【お悩み相談】イケボ配信者改め、プロゲーマー!?【コンビニ/プロゲーマー】

 通話を切ったばかりのヴォイドさんからメッセージが届いた。何か言い忘れていたのだろうか。それとも、プロゲーマーのお誘いだったりして? まぁ命中率2位だったからなぁ。ごめんなさい調子乗りました。


『プロゲーマーにならない?』


 ……え、いや、は!? いやいや、マジか。


 何かの冗談やからかいで言っているわけではないようで、続けざまにヴォイドさんからメッセージが送られてきた。動揺を隠せないままで内容を確認してみる。


『今日の配信を見てた限り、ゲームしながら話すのが得意みたいだったし、ゲームのスキルを落とさないで周りを見ることが出来てたから、ゲーマー向いてると思う』

『ゲームの腕はまだまだだけど、俺と一緒にやれば、上がっていくと思う。冗談とかお世辞じゃないから、ちょっと本気で考えてみて』


 たしかに配信中、リスナーからすごいと言われることもあった。だが、どうしても自分がプロゲーマーになるという想像が出来ない。


『前にネットで男はマルチタスクが苦手って言うのを見たけど、マコトくんは得意みたいだね。俺は苦手だから、そういう意味でも向いてると思うよ。とくにソルファイは多角的な思考が求められるからさ』


 ……女性なんです。とは返信できなかったが、「考えておきます」という曖昧な返答を投げてスマホの電源を落とした。コラボ配信を終えたばかりで気疲れしたのか、ベッドに身を投げると途端にまどろみが身体を支配する。

 眠る直前、切り揃えられたボブヘアーの少女が部屋に入ってきた事にも気が付かない。


 翌日、ベッドの隣でガサゴソと動く何かにぶつかって目を覚ました。


「あ、ごめん。起こしちゃった? 朝ごはん作るから待っててね」


 動く何かの正体は、眠そうに目を擦るほのかだった。下着が透けてしまうような薄桃色のパジャマを見ていると、興奮で頭が冴えてしまう。彼女の細い腕を掴んでベッドに引き込もうとしたが、するりと抜けられた。


「ありゃ?」

「ありゃじゃないよ。昼間からバカなことしてないで、起きてご飯の準備手伝って」


 ちょっと怒ったようなほのかが可愛いな、と思っていたら優しく頭を叩かれた。……ハイ、手伝います。手伝うからそのジト目やめてくれる?


 朝食を食べ終えて洗濯物を干していると、リビングで課題をやっていたほのかが小さく声を上げた。別に気にしないで居ようかと思ったが、チラチラと私の様子を窺っている。


「どうしたの?」

「シャーペンの芯が無くなっちゃって。コンビニ行こうかなと思って」

「いってら……だよね、うん、私も行きます」


 今日は天気がいいから半袖のシャツでいいか。ほのかはどうするのかと思えば、先ほどまで履いていた丈の短いスカートから、私とお揃いのジーンズに履き替えていた。さらに上から薄い黒のパーカーを羽織る。

 記憶が正しければ、両方、私の服ってことで買ってきてくれたんじゃ? いや良いけどさ。


「何?」

「うん、いや。行こうか」


 家の近くのコンビニまで歩く道中で、昨日、ヴォイドさんから言われたことを思い出す。せっかく明るい道を2人で歩いているのだから、今のうちに話しておいた方がいいかもしれない。へんに家のリビングとかで話すと重苦しい雰囲気になっちゃうしね。


「……ってことがあったんだけどさ、ほのかは私がプロになるのどう思う?」

「どう思うって言われても、まこがやりたいかどうかでしょ。それとも、また理由が欲しいの?」


 はっきり言えば、そういうことである。ほのかのために、という理由があればプロゲーマーを目指して頑張るのもやぶさかではない。もちろん、私が出来るかどうかという問題もあるが、この娘が傍に居てくれるなら、どこまでだって頑張れるだろう。


 決して努力家というわけではない、どちらかというと堕落的な私が、配信者として活動を続けているのもほのかが居てくれるからだ。


「プロゲーマーか……。でもそれってさ。あ……!!」


 ほのかが私の後ろへと顔を隠す。どうしたのかと思っていると、コンビニの前に見覚えのあるジャージ姿の少女たちがアイスを食べながら喋っていた。

 たしかあの服は、ほのかが通っている高校の指定ジャージだ。今日は日曜だが背負っているバッグの種類から察するに部活の帰りなのかもしれない。


「ごめん、私、親のこと友達に言ってないから……」

「ってことは、私と居るのを見られると、ちょっと良くないか……」


 直接の知り合いというわけではないようだが、どこから話が広がるか分からない。それに、このコンビニは駅からも近いので、他にも同じ高校の人が居ないとも限らない。


 嫌な想像をしているのか、ほのかの顔は真っ青だ。言う間でもないが、私の顔色だっていつもよりひどい。まぁ、いつもの顔色が酷いから大差ないかもしれないけど。


「どうする? いったん帰ろうか?」

「そ、そうしようかな。シャーペンの芯は、学校の売店で買うよ」


 不安そうな表情のほのかの手を握って家の方へときびすを返す。反対の手ではパーカーの裾をギュッと握りしめており、どれだけ私と離れたくないのかが窺える。

 先ほどまで話していたプロゲーマーの件はうやむやになってしまったが、しょうがないだろう。

 いまは、ほのかのコンディションが第一だ。


「ま、まぁ、コンビニって高いし? 学校で買った方が安く済むんじゃない?」

「学校の売店って、コンビにより高いよ。とくに文房具は。真琴、買ったことないの?」


「ハハハ。高校生の私って、一番陰キャだった時だよ? 学校の売店なんて行けるわけないじゃん」

「……小学生の私に買い物ついてきてって言ってたぐらいだもんね」


 大学の4年と社会人1年を経験したので、多少、まともに話すぐらいは出来ているが、高校生の時の私は1番自信が無くて、ほのかとのつながりも薄くて、根暗が酷かった時期だ。あと、ある意味中二病だったときでもある。

 ……なんか、人と話さない私カッコイイとか思ってた気がする。


「ほのか、私は今、猛烈に恥ずかしくて死にそうだよ」

「その恥じらい、高校生の時に気づいてくれれば、小学生の私が苦労しなくて済んだんだけどなぁ」


 ほのかさんには迷惑かけっぱなしですね。それが今も続いてるというのだから、全く成長していない。


「我ながらひどすぎる……」

「今は、ちょっとまともになったよ。……カッコつけなのは昔から変わってないみたいだけど」


「前半だけでよかったのでは!? なぜちょっと後半で刺した!?」


 ふざけながら家まで帰ると、ほのかの心も落ち着いたようだ。力強く握っていた手からも緊張がほぐれたのが伝わってくる。


「真琴。いろいろ、ありがとうね」

「それはこっちのセリフだよ。私の全部、ほのかにあげるって言ったでしょ?」


「私が言うのもなんだけど、重いよ」

「本当にほのかにだけは言われたくないな!? 昨日だってサラッと私のベッドにもぐりこんでたし!!」

「だって、なんかちょっと寂しかったんだもん!!」


 シャー芯は買えなかったが、ほのかは課題の続きをやるようだ。

 私は邪魔にならないように配信用の部屋に戻って切り抜き動画を作ろうとする。扉を閉める直前、彼女に呼び止められると、綺麗な黒瞳でまっすぐに見つめられる。


「……真琴は私のために頑張りすぎちゃうじゃん? だから、プロゲーマー、やめた方がいいと思う」

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