【5万人祝い】ゆるふわJKとお祝いパーティー【百合/カップル】

「真琴、そこのお皿持ってきて~」

「はーい、コレでいい?」

「ありがとう~。今、料理中だからお尻触らないで」


 手の甲を軽く叩かれて、振り向きざまに頬にキスをされた。驚いて目を丸くすると、さらにもう一度、今度は唇へとキスをされる。


「なーんで、真琴はエロ親父みたいなのかな~?」

「おお、さすがに傷つくよ?」

「そんなお豆腐メンタルの人は、私のお尻触ったりしないから」


 私のチャンネル登録者数が5万人を超えたことを記念して、ほのかが私の好物であるハンバーグとオムライスを作ってくれている所だ。ただ、お祝いには遅すぎて、すでにチャンネル登録者は6万人後半、もうすぐ7万人に届くころだ。


「ほのかも料理上手くなったよね~」

「……そりゃそうでしょ? そもそも、同棲始めてから、それなりに料理出来てたよ?」

「ほら、小学生の頃は、ハンバーグ丸焦げで卵はほぼ生だったじゃん」


「いつと比べてるの!? 幼馴染特有の比べ方止めてくれる!?」

「懐かしいな~。また、卵の殻が入ったオムライス食べたいな~」


「どう考えても、2度と食べたくないものじゃない!? 思い出補正にも限界があるよ!!」


 ほのかをからかいながら笑っていると、手を洗っている最中の彼女は水滴を飛ばしてきた。ヨレヨレのスウェットが水に濡れるのも構わずに思い出話を続けていると、いい加減ほのかの顔がけわしいものとなってくる。


 圧にビビって口を閉ざすと、中指でソファを指さされ『座って、食え』と無言のまま伝えてくる。


「あ、ああ、オムライス美味しいな~」

「よかったね~。真琴はオムライス好きだもんね~? 今日は一緒にお風呂入らないから」

「そんな殺生な!! そ、それだけは勘弁を!!」

「やっぱりエロ親父みたいだよね!?」


 あまりにもひどい言い草だが、自分で振り返ってみてもその通りなので何も言い返せなかった。

 出来たばかりのオムライスを口にすると、ケチャップの酸味と卵の甘さに包まれ、最高に美味しかった。やっぱり、今のほのかの手料理が一番おいしい。


「真琴の方には愛情たっぷり入れておいたからね」

「あ、ありがとう……」

「ん。……いや、耳赤いけど!? そんなに照れられると、私もアレなんだけど」


 少しだけ2人の間に沈黙が生まれる。

 長ったらしい髪が煩わしくて、後ろで結ぼうとするが、どうにもうまくいかない。微かに笑ったほのかが私の後ろに立って、髪を梳いてくれる。


「そろそろ切った方が良いんじゃない?」

「ほのかに髪乾かしてほしいから、しばらくこのままが良いかな~」

「美容室行くのが嫌なだけでしょ……。また着いて行ってあげるから、明後日ぐらいに行こう?」


 優しい微笑みを浮かべたまま「予約取っておくからね?」と言葉を続ける。ほのかに髪を結んでもらったりするのが好きというのも嘘ではないのだけど……。


「思い切ってバッサリ切る?」

「いや、顔晒したくないから、長いままでいいです!!」

「あっそ……。ちなみに、私はどんな髪型がいいと思う?」


 振り返って、少しあきれ顔のほのかを見つめる。耳が隠れる程度のボブヘアーで少しだけ後ろで結んでいる束が子猫の短い尻尾のようで可愛らしい。


「ほのかももう少し伸ばしたら?」

「……じゃあ、そうしようかな」


「あ、美容室の予約、明後日で大丈夫? 配信する?」

「明後日は、火曜日? 夜に配信するけど、雑談だし準備とか少ないから大丈夫。出来れば、14時ぐらいがいいかな~」


「今日は配信ないんでしょ? 明日は?」

「明日はー、ゲーム配信かな」

「何のゲームやるの? 怖いやつ?」


 なんだか、珍しいぐらいにあれこれ聞かれる。

 明後日の予定はともかく、美容室に関係ないであろう明日の話までし始めるなんて妙である。


「たぶん、ソルファイかアンハビ? ホラー系は被りそうだからやめておこうかな~とか考えてる」

「ざっと調べた感じ、有名な配信者さんは、明日ホラー出す予定ないらしいけど?」


「なんで、そんなこと調べてたの!? っていうか、いつの間に?」


「納涼ってことで、ホラー軸に企画考えてもいいんじゃない? 視聴者から募集する系だと、明日の配信は間に合わないだろうし、ネットの洒落怖とか読む配信とかいいと思う」

「……それ、誰の入れ知恵? っていうか、急にどうしたの!?」


 今まで私の応援をすることは多々あったが、ここまで具体的にアレコレ口出してくることは少なかった。そもそも、私の配信を見る以外でYouTubeを開いていることだって稀なのに。


「いや、真琴が頑張ってるから私もアドバイスしたいなと思って」

「気持ちは嬉しいけどさ……。ああ、ほら、ちょうどレウスが配信始めたよ? 私、気になってたし、一緒に見ようよ」


 なんだか、彼女の思惑に気づいてしまった気がして、露骨に話を逸らした。何度も言う通り、私が配信者を目指したのは私のエゴだ。ほのかを巻き込みたくはない。


「私も、レウスとセバスチャンみたいに軽快なやり取りが出来ればいいんだけどね」

「……さすがに、私が相手になるわけにもいかないしね~」


 なんとなく気まずくて、2人無言でレウスの配信を見る。

 いつのまにか、テーブルには空の皿のみになっていたけれど、片付けるために立ち上がることすら出来ずに、お互いをけん制するようにチラチラ眺め合う。


 レウスが何度目か分からない敗北をして、深いため息を吐くと、話題は意識している配信者について聞かれていた。やはり、YouTubeの重鎮にしてトップオブトップ『ヒカ〇ン』だろうか?


「――その中でも『マコトchannel』は登録者5万人を超えていて、記念配信でのスパチャの金額も相当だったからな。さらにゲームも上手いとなると、尊敬せざるを得ない」


 マコトchannelか~。聞いたことある名前だ。

 たぶん、私も少し見たことがある配信者だったと思う。


「……いや、私じゃん!!」

「……いや、マコじゃん!!」


 しばらく話を聞いていると、コラボの打診をされているなんて言う話があった。覚えが無くて混乱しながら、恐る恐るパソコンのメールをチェックする。

 確かに、送信日が昨日の日付でレウスさんと思われるアドレスから連絡が来ていた。


「……5万人記念配信終わって、しばらくしてからのメッセージか」

「あー、この時って、アレの時だよね。そりゃ気付かないか~」


 ほのかはアレの時なんて怪しく言っているが、ただ、2人でベッドに寝ていた時のことである。――うん、十分怪しいじゃないか。むしろ真っ黒である!!


「こ、コラボ!? ど、どうしよう!! ほのか――」


 そこまで言葉を続けて、思いとどまる。また、ほのかを理由にやるやらないを決めるのか? あれだけ、配信に向き合って、自分の意思で頑張ろうと思い直したのに!?


 ――違うだろ、配信者マコト。

 自分の原点を思い出せよ。努力する理由を思い出せよ。


「ほのか、ごめんお祝いは中断。レウスさんへの返信考えてくる!!」

「手伝わせてよ……!! お願い、私も――」


 何かを言う彼女を無視して、配信部屋の扉を閉めた。

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