【コラボ打ち合わせ】陰キャなのに、社長&秘書と打ち合わせです!?【御曹司/Vtuber】
『お待ちしておりました、マコト様。私、レウス様の使用人をしておりますセバスチャンと申します』
『はじめまして、マコト。Vtuberレウス改め――
モニター越しには爽やかな短髪の青年と、彼の背後で腰を折る黒スーツの女性が立っている。相手の厚意に甘えさせてもらって、私はカメラをつけていない。
「よ、よろしくお願いします!!」
レウス――王也さんが名乗ると同時に、懐から名刺を取り出してカメラの方へと向けた。少しぼやけてはいるが、長ったらしい肩書と彼の名前が刻まれている。
名刺なんて持ってないし、作法だって怪しいが、なんとか挨拶を返した。
『なかなか、時間が取れず夜遅い時間での打ち合わせになってしまったことを先に詫びておこう。それと、今回はコラボを受けてもらって大変感謝している』
「ああ、いえ、こちらこそ。神天皇グループの御曹司様とコラボできるなんて光栄です」
少し失礼な物言いになってしまったかもしれないが、緊張しすぎて配慮する余裕だってないのだ。私が前に勤めていた会社だって、大元は神天皇グループの子会社だった。つまりは、かつての超上司のご子息と配信者として遊ぶわけで――。
……私の胃に穴が開かないのは、打ち合わせが始まるギリギリまでほのかと手を繋いでいたからだ。
『さっそく、本題に入ろうか。今回の企画、いくつか考えてあるので聞いてもらえるだろうか?』
「あ、ぜひ、お願いします!!」
『では、王也様、スライドの準備をいたします。私の画面共有いたしますので、ご覧ください』
まるで会社員と話しているかのように思えるが、相手は日本を代表する超巨大企業の広告塔という立場であり、それに準じた対応をしているだけなのだろう。逆にいえば、まともな資料の準備も無かった先の案件配信の担当者の杜撰が見えるということでもある……。
『案1としては、S&Fのランクマッチになりますね。マコト様のゲームセンスを前面に押し出し、レウス様がサポートに回ることで、互いの実力をハイレベルまで押し上げます』
『次に、案2がカジュアルマッチ。ランクより真剣味は薄れますが、ほぼ同程度の効果が得られると考えています』
『案3として別なゲームというプランもありますが……』
『今、話題に乗っているゲームの中でコラボ配信向きなものは少なめだ。というのも、Vtuber企業のトップを走るVドルでは大人数でのコラボが連発されていて、ゲーム配信のブームが5人以上推奨のゲームばかりになっている。2人で出来るゲームでは数字が取りにくい』
「ああ、だから、一定のファン層を獲得できるソルファイを選んでるんですね……」
前回、レナちゃんと遊んだアンハビをよりハード&シビアにした大規模無人島サバイバルゲームが人気になっているタイミングで、それ以外のゲームでは視聴者数は少なめである。
常に一定の人気があるソルファイやファンクエ等であれば関係ないだろうが……。
『それと、夏だからということでホラー企画も考えたのだが、俺とマコトではリアクションが薄すぎて、視聴者がつまらないと感じるだろうな』
『イケボが2人でホラゲーというのも、乙ではありますがね』
『……鈴音? 何を口走っている?』
たしかに。私一人のホラー配信は、そこまで視聴者が多くはない。
『S&Fのランクマッチで、マコト様がメイン、レウス様がサポートをこなすことで、お互いのアンチが下火になるのではという打算もあります』
『俺の高圧的な態度が気に食わない層もいるからな。逆にマコトの消極的な性格に苛立っている連中もいることを考えると、火消しが出来るならしておきたいだろう?』
「……それはもっともな意見ですけど、僕の配信スタイルに合わないんですよね。立ち回り重視で戦闘を最小限にしながら勝つのが僕の売りなので」
搦め手と呼べるほどでもないが、単純なメタ読みや複数作戦の同時進行などが私のソルファイスタンスだ。それもこれもヴォイドさんに勝ちたい一心で編み出したことだけれど。
……それで戦った結果? そんなもの聞かずとも私の全敗に決まっているでしょ。
『となると、やはり、カジュアル配信か。日程はどうする? 明後日以降で近い日は?』
「あ、ごめんなさい。明後日は別件でコラボの予定があって……。その次の日はどうですか?」
『どうだ、鈴音』
『……昼間はCSAAの面接。夜は小鳥遊フーズの営業部長と食事会がありますね』
「ああ、そしたら……来週とかなら全部空いてるので」
『いやこのコラボは早い方が良いな。今の俺は注目を浴びてる状態だ。他のニュースで塗り替えられる前に、大きいコラボを打ちだしておきたい』
『しかし現実問題、日程に不安がありますよ? しいて言うなら、19日の夜ならば……』
『土曜日か……。ソロ配信の予定は潰そう。その日ならばどうだろうか?』
「あ、その日は空いてます。18時以降であればいつでも」
『ならば、19時だ。そうだな……最低2時間と見てもらいたい』
「わかりました。……とりあえずは、このぐらいでいいですかね?」
『そうですね。追加の連絡事項あれば、追ってメッセージを送りますので』
『では、19日の19時から。よろしくお願いします』
「よ、よろしくお願いします!!」
そう言って、通話を切る。
レナちゃんやらんさん、ヴォイドさんと話す時とは、また違う緊張感。人と話すことが苦手な私でも無理やりテーブルに着かされるような息苦しさ。やっと解放されたと言わんばかりに、一気に冷や汗とため息が湧き出てくる。
「ねぇ、真琴。さっき声聞こえちゃったんだけどさ、18時からレナちゃんの相方って人と編集とか切り抜きの勉強するんじゃなかった?」
「……あ!!」
――完全に失念していた。私から言い出してお願いしたことだというのに。
慌てて時間をずらしてもらえるように伝えるが、今すぐに返事が返ってくるわけでもない。ドギマギしながら、待っているとほのかがため息を吐く。
「やっぱり真琴は、なんでもかんでも背負い込んで無理するよね。私が小さい頃から変わってない」
「ちょっとまってよ。別に無理なんてしてないよ? むしろ、逃げてばっかりで……」
「本当に逃げてばっかりなら、私のこと誘拐なんてしないでしょ?」
答えに詰まって目を逸らそうとすると、急に距離を詰められて下からのぞき込まれる。
「真琴は、いつも私のために無理をする。ずっと意味が分からなかったけど、最近、少しだけ理解できるようになってきたよ? それって、私をスキってことなんでしょ?」
それはずっと私がほのかに言い続けてきたことだが、少し、ニュアンスが違うように思えた。なんというか、彼女がわずかに普通に近づいているような。うまく言えないが、そんな感じだ。
ほのかが、少しずつ、何かを理解し始めている?
「やっぱり、私も手伝いたいよ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます