少女の悩み編

【ワクワク学校生活】ヤンデレ?JKに新しい友達が出来ました!?【女子高生/青春?】

 朝日が眩しい月曜日。優しいコーヒーの匂いと、暖かくて安心するような声に囁かれて私は目を覚ました。眼前には眩しそうに目を細める不健康そうな女性の顔。昨日も徹夜したのか、目の下のクマが酷くなっている。


「おはよう、ほのか」

「マコ、おはよ~。徹夜したの?」

「うん。昨日……一昨日のコラボ配信の切り抜き動画作ってた」


 どうやらまた無理をしていたらしい。私は少し不機嫌そうな返事をしてしまう。すると真琴は慌てながらトーストの準備を始めた。

 見え見えのご機嫌取りだけど、その様子が可笑しくて吹き出してしまう。


「もう!! ほのかったら……。ほら、早くしないと遅刻しちゃうよ?」


 配信モードが抜けきった彼女は、いつもより少し可愛い声だった。勿論、いつもの不機嫌そうな低く響く綺麗な声も好きだけど、この声を聴けるのは私だけの特権だと思うと胸も晴れる。これから始まる憂鬱な学校生活への活力が少しだけ湧いた。……気がした。


 友達と喋るのは好きだが学校は嫌いだ。勉強は得意ではないし、真琴と離れ離れになるのが一番いやだ。とくに一人きりの通学路は寂しくてしょうがない。


「ねぇ、学校行くまで電話掛けてていい? って言ったらどうする?」

「あーまぁ、どうせ作業は中断するつもりだったからいいよ」


 嘘だろう。けれど、私の我儘を聞いてくれる真琴が嬉しくて、気づかないふりをした。




「……あ、もう学校着くから、またね」

『うん、勉強頑張ってね。愛してるよ、ほのか』


 通話を切る直前、最大限にカッコつけていく。

 真っ赤になった顔を友達に見られたら言い訳が出来ないな。なんて考えながら教室まで向かった。


「ほのか、おはよ~。昨日送った動画見た?」

「おはよ、奈緒。ネコちゃんの動画でしょ? アレ見たことあった」


 教室に来てすぐに声を掛けてきたのは、古鳥ことり 奈緒なおだった。うなじを隠すような低い位置でのポニーテールに、薄く塗られたラメ入りのリップ。制服のスカートは校則ギリギリまで上げられており、胸元のリボンはかなり緩められている。


「アレ、めっちゃ可愛くなかった? 他にも動画あるよ」

「その人、フォローしてるから、大体見たことあると思うよ」

「ほのかってそんなに猫好きだった?」


 たまたま真琴から教えてもらったのだ。そして真琴も猫好きの視聴者から教えてもらったらしい。猫は好きでも嫌いでもないが、可愛いとは思う。飼いたいとまでは思わないけれど。


「ほのか、奈緒、おはよ~」

「美紀おはよ~。あれ、ネイル変えてるじゃん」

「ホントだ。可愛いね」


「でしょ~? 土曜日に行ってきたんだ~。レナチャンネルで紹介してたとこ」

「ああ、あそこね。私も行こうかな? ほのかもどう?」

「私はバイトの邪魔になるからいいかな」


「ほのかって毎日バイトだよね~。大変じゃん」


 長いブロンドの髪を指で弄ぶ彼女は松方まつかた 美紀みき

 奈緒よりも派手に胸元を開けていて、スカートも完全に校則違反の高さまで上げている。膝上まで隠した長いストッキングと派手なメイクを見れば、温厚な先生だって生徒指導をするだろう。

 まぁ、この高校は服装検査の時だけしっかりしていれば注意されることも少ない。


「おっす~。何、何の話?」

「俺らも聞きたいっしょー!!」


 学生カバンを放り投げながら私の席までやってきたのは翔太しょうた健斗けんとだ。

 どちらもバスケ部に入っていて、たしか、それなりに活躍しているらしい。1年生のうちからレギュラー入りしたと声高々に自慢していたのを聞いた覚えがある。


 関係ないけど、投げたカバンが人にぶつかりそうになってたから気を付けた方がいいと思う。


「ほのかがバイト大変だよねって話~」

「へぇ、そんな大変なん? 親とか厳しい系?」

「えぇ~それはだるいっしょ~」


「うん、まぁ、ちょっとね~」


 なんとなく答えにくくて適当に話をはぐらかしてしまった。言いづらそうにしている私の助け舟を出すように、奈緒が先ほどの猫の話の続きをしてくれる。

 猫派か犬派かという話で盛り上がっていると、担任が出欠確認にやってきた。


 ダサい青ジャージに燃やされて焦げたような天パの中年男性――高野たかの先生は酒で焼けたようなガラガラ声で、クラスの人数を数えていた。


 それから、退屈な授業を経て、やっと4限目の授業が終わった。お昼を食べる前にトイレに行こうと廊下を歩いていると、どこかのクラスの授業を終えた担任とすれ違った。


独木ひとりぎ、最近、親御さんとはどうだ? 仲良くやってるか?」

「……べつに。まぁ、それなりです」

「そうか……。反抗期もほどほどにしておけよ~」


 高野は無精髭を撫でながら廊下を歩いて行く。

 ……私はあの先生が嫌いだ。デリカシーが無く、頭が固い。自分の知っている常識に人を当てはめて、そこから外れている人を間違っているかのように弾圧する。あの男が嫌いだ。


 1年生の時、私の失敗が原因で危うく真琴の下から引きはがされて、あの両親の元へ戻されそうになった。あの時の失敗も呪っているが、それ以上に余計なことをした高野が大嫌いだ。


「はぁ、いやな気分になっちゃった。マコ、暇かな~?」


 すっかりトイレに行く気は失せて、教室まで戻る。何の気なしに辺りを見渡してみると奈緒が居なかった。美紀も他の子と喋っていて私には見向きもしない。

 寂しさを感じて、おもわず真琴にメッセージを送っていた。1分としないうちに返事が返ってきた。


「真琴は、今何してるの。っと」

『さっきまで切り抜き動画作ってたよ~。我ながら見所多すぎて、作るのが大変』


 私もリアルタイムで見ていたが、真琴のコミュ障もかなり和らいでいて、レナちゃん達も楽しそうだった。ゲームのことは分からなかったが、マコトが頑張っていたのは伝わってきた。それでもやっぱり、私と話すときよりは緊張した様子だったのが彼女らしい。


 マコトの声が聞きたいな。と考えていると、目の前から微かに声が聞こえた。


 ……あらやだ、とうとう幻聴が聞こえ始めちゃったわ~。

 いや、まさかそんなわけはないと思いながらも、声のする方を確かめる。普段、私と喋っているときのような声ではなく、配信上でのイケボ(笑)状態の声だ。


 ちなみに、馬鹿にしているわけではなく、本人が言っていたことである。あと、ちょっとだけ馬鹿にしている。本当にちょっとだけね。というより、からかっている?


「……それ、マコトの配信?」

「ひゃ!? ……あ、ご、ごめんなさい、うるさかったですか?」


 真琴の声がする原因は、前の席に座っていた、艶やかな黒髪を三つ編みに結んだ少女だった。あまりしゃべったことのないクラスメイトの新田にった 優里ゆりさん。見た目通り目立つタイプではなく、自己主張の少ない女の子。


 普段はイヤホンをしながら読書をしているせいで話しかけにくいと思っていた娘だ。


「ま、マコトくん知ってるんですか……?」


 怯えたような声で尋ねてくる。別に取って食べたりするわけじゃないんだから怯えなくてもいいと思うんだけど……。まぁ、配信見てる横から急に話しかけられたら怖いか。私もびっくりしちゃうしね。


「あ、急に声掛けちゃってごめんね。その人、私も知ってるからさ」

「わぁ、身近にファンがいるなんて思いませんでした!!」

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