【ピリピリ学校生活】リアルボッチ回避ゲーム【いじめ?/青春】
強い雨が窓を叩く。
少し憂鬱な気分を引きずりながら奈緒と一緒に売店の列に並んだ。インスタを見ている奈緒を横目に、マコトの配信用Twitterを見た。台風にはしゃいで子供みたいなこと言ってる……。
「あれ、優里ちゃんじゃん!! ジュース買いに来たの?」
「そうです。どうしてもモンエナ飲みたくなっちゃって……」
冷たい感を手にする優里ちゃんの顔は、うっすらクマが滲んでいるのをヘタクソなメイクで誤魔化している形跡がある。昨日はマコトの配信が深夜まで伸びたらしいから、そのせいかもしれない。今朝、眠そうにしている真琴を見かけた。
私には夜更かしするなと注意する癖に……。真琴は少し自分の体にも気を使うべきだと思う。
「ほのかさんは、昨日の配信見ました?」
「ううん、まだ見てないんだ。帰ったら見るよ」
最初の方だけ見て、あとは眠くなったから寝た。一応、盛り上がっていた理由と、その結末までは本人から聞いている。けれど、自称・弁えたオタクの優里ちゃんはネタバレ防止のためと言って口をつぐんでしまった。別に私は気にしないんだけど……。
「あ、ほのかさん、マコトくんのTwitter更新されてますよ。……天気の話なんて珍しいですね」
「そうだね。いつも、動画と配信の告知ぐらいしかしないのに」
優里ちゃんとマコトの話で盛り上がるが、すぐに私の会計の番が来て、離れていってしまった。もう少し話していたかったけど、いつまでも引き留めるのも悪いかな。
同じく売店でパンを買った奈緒と合流して、教室まで戻る。すでに、美紀と翔太と健斗が私の机を囲んでお弁当を食べ始めていて、1つ前の席に優里ちゃんの姿はない。翔太と美紀が手招きをするので、3人の下に駆け寄った。
「ほのか、売店行ってたんだ。ついて行けばよかった」
「翔太、金無いとか言ってたじゃん」
「なんも買わないのは邪魔だし、迷惑っしょ~」
「美紀も健斗も、そっち少し詰めてよ。私たちが座れないでしょ」
「お邪魔しま~す」
美紀が明けてくれていた席に座って、買ってきたばかりのサンドイッチを食べ始める。飲み物を飲んでいた健斗が口を離して、思い出したように呟いた。
「邪魔も何も、ここって元々ほのかちゃんの席っしょ」
「……あ、ホントだ」
「むしろ、うちらが邪魔してる的な?」
「え、何、俺邪魔か~?」
邪魔とは言ってないよ。ただ、体がデカいし、筋肉質だから、ぶつかると痛いなと思うだけで。まぁ、分かりやすく言うと邪魔ということになるけれど。
「そういやさ~、美紀が前に言ってたやつ、何時にするか決まったの?」
私の隣でご飯を食べていた奈緒が、スマホを片手に呟いた。全員が一瞬だけ、何の話だろうと首をかしげたが、1番初めに翔太が気付いたようだ。
「あ、ああ、日曜飯行こうって話? そういや、決まってねぇかも。美紀、集合時間とか言った?」
「そういえば俺も聞いてないっしょ~」
おそらく企画主であろう美紀が、バツの悪そうな顔をした。伝え忘れていることを恥じらっているようにも見える。
「あ、ごめん。マジでなんも考えてなかったわ~。ちょうどいいし、今話しちゃう?」
「おいおい、しっかりしてくれよ~」
「言い出しっぺが忘れるとかないっしょ~」
奈緒が何気なく、どこに行きたいかと尋ねてくれる。しかし、私は答えることが出来なかった。頭の中で嫌な妄想ばかりがグルグルして、震えた声がそのまま漏れ出す。
「わ、たし、その話、聞いて、ない、かも……?」
「え?」
私と見つめ合う奈緒の目が、一瞬だけ鋭く光って美紀を睨んだ。……ように見えた。もしかしたら見間違いかもしれない。うん、気のせいだろう。
「美紀、誘ってないの?」
「え、ほのか来ねぇの? バイトとかある系?」
「……美紀?」
「……え、マジで? 私、ほのかに話さなかった? 昨日、奈緒と一緒にさ」
そう言われて、咄嗟に昨日のことを思い出す。しかし、特に思い当たる節がない。美紀と奈緒と私の3人で話したのは覚えているが、ドラマの話だけで、遊びに行くなんてことを聞いた記憶はなかった。私が忘れているだけということもあるが……その可能性は低いと思う。
「ほら、放課後。奈緒と3人で話したじゃん」
「放課後? その時って、ほのか……」
「うん、私、昨日の放課後は美紀と話してないよ。高野に呼ばれた後、まっすぐバイト行ったから」
月曜日の昼休みの態度が気に食わなかったのか、高野にもう一度呼び出しをされて、親とのことをあーだこーだと言われた。しまいには、電話し始めるなどと言い出したのであ、慌てて逃げ出したのだ。……その甲斐あって、なんとか誤魔化せたようだけど。
「あれ、私の勘違いだった……? マジごめん!! 普通に誘った気でいた!!」
「あ、そうなんだ。うん、大丈夫、平気だから気にしないで」
「えーと? 結局、ほのかも来るってことでOK?」
少しだけピリピリした空気を感じ取ったのか、翔太がおどけた様子で尋ねる。私が頷き、美紀が奈緒や翔太、健斗の3人にも手を合わせて謝った。
「いや、誤解が解けたなら、それでいいっしょ~」
「ほのかが気にしてないって言うなら、私から言うこともないかな。……っていうか、誘ったかどうかも忘れちゃうとか、どんだけおっちょこちょいなのさ」
「ごめんってば~。奈緒、怖いから睨まないで~」
冷たい目で睨んだまま顔が戻らない奈緒の腕に抱き着いて泣き真似をする。よくポカをやらかす美紀を怒って、奈緒がため息を吐くのはよく見る光景だ。
「あ、折角だし、ほのかに行くところ決めてもらう?」
「え、私?」
「ああ、いいね。ほのかの行きたいところで行こうよ」
私の行きたいところ……。
思わず、真琴と出かけたいと思っていた場所が口からこぼれてしまう。
「……私、海に行きたいな。綺麗な砂浜の、広い海に」
「ほのか?」
様子のおかしい私に、奈緒が気を使ったように手を回す。伸ばされた暖かい手を握り締めるが、真琴の時のようなドキドキはなかった。
「今の時期、海とか無理じゃない? 台風近いし」
「あ、そっか。そうだよね」
珍しく真面目な顔をした美紀に断られて、思い直す。いくらか考えてみようとしたが、真琴に強く言えないくらい、私だってお出かけの経験は乏しいのだ。それに、真琴と行きたい場所ならいくらでも思いつくが、みんなで行きたい場所となると難しい。
「……じゃあ、無難にカラオケでいいんじゃない? その前に、どっかでご飯食べてさ」
「まぁ、そうするか~」
「メシ、どこにするん? やっぱ、焼肉が良いっしょ~」
「いや、昼から焼肉とか重すぎて無理だから」
思い悩む私を横目に、奈緒が代案を出してくれた。
とりあえず、レナチャンネルで紹介されていたリーズナブルでオシャレなレストランで昼食を済ませて、カラオケに行こうという話に落ち着いた。
今から日曜日が楽しみだな。
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