【ランチデート】同棲カップルのリアルデートVlog【リップ/ラーメン】
昼食をどうしようかと思案していると、スマホを眺めていたほのかが声をあげた。どうやら、TikTokを見ていたようで、化粧の濃い女の子がネイルを施した指をカメラに向けている。
「そっか、新色の発売って今日だった!!」
「しんしょく? お祓いとか祈祷でもするの?」
「それは神職」
「寝たり食べたり?」
「……寝食のこと!? 難しいボケしないでよ!! ネイルの話!!」
「やっぱり寝る話じゃん」
「……もう、それでいいよ」
長々とボケ続ける私に呆れたような視線を向けてため息を吐く。先ほどまで見ていたコスメ紹介系ティックトッカーに高評価を付けてスマホをカバンにしまった。うん、そういうのはモチベアップにつながるから、ぜひやってあげてね。
「お昼行く前にさ、そこのコスメショップ寄っていい?」
「いいけど、私溶けると思うよ。スライムみたいに」
あんなきらびやかでキラキラとした雰囲気漂うお店に入ったら、日光を浴びた吸血鬼みたいに灰になってしまう。コーラを飲んだらゲップが出るくらいに確実なことだ。
「スライムなのか、吸血鬼なのか……。何でもいいから行くよ!!」
「いやいやいや、私は買うものないし、入っても迷惑だろうから外で待ってるよ」
「私が寂しいから嫌だ」
……私、ほのかにそれ言われると弱いんだよなぁ。この娘もそれを分かって言ってる節あるけれど。だってしょうがないじゃん。ほのかの顔、好みなんだもん。陰キャは人が困ってるのを見ると、オロオロしちゃう生き物なんです!!
ほのかに手を引かれて、外よりも光り輝いているような店内に入る。化粧品や香水の独特の匂いが鼻を刺激するが、それ以上に、店員のニコニコした笑顔が肌を刺していた。
なんで、私なんかが入ってきたんだよとか思われてないかな。堂々としていれば大丈夫? いや、ここで堂々としていられるなら陰キャやってないわ!! 何にキレているんだ私は……。
壁一面が白く装飾されており、八方向ぐらいからライトで照らされている。まるで気分は大泥棒だ。ルパン3世が宝箱もって追いかけ回されてるときを思い出したんだけど、分かるかな?
「真琴もなんか買ったら? アイシャドウとか」
「わ、私がですか!?」
思わず敬語になってしまった。挙動不審にもほどがある。
ほのかが指さす鉛筆みたいなやつを手に取ろうとしたが、なぜか見覚えがあるような気がした。なんか、家に置いてあったような……?
「あ、真琴の部屋に、私が買ってきたやつあるよね。アレまだ使えそうだったし、新しく買わなくていいか」
なぜか私よりも先にほのかが思い出していた。まぁ、全然使ってないしね。
「よかった。ネイルまだ残ってた~。ちょっと買ってくるね」
「尻尾?」
「それはテイル。……ってか、さっきより雑になってない!?」
しょうもないことを言う私を置いて、会計のためにレジへと向かう。手持ち無沙汰になった私は、なんとなく周りに並んでいる化粧品を眺めて待つ。商品を選んでいるふりをすることで店員さんに声を掛けられるリスクを減らす、陰キャ御用達のスキルである。
……なお、成功率は低め。
「お姉さんに、その色は合わないんじゃない?」
「は、はい!?」
ラメの入った小瓶を見ていると、後ろからギャルに話しかけられた。派手な金色の髪に、ダボッとしたパーカーを着た少女は、青色の小瓶を手に取る。
私の顔と見比べたかと思うと、小瓶を棚に戻して別な瓶をとった。
「お姉さんは、顔暗いけど目元綺麗だから、コレがいいと思う」
「あ、いや、えっと、わ、私は、買うつもりなくて……」
「あ、そーなんだ。いきなりゴメンね~。レナチャンネル見まくってたらさ、人のメイクに口出したくなっちゃってさ~。お姉さんデート中だったのにゴメンね!!」
デート中という言葉に胸が跳ねた。たしかに私とほのかとはそういう関係だ。けれど、自分たちで、そう思うのと外部から言われるのでは意味合いが違う。
「もしかして、さっきの娘にプレゼントとか? レナチャンネルとかマジで参考になるよ。私、毎日見てるもん」
「あ、そ、そうなんだ。教えてくれてありがとう」
「ってか、お姉さん、声良すぎじゃん? 声優?」
否定しようとしたところで、時計をチラ見した少女は慌てた様子でどこかに立ち去ってしまう。まるで嵐のような女の子だ。やっぱ、ああいう明るくて可愛い娘はいいなぁ。こっちまで元気がもらえる。
「……声優じゃないけど、配信者だから似たようなものか」
「なーんで、そんなニヤニヤしてるのかな~?」
背後から恐ろしい気配を感じて咄嗟に振り返ると、膨れっ面で私を睨んでいるほのかが仁王立ちをしていた。まぁ、なんとなく予想はしていたけど、こうなるよね。
嫉妬するほのかも可愛いんだけど、ちょっとめんどくさいからなぁ。
「な、何でもないから。お昼食べに行こうか」
「……嫉妬する私も可愛いなとか考えてるでしょ?」
「なんで分かんの!?」
「でもちょっとめんどくさいって思ってるでしょ」
「エスパーじゃん!!」
「とりあえず、今は許してあげるけど、お昼どうするかは真琴が決めてよね」
ハイ、陰キャ最大の難問が来ました。お昼どうする問題。
ひとりで選ぶなら簡単。チェーン店か店員さんと話す必要が無さそうな食券タイプのお店を選べばいい。でも誰かと一緒となると、相手の好みとか予算も考えなきゃいけないから途端に難しくなる。さらに、私がどこかを提案しても気分じゃないとか言われるやーつ!!
……そもそも、ほのかはそういうタイプじゃないから大丈夫か。
「じゃあ、適当にラーメンでいい?」
「うん、いいよ。いつもの所?」
私の気の抜けた提案に軽い調子で了承する。我慢しているとか気を使っているとかいう様子はなく、純粋にそれでいいと思っているような表情だ。
家の近くにある行きつけのラーメン屋に向かう。小さい店で店主が1人だけ。テーブルに置かれた紙に醤油ラーメンを2つと書くと店主が受け取りに来た。
「硬さの希望ありますか?」
「普通と柔らかめでお願いします」
「あいよ。少々お時間いただきます」
わぁすごい。私の好みまで完璧に把握されてる~。固いの苦手なんだよね。
「今日って配信するの?」
「どうしようかなぁ。ほのかがバイト無いなら配信は休むけど」
「……いつも私優先だよね。嬉しいけど視聴者が可哀想じゃない?」
見てくれている人が居るのは嬉しいけれど、私が配信活動をしているのはほのかの為だ。本当ならもっと安定した会社員とかの方がいいんだけれど、絶望的に向いてないしなぁ。色々トラブルもあったし、ちょっとやる気になれない。
「まぁ、私バイトだから配信していいよ。帰り9時ね」
「おっけ。ゲーム配信やりたいから、11時ぐらいまでやるかも」
ラーメンを食べ終えて店を出る。家に帰ったら配信の準備をしなくちゃいけないし、ほのかもバイトの準備で忙しくなる。久しぶりに出かけたから配信で話すネタも少し増えたしね。
「もしかして、それを見越して連れ出してくれた?」
「なんのこと~? 私はただ、真琴とデートしたかっただけだよ~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます