【ファン交流会】2人のオタクがマウント勝負(一方的!?)【疑似オフ会?/声フェチ】

「あ、急に声掛けちゃってごめんね。その人、私も知ってるからさ」

「わぁ、身近にファンがいるなんて思いませんでした!!」


 ファンというか、彼女です。同棲してます。……とは言えないので、薄く苦笑いをして頷いた。


「優里ちゃんはさ、……あ、優里ちゃんって呼んでもいい? 私もほのかって呼んでほしいからさ」

「あ、ハイ。大丈夫です」

「優里ちゃんは、マコトくんのどこが好きなの? やっぱり声?」


 私が聞くと、少し恥ずかしそうに顔を伏せて、三つ編みを弄る。その様子が抱きしめたくなるぐらい可愛くて、笑みがこぼれた。……なんだろう、真琴みたいなことを言っている気がしてならない。


「えっと、そうですね。マコトくんのことを知ったのは、つい最近なんですけど、声がすごくカッコよくて……。聞き心地が良くて、凛としてて、はしゃいでるときは子供みたいに可愛くて、優しくて暖かくて好きなんです」

「めっちゃわかる!!」


 思わず心からの共感の声が漏れ出てしまった。

 本人は不幸を嘆くような不機嫌そうな声と自虐しているが、傍から聞けば、ただ落ち着いているだけの綺麗な声だ。まぁ、表情の陰鬱さと合わせれば、悪く言いたくなる気持ちも理解できるが……。


 真琴の顔って、ボーっとしてるとき、眉間にしわが寄ってて怖いんだよね。


「最近知ったってことは、一昨日のコラボ配信とか?」

「あ、いえ。先週の初コラボの時に初めて見ました。もともと、らんちゃん……。桃涼らんちゃんっていう、Vtuberが好きだったんです。知ってます?」


 桃涼らんといえば、桃色の髪をしたアニメキャラクターのような子だ。コラボ動画に出ていた娘で、可愛らしい声をしていたのを覚えている。ほわほわとした雰囲気だけど、マコトのボケやレナちゃんの天然にツッコミを入れていた。


 私はVtuberを見ることはないが、真琴がたまに話しているのは聞く。マコトと何が違うのかはよく分かってないけれど。


「私、あんまりYouTube見ないから詳しくないんだけど、マコトってVtuberではないの? そもそも、Vtuberって何? アニメキャラクターが配信やってるってこと?」

「あ、マコトくんは普通の配信者って感じですね。Vtuberはイラストアバターを使って配信する人たちのことを言うんです。マコトくんって、特にアバターとか立ち絵って出さないですよね」


 マコトの配信画面は、ゲームの画面と視聴者のコメントだけが表示されているだけ。プロフィール写真も私が小さい頃に描いた落書きのような似顔絵のはずだ。たしか出会ってすぐの時に描いたものだった気がする。辛うじて人の顔だと判別できる程度だけど……。


「私、可愛い声とかかっこいい声がすごい大好きで。声優オタクなんですけど、最近はらんちゃんとマコトくんにハマってるんです!! ほのかさんは、いつからマコトくんのファンなんですか?」


 いつからと聞かれれば、真琴が中学生の時から。マコトのチャンネルの最初の登録者ですよ。……とはもちろん言わない。

 いちいちマウントを取ろうとするなんて、同棲している彼女がやるにはダサすぎるし。


「まぁ? 私は? なんか、結構最初の方から知ってるって言うか~?」


 私はとてもダサかった。むしろ痛々しかった。


「ほーのか!! あれ、珍しい組み合わせ。新田ちゃんとお話してたの?」


 とても残念で性悪な性格をしている私に救いの手を差し伸べてくれたのは、ポニーテールを揺らしながら片手にパンと小銭入れを持った奈緒だった。


「ああ、売店行ってたんだ」

「そだよ~。それより、新田ちゃんと何の話してたの?」

「あ、えっと……その……」


 突然やってきた奈緒に委縮してしまったのか、優里ちゃんは慌てたようにスマホをカバンにしまって、俯いてしまった。

 なんか、真琴を見ているようだ……とか言ったら失礼かな?


「YouTubeでかっこいい声の人が居るって話。奈緒も見る?」

「男の人? 私、あんまりYouTube見ないんだよね。たまに動物の動画見るぐらい」


 思い返してみれば、奈緒がYouTubeを開いているときを見たことがない。大抵、インスタかTikTokしか見ないもんね。いや、私もマコトの動画ぐらいしか見ないんだけどさ。


「あ、動物のチャンネルなら、いいの知ってますよ。ニャンボの家ってチャンネルなんですけど……」

「へぇ、何それ。ちょっと興味あるかも。まって、今調べる!!」


 無類の動物好き、中でも猫が大好きな奈緒が優里ちゃんと一緒に動画を見始める。私も後ろからのぞき込むと、2人の間に挟まって動画を見る。可愛らしい猫の動画に私達3人が癒されていると、唐突に美紀と翔太が声を掛けてきた。


「奈緒~、ほのか~、何してんの~?」

「猫の動画? 新田さんって、こういうの好きな系?」


 私たちが声を掛けた時よりも怯えた表情を浮かべる優里ちゃん。震える手でスマホの電源を落として、固い愛想笑いを浮かべた。なんとなく、2人のことが苦手なのだろうと察して、奈緒を目くばせをした。


「優里ちゃん、あとでね。また喋ろうね。……今度はマコトくんのこともね」


 後ろの言葉は優里ちゃんにしか聞こえない程度の小声で。

 美紀と翔太は不思議そうにしてしつこく聞いてくるが、奈緒が上手く誤魔化してくれた。結局その日は、優里ちゃんと話すことが出来なかった。一応、連絡先は聞けたから、まあいいか。


 家に着いたのは21時半ごろ。学校が終わってから真っ直ぐバイトに行くので、ようやく真琴と話せる時間だ。リビングで着替えていると、配信部屋兼、寝室から寝癖だらけの真琴がやってくる。

 よれよれのスウェットからヘソを覗かせながら伸びをした。


 病的なまでに白い肌が見えて、思わずドキドキしてしまった。……マズい。また真琴みたいなことを言い出しちゃった。もう、悪いところも移ってるんだろうなぁ。


「ほのか、お帰り。ご飯食べる?」

「うん、ただいま。真琴も配信終わり? ご飯?」

「そう。今日は雑談枠だったけど、結構盛り上がってくれたよ。コラボ配信の裏話とかね」


 あとで寝る前にアーカイブを見よう。


「あ、そうだ。今日学校で、マコトのファンって子がいたよ」

「マジ? どんな子? ほのかみたいな感じ? お友達なの? サインとかいるかな?」

「サインは要らないでしょ。そもそも渡せないし!!」


「そこはほら、ほのかが上手いこと言ってくれれば」

「どう誤魔化せと!? さすがに無理だよ」

「いやぁ、コミュ強のかちゃんなら余裕でしょ~」


「マコから見れば、だれでもコミュ強でしょ。あと、どんだけコミュ強でもサインを渡せるような言い訳は思いつかないと思うよ」


 なにより芸能人を気取ってサインのアイデアを思案する真琴が滑稽だった。

 いや、滑稽というと馬鹿にしているような気がするし、嘲笑が混ざりすぎているかもしれない。じゃあ言葉を選んでアホらしいと言い換えよう。


 変わんない? まぁ、それはそれでもいいか。


「さーてと、ご飯食べたら、もう1本ゲーム実況の撮影しようかな~」

「……昨日も徹夜したんだよね? 大丈夫なの?」


 心配する私をよそに、真琴は無根拠の大丈夫を言って、ニヘラと笑った。

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