【ゲーム配信】最強の兵士になります【イケボ/個人配信】
ほのかがバイトに出かけてから数時間後、配信の準備も終えた私は、可愛らしい柄のカップに水を入れて、ゲームを起動する。
今日やるのは『ソルジャー&ファイト』という、人気のFPSゲームだ。ざっくり言えば2対2で銃撃戦をするゲームをイメージすればわかりやすいかな。
「20時半か……。そろそろ始めよ」
「は~い。マコトです。今日はソルファイやっていこうかなと思います。前回は調子良かったからね~」
スレイマンの星:始まった!!
ビスケット:今日も声良すぎ~
豚の餌:SFキター。神エイムみたい!!
「ランク戦の前に、少しだけカジュアルで遊ぼうかな」
ステップステップ:エイム練習?
「ステップさん、そうだよ~。エイム練習とテンション上げるためにね」
「あ、そうだ。マックの新商品、早速食べてきたよー」
マックのポテト:あざっす笑
カルボナーラ:食レポして~
「カルボナーラさん、食レポ!? 無茶ぶりすぎる……」
「そうだな~、パンが普通よりしっとりしてて美味しかったよ。バターの風味は強いけど、邪魔になるほどじゃないし、あまじょっぱい匂いが食欲そそる感じだったかな」
スレイマンの星:食レポは上手くて草
ビスケット:ホントにマコトくん?
カルボナーラ:偽物説あるよ
マックのポテト:マックの案件ですか?
「天下のマック様から案件貰えるほど、僕のチャンネルは凄くないです……。媚び売ったら貰えたりするかな?」
マックのポテト:それ言ったら貰えないってwww
超高層ビル:今来た。はろマコ~
超高層ビル:明日、マック行こうかな
「はろマコ~。僕も連続でマック食べちゃおうかな」
「いつものダブルチーズが食べたい」
豚の餌:バターバンズじゃないんかい
スレイマンの星:まって、喋りながらなのに上手くない!?
日本橋スキンヘッド:やっぱ、ゲームセンス高杉
「上手い? ありがとー。みんなが応援してくれたら、もっと上手くなると思う」
【ビスケットさんが500円スパチャしました】
ビスケット:応援代
「ビスケットさん、スパチャありがとう!! でも、応援って無料でもできるからね!?」
【スレイマンの星さんが1000円スパチャしました】
スレイマンの星:同じく応援代。
【カルボナーラさんが500円スパチャしました】
カルボナーラ:この試合勝ったら、もう500円スパチャします。
「スレイマンの星さん、カルボナーラさん、2人ともスパチャありがとう。無料の応援でも嬉しいからね。むしろ、そっちの方が気が楽だから!!」
「ってか、カルボナーラさんのせいで、勝っても負けてもプレッシャーかかるんだけど!?」
YouWin!!
【カルボナーラさんが1000円スパチャしました】
カルボナーラ:おめ~
「勝っちゃったよ。あと、投げるの早すぎでしょ。金額増えてるし!! いつもみたいにボイスリクエスト投げてよ!!」
超高層ビル:今日ツッコミ上手くね?
ステップステップ:なんかいいことあったの? テンション高いね
豚の餌:はしゃいでるショタボからしか得られない栄養がある!!
「用事があって外出したら、色々あってさ。テンションがバグってるんだよね」
そんなこんなでゲームを続けていると、テーブルに置いたスマホがLINEの通知を知らせる。ヤバいと思った時にはすでに遅く、思いきり配信に通知音が入ってしまう。配信中は通知を切るようにしているが、連絡が来ることが稀であるため失念していた。
相手はほのかだ。私が配信中であることを知っているはずなのに珍しい。慌ててメッセージの内容に視線を向けた。
『夜勤の人が体調不良になっちゃった……!!』
『少しだけバイト残るね』
続けて猫が謝っているスタンプが送られてくる。
ステップステップ:マコくんが誰かから連絡来るなんて珍しいね?
豚の餌:急ぎの用事?
「あ、ああ。ごめんね。クーポンのお知らせだったから気にしないで。ちょっと小腹空いたし、配信止めて買ってきちゃおうかなぁ」
23時ごろまで配信予定と告知していたが、ほのかの帰りが遅くなるなら早めに切り上げて迎えに行ってあげたい。夜道を彼女一人で歩かせるのは不安だ。……とくに一人が嫌いなあの娘だから。
あまりにもタイミングよく配信を終わらせようとすることに疑念を持たれるかと危惧していたが、思いのほか視聴者の反応は温かい。
スレイマンの星:もしかして、牛丼屋のクーポン? 私も来てた!!
ビスケット:明日休みだし、行っちゃえ~
マコくん最強卍:もしかして、彼女とか……?
鋭いコメントからは見て見ぬふりをして、半ば強引に配信を終わらせた。まともな説明のできない関係をズルズルと続けている私が悪いというのに……。
パソコンの電源を落として、出掛ける準備を整える。ほのかはまだ高校生で普通なら夜9時以降はバイトが出来ない。けれど、どうしようもない事情ということで9時半頃までは働くらしい。そうなると帰りは10時近く。
多分、過保護なのかもしれない。普通じゃないかもしれない。
でも、誰も教えてくれなかった普通に縛られて、あの娘を一人ぼっちにするなんて間違っている。
コンビニの制服が入ったカバンを持って、私とお揃いの小豆色のジャージ姿の少女が店の裏手から出てくる。はにかむ彼女に手を振って出迎えた。
「あれ? 真琴、迎えに来てくれたの?」
「当たり前じゃん。ほのかが心配だからさ」
「アハハ。どんだけ私のこと好きなの~? 嬉し……」
「大好きだよ。世界で一番愛してる」
もう二度と、彼女に寂しい思いをさせないと誓った。苦しい思いをさせたくないと願った。ほのかは、臆病な私がカッコつける理由の全てだ。絶対に手放したくない。
「ねぇ、今、めっちゃチューしたい」
「いいよ」
女同士、大人と子供。姉妹でもないし血のつながりも無いただの幼馴染。
昼間は手も繋げないような間違った関係だけど。誰も居ない路地裏で、コソコソと隠れるように背徳感にまみれながら口づけを交わした。
彼女が一人ぼっちにならないように、私の家に招き入れた。
彼女が寂しい思いをしないように、私は仕事を辞めた。
私たちが幸せでいられるように、私は配信者を始めた。けれど、それは結果的に失敗だった。安定しない収入を補填するために、彼女はバイトを始めてしまった。
私はほのかに生きる理由をもらった。私が私を好きになる理由をくれた。
「ほのか、ずっと一緒に居よう。絶対に幸せにするから」
「その台詞、12回目だよ。すぐそうやってカッコつけるんだから……」
ほのかの為ならば、なんだってやってやる。今まで忌避してきたことだって……。
私はほのかのメッセージとほぼ同時に送られてきた、もう一つのメッセージを思い出しながら、誰にも言えない決意を固めた。
『マコトチャンネルのマコト様へ、コラボ配信のお誘い』
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