【コラボ失敗!?】反省会やりまーす【ほぼ炎上】

 大失敗だったコラボ配信を乗り越えた次の日、予定通り事前に撮影したコラボ動画がレナチャンネルで投稿された。配信上で告知していたこともあって、かなり伸びているようだ。また、らんさんのチャンネルで投稿されたノーカット版や、ヴォイドさんのコーチング動画も好評ばかり。


 しかし、どの動画にも私について言及しているコメントはない。わずかながらに書かれているコメントには、『イケボだけど、無言の人が居る』程度しか書かれていなかった。思い返してみれば、動画の撮影中も配信中もほとんどしゃべっていなかったので当たり前だ。


「私、配信向いてないのかな……」


 思わず弱音が漏れた。考えてみれば、自分が得意なことなんて何一つ見つけられずに24年生きてきた。苦労して入った会社も、積極性と堪え性が無かったせいですぐにやめた。取り繕う様に始めた配信業もこの様。


 ……ああ、本当に。自分で自分が嫌いになる。


「ほのかに会いたいなぁ」


 今日もバイトに出かけてしまっている彼女。

 このまま底辺配信者として過ごしていくとしたら、あの娘の足枷になるだろう。ただでさえ、あの娘は不幸で可哀想で、とびきり可愛いのだ。しなくてもいい苦労をさせている罪悪感を糧に、もう一度パソコンと向き合った。


 先ほど、コラボ後の反省配信と題して視聴者からアドバイスなどを貰おうとしたが、私の沈んだ声のせいで盛り上がりに欠けていた。視聴者の数も少し増えては減ってを繰り返していたことから、コラボによる新規視聴者は見込めない。それはチャンネル登録者数にも表れている。


 だったら、答えは一つだ。自分を変える。逃げるために始めた配信活動。色々なことを言い訳にして、惰性で続けてきた。

 それを、昨日のコラボ配信で痛感した。


 私以外の全員が盛り上げるために、視聴者に喜んでもらうために、自分の目標のために、努力をしていた。その間、私は何をしていた?


「ふさぎこんで、陰キャを言い訳にして、何もできなかった……」


 そのことがたまらなく悔しい。少しでも前に進みたい。


「……前のゲーム配信。登録者数の増加が多かったな。新しくコメントしてくれる人はいなかったけど、コメント数と高評価数は多い。ゲームが良かったのか?」


 私の性格上、これ以上他の人とコラボをしても成長は見込めない。そもそも、そういう次元に居ないのだ。話がつまらないと言われる原因を探って、少しでもトーク力を上げる。


「この日の配信、前後の動画の伸びは悪い……。ゲームは関係ないか。別に特別な話をしたつもりはないけど、どこか心をつかむような話があったかな?」


 頭の中では、アンチに近いコメントや、先日の配信で空気を凍らせてしまった時のことばかりがフラッシュバックする。

 それでも配信業に縋っている自分がみじめに思えて、涙が出てきた。


「……ほのかの為って決めたんだ。いまさら止められない!!」

「なぁにカッコつけてんの? バカマコ」


 目からこぼれる雫を拭おうとして、後ろから優しく抱きしめられる。柔らかく滑らかな肌の感触が首を暖め、花のような甘い香りが漂ってきた。もしかして風呂上りだろうか?


「ほ、ほのか!? ば、バイトは?」

「とっくに終わってるよ。それより、私の為って、何の話?」


 時間を見てみれば、すでに23時近く。リビングから漂う夕食と思われる匂い。手元にはぐちゃぐちゃに書かれたメモが残されている。確かに書いた記憶はあるが、ここまでとは思わなかった。

 いや、そんなことより、いつの間にか聞かれてた!?


「真琴、コラボ動画、見たよ」


 死刑宣告のような冷たい一言。

 誰に何を言われても平気だが、もしほのかに幻滅されたとしたら……。


「私の為って言うのが、どういう意味なのかは分かんないけど、あのコラボも私のためにやったんだろうなぁってのは伝わってきたよ。少しでも普通になろうとしてるってのは思った」


「……私が、もっと有名になって、もっと収益で稼げるようになったら、ほのかが幸せになれるんじゃないかって思ったんだ。バイトもやめられるし、親に頼らなくても私が代わりに大学に行かせてあげられると思って」


「嬉しいけど、そんなの頼んでないよ。私は、今のままがいいの」


 優しく暖かい目でまっすぐに見つめられる。私の絞り出すような声とは対照的に、彼女の表情はとても明るく、まるで天使のようだった。


「毎日バイト行くのは大変だし、あの人達に縛られてるのはもっと嫌だし、やりたいこともいっぱいある。でも、真琴と一緒に居られるなら全部我慢できる。真琴が仕事も家族も恋人も友達も全部投げ出してくれたから」


「真琴はいつも、他人のために生きてる!! ちっちゃい頃から、ずっと私のことばっかり。たまには真琴のために何かしたっていいんだよ!?」


 私のために……? 

 違う。違うんだよ、ほのか。


「私は、なにも、無い。やりたいことも行きたい場所も、食べたいものも見たいものも聞きたいものも何にもない!! いつだって、ほのかが連れだしてくれたから、私はここまで生きてこれたんだよ」


 私が、不登校にならずに学校に行っていたのは、隣の家から出てくるほのかが「おはよう」と声を掛けてくれるからだ。

 私が、マックで食べたいものを食べられるのは、店員に声を掛けられない私に代わってほのかが注文してくれるからだ。


 私が、大学を出て働こうと思ったのは、いつかほのかを助けたいと思ったからだ。

 私が、1人暮らしをしようと思ったのは、ほのかをあの家から救いたかったからだ。

 私が仕事を辞めたのだって、前の彼女と別れたのだって、全部、全部君が隣に居てくれるからだ。


「私は、ずっとほのかの為に生きていきたい!! ほのかに悲しい思いをしてほしくない。辛い思いをしてほしくない。楽しいって思ってもらいたい。だって、だって、そうじゃなきゃ……」


「私が可哀想だから? 私が不幸に見えるから? 私が親に愛されていないから?」


「違う。ほのかが幸せになってくれないと、私の初恋が実らないから」


 初めてほのかと出会った時、私は中学生だった。5歳ぐらいのほのかが親に言われるがまま、私と私の母に挨拶をしたのを、今でも覚えている。寂しいと全身で訴えかけてくる視線を忘れられない。

 引っ込み思案で、誰の視線にも怯えていた私が、初めて笑顔を見たいと思った。


 そして、それを見た時、感動した。

 美しいと思った。可愛らしいと思った。儚いと思った。


「お願いだから、私に頑張る理由をください。生きる理由になってください。私は、ほのかに助けてもらえないと、まともに生きられない。もう、普通になれない」

「なんで、いつもそんなことばっかり。私、教えてもらってないのに……」


「正しくなくて、普通じゃなくて、まともじゃない私だけど、ほのかのことを一生大切にする。私がほのかを幸せにする権利をください」


「……本当にマコはかっこつけだよね。無理してほしくない。頑張ってほしくない。今のままでいいって言ってるのに、それじゃ嫌なんだもんね」


「ほのかは、もっと幸せになれる。私が幸せにしてみせる!!」

「そーいうときは、ただ、大好きってだけ言えばいいんじゃない?」


 消極的で臆病で引っ込み思案な私だけれど、精一杯の愛情を君に教えてあげたくて。


「大好き」


 としてじゃなく、として愛を囁いた。

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