにケラケラと楽しそうに笑う声が聞こえる。明らかにテンションの上がった声をしながら、ゲーム内のフィールドを駆けていた。それに呼応するように負けじとキャラクターを操作する。


 結局、勝つ事は出来なかったけれど。やっぱり、ハンデも無しにプロに勝つというのは、なかなか難しいらしい。分かっていたけど、悔しい。……プロに誘われるぐらいなら、私にもワンチャンあるかと思ったのに。


『マコトくん、やっぱりゲーム上手いね?』

「さんざん負けた相手にそれを言いますか!?」

『いや、上手いよ。キャラを動かしながら、こっちの動きを読んだり、ブラフを張りに来たり、フェイントかましてきたりとか、複雑な操作が洗練されてる。全部、俺にはないスキルだから羨ましいね』


『俺と2人なら、S&Fの頂点を取れるかもしれない。マコトくん、配信者やめて、プロになろう?』


 ……何度目か分からない勧誘。私はチャンスを潰したくなくて答えを引き延ばしてきた。でも、もう迷わない。


 私が本当にやりたいこと、守りたいもの、一緒に居たい人、目標を見つけたから。


「プロゲーマーには、なりません。今まで通り、配信者として活動していこうと思います」

『……今日、誘われた時点で、そんな気はしてたよ』


 彼は自嘲気味に笑う。

 おそらく、本気でがっかりしているであろうことと、それを分かっていたかのような、複雑な感情の混ざった声だった。それを推し量ることはできないが、不思議と罪悪感は抱かなかった。


 それは、自分の選択に後悔が無いからだ。


『一応、理由聞いてもいい?』

「……うまく言えないですけど、いいですか?」


 ヴォイドさんが少しだけ楽しそうに笑って、椅子を鳴らす。


「僕が配信者を始めた理由を、考え直すことがあって。そこで、思い出したんですよ。僕が会社を辞めて配信者を選んだのは、自由気ままに過ごす自分を肯定してほしかったんだって」

「僕の知ってる配信者は、皆楽しそうで、素の自分を受け入れてもらえて、なんて羨ましいんだろうって。自分もそうなりたいって思ったんです」


『プロゲーマーマコトは、そうなりたい自分じゃないってこと?』

「……はい。私の目標は、もっといろんな人にマコトを肯定してもらいたい。否定でもいい。とにかく知ってもらいたい。自分を変える理由が欲しい。変わる過程を見ていてほしい。もっと、自分を好きになりたいんです」


「プロゲーマーでも十分叶えられそうですけど、僕はもっと上の景色が見たいんです」


 ……その過程で、ほのかを失わないことが絶対条件だけれども。


『ゲームの頂点じゃ満足できない?』

「その程度じゃ、マコトは真琴を好きになれません」

『……OK。勧誘は止めるよ。でも、またゲームに誘ってもいい?』


「それはもちろんです!! 大会が終わったら、いっぱい遊びましょう。企画、考えておきますから」


 最後に2人で、銃を構え合ってゲームを終えた。最後の最後まで勝てなかったけれど、今度遊ぶ時までに一泡吹かせるぐらいまでは行きたいなぁ。


 それから数時間後。

 ほのかが学校から帰ってきた。いつもならバイトに行く頃だが、今日こそは一緒に夕食を食べると言って譲らなかったのだ。もちろん、私もそれを楽しみにしていたけれど。


「ご飯できてるよ。オムライス~」

「やった。真琴の作るオムライス大好き!!」


 制服からラフなパーカーへと着替える。紺色の地味なその服は、私の記憶が確かなら、ほのかの物じゃないはずだけど?


「それタンスにしまってたよね!? いつ引っ張り出してきたの?」

「だって、今日クーラー利かせ過ぎで肌寒いんだもん」


 さっきまでゲームに熱中していた時、勢い余って部屋の冷房をかなり極端に下げたことを思い出した。

 寒そうなほのかを抱きしめながら部屋の温度を戻すと、私の手を振り払って食卓に着く。


「えぇー、今日はくっ付いていい日じゃないの?」

「まだお風呂入ってないからダメ」

「お風呂入った後ならいいの?」


「そ、れは……。お風呂入った後もダメ!! 恥ずかしいから」

「のかちゃ~ん、お風呂一緒に入りたいな~」

「のかちゃん呼びやめて!? わかったよ、一緒に入ればいいんでしょ!!」


 顔を真っ赤にしながらオムライスの上にケチャップを掛ける。崩れたにこちゃんマークを自分の席に置いて、ハートの絵を描いた方を私の席に置いた。


「ほのかは、なんだかんだ言って、ツンデレなんだから~」

「はぁ? 変なこと言うなら、オムライス2つとも食べるよ!!」


「……それは太るからやめた方がいいと思う」

「真琴はガリガリすぎるから、そのぐらい食べた方がいいと思う」


 おっと、思わぬキラーパスが。真琴に1000のダメージ!!

 おお、真琴よ。死んでしまうとは情けない……。


「ダメージ高くない!? っていうか、真琴の防御力が弱くない!?」


 フライパンを片付けながらふざけていると、ほのかはオムライスの前で食べずに待っている。先に食べてていいと声を掛けると、呆れたように大きなため息を吐かれてしまう。


「真琴も早く食べないと、一緒にお風呂入る時間無くなっちゃうよ? どうせ長くなるんだからさ」

「……そっか、そうだよね。ほのかは明日も学校だもんね~」


 耳まで真っ赤にしながら言う彼女をニマニマと笑いながら見つめる。恥じらいと怒りの混ざった表情で、私の鼻をつまむと可愛いうなり声をあげる。


「真琴。いろいろ頑張ってたよね。いつも、私のためにありがとう」

「ううん、私こそ。こんなダメダメな私の傍に居てくれてありがとう。ほのか、大好き」


 待たせてしまった分と心配かけた分、両方合わせてたっぷりの愛情で応えた。













『じゃあ、今日の配信はここまで。結局、夏帆しか攻略出来なかったから、他の娘ルートはまた今度配信でやりたいと思いまーす。今夜、君と夢で会えますように。SeeYouAgain』


 短髪の男が、マコトchannelの動画を見ていた。

 つい昨日、ゲリラ的に行ったギャルゲー配信のようだ。局所局所を繰り返しながら、何度も何度も執拗に再生し続けている。ついには、遡るように別な動画も見始めた。


「マコトchannel……。俺は、必ずお前を……」


 強い思いのこもった眼でマコトが話す画面を見つめ、男は整った顔立ちを思いきり歪ませた。

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