【アニ村実況】新シリーズ!? 恋猫といっしょにスローライフします【ゲーム実況動画/CGFmod】

 ほのかに動画編集を頼んだ翌日。早速アップした動画はいつもより再生数が伸びており、普段よりも広い層が見てくれていた。心なしか、女性人気も高くなっている気がする?

 もともと、動物が出てくる明るい雰囲気のほんわかとしたゲームで、ゲームをあまりやらない女性の中でも話題になっているというのもあるが、それを含めても伸びすぎている。


 それもこれも、普段とは違う明るいサムネイルと私のボケに字幕でツッコミを入れるスタイルが面白いと思われているのだろう。ボソボソとした低い声に、明るい雰囲気でツッコミを入れる姿は、普段の私とほのかのようでもある。


「ほのかが作った動画、めっちゃ伸びてるよ!!」

「まぁね。めっちゃ勉強したし~」


 ゴリゴリの銃撃戦ゲーム『SソルジャーFファイト』やゲームの金字塔『ファンタジークエスト』などの実況動画では、白黒字幕でほぼ無装飾でも十分だ。


 しかし、今回のゲーム『アニマル村物語』の雰囲気とはミスマッチである。だからこそ、ほのかに頼んでみて良かったと心から思った。


「ねぇ、このシリーズだけでいいからさ、私に編集作業続けさせてくれない?」

「……う~ん。まぁ、いいよ。私のために色々勉強してくれたのは嬉しいし」


 実際、ほのかの作った動画は視聴者からも好評なのだ。

 私のエゴで止めてしまうのはもったいない気がした。


 ――でもやっぱり、心配が勝つんだよなぁ。


「せっかくだから、お祝いにどこか行こうか?」

「え!? ま、真琴の方からそんなこと言うなんて珍しいね……?」


 大きく口を開けて眉をひそめて驚かれた。そして、私も自分で言って驚いた。

 出不精で陰キャで、外嫌い&人嫌いの私が外出しようだって!?


 自分でもどういう心境の変化なのか分からなかったが、新たな一歩を踏み出したほのかを褒めてあげたい気分なのだ。


「どこ行くの? 遠出はしないよね?」

「うん。それはさすがに思い付きで行くにはキャパオーバー。いつもの喫茶店かマックでいいんじゃない? あ、やっぱり出前にしようか? それなら私喋らなくて済むし!!」


「ああ、良かった。いつもの真琴だ」

「その納得のされ方は不本意だけど、気持ちは分かる」


 とりあえず、ほのかの要望で、いつもの喫茶店――ちょうど昨日配信で話した所だ――に行くことになった。8月ももうすぐ終わりなのに、陽がギラギラと輝いていて暑苦しい。


「かき氷食べたいけど、頭き~んってなるからなぁ~」

「ああ、アイスクリーム頭痛ね。シンプルにゆっくり時間をかけて食べると起きにくいらしいよ」

「なんで、そんなこと知ってるの!?」


「っていうか、ゆっくり食べるなんてしたら、溶けちゃうじゃーん」


 口をとがらせて「勢いよく食べるから美味しいのに~」なんて言っている。まぁ確かに、そこまで痛い物でもないし、気にしすぎないのが一番だろう。……私の無駄知識は本当に無駄になったけど。


 少しレトロな雰囲気の残る喫茶店に着くと、ほとんど客は居なかった。お昼には遅いし、おやつには早い微妙な時間だからだろうか。雑誌を読んでいた店主が、少しだけ顔をあげて小さい声で挨拶をする。

 この干渉しすぎない感じが、私はとても落ち着く。


「真琴は何食べるの?」

「とりあえず、コーヒーとバニラアイスでいいかな。お昼はさっき食べたし」

「うーん、私パフェ食べたい!! ほのかも少し食べてくれる?」

「じゃあ、バニラアイスなしでいいや。コーヒーとフルーツパフェにしよう」


 個人経営の喫茶店では呼び出し鈴なんてない。自分でカウンターまで向かって店主に注文を伝えるスタイルだ。言う間でもなく、私は席に座ったまま動けない。


「あ、私、オレンジジュースも飲みたい!! 他に無いなら行っていい?」

「うん、行ってきて。のかちゃん、お願いしまーす」

「のかちゃん呼びやめて。じゃ、行ってくるね~」


 キッチンの中で雑誌を読む白髪の男性店主とほのかが少し言葉を交わす。向こうも過干渉しないだけであって、決して不愛想というわけでもないのだ。特に明るくてニコニコしている女子高生が相手だと、奥さん交えて3人で楽しそうに話している。


 ちなみに私は、店主と奥さん、両方と話したことが無い。いや、ありがとうございましたとは言ってるんだけどね。……心の中で。


「先にオレンジジュースとコーヒー貰ってきたよ。あと、ミルクとお砂糖ね」

「なんかウェイトレスみたいだね。ほのかが働いてたら毎日来るかも」

「だとしても真琴は声掛けるとか出来ないでしょ」


 銀色の丸トレイにジュースとコーヒーカップを持ってきた少女に冗談めかして笑いかけると、鋭いツッコミが返ってきた。痛む心を押さえつけながらコーヒーを啜る。


「あっち……!!」

「いや、淹れたばっかりなんだから、そりゃそうでしょ」


 アイスコーヒーにすればよかったと後悔しながらパフェを待つ。

 古時計のカチカチという音と、キッチンからの料理の音。音質の悪いテレビからどうでもいいニュースが流れている雰囲気がとても好きだ。


「改めて、動画作りの手伝いありがとうね」

「ううんこっちこそ。無理言って手伝わせてくれてありがとう。それに編集ソフトの使い方も教えてくれたし……!! もっと勉強して、真琴の役に立つね!!」


 なんともいじらしいことを言ってくれる。

 既視感があるなと思えば、バイトを始めるとなったときのほのかも似たような感じだった。いきなり、動画編集を手伝いたいなんて言い出した時は驚いたが、あの時から何ら変わってなかったのだ。


 他愛もない雑談をしながら2人でパフェを食べる。てっぺんに乗ったアイスクリームを頬張って頭を抑える彼女が可愛くて、おもわず頬にキスをしてしまった。

 幸いにも店主と奥さんはキッチンの奥に引っ込んでいて見られなかった。


「真琴からなんて珍しいね? もっとする?」

「いや、ごめん。そういうつもりじゃなくて……。続きは家に帰ったらね?」


 ほのかは人に見せつけるようにイチャつくのが好きなようだが、私はそうではない。もちろん、恥ずかしいという理由もそうだが、世間体とかを考えてのことだ。


 イケボ配信者なんて名乗っているが、これでも女性だ。無造作に伸びた髪に骸骨のようなか細い体つき。そんな不審者みたいな女が明るくて可愛い女子高生にキスなんてしたら……。


 明らかな事案である。国家権力が動くだろう。


「じゃ、ご褒美はパフェだけじゃないんだ?」

「あ、うん。まぁ、そうなる、かな~?」


 少し目を細めて、温かな笑みを浮かべる。

 テーブルの下で繋がれた手に力が入って、一層の熱を帯びた。


 とりあえず家に帰ったら2人でシャワーを浴びよう。

 ……暑い中歩いて汗をかいたから、ね。

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この同棲がバレたら(社会的に)死ぬ 平光翠 @hiramitumidori

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