【お出かけ】メンヘラの私がクラスのイケメンに告白された結果www【青春/告白】
7月に入ると、途端に夏らしく暑さを感じる。昨日は少し雨が降っていたようだが、午前中のうちに水たまりも姿が消え、私は、不快感を煽る蒸し暑さとセミの鳴き声にウンザリしていた。
「日陰行きたい~!!」
「もう少しだから我慢しろよ」
かねてより楽しみにしていた皆と遊びに行く日。電車で待ち合わせ場所まで行こうと考えていたら、翔太が近くに用事があるから、合流して一緒に行こうと提案してきた。
今は、翔太と2人で待ち合わせ場所まで歩いている最中だ。
「翔太、暑くないの?」
「暑いよ。でも、部活はもっときついから、平気だ」
「本当に帽子返さなくて大丈夫?」
「いいから気にすんなって」
そう。今の私は、翔太から帽子を借りているのだ。明らかに男物のデザインで今の私の服装には似合わないが、彼の善意をありがたく受け取っておく。
目元に日陰が出来るだけでも気分的に違う。……気がする。
「ほのか~、遅いよ~!!」
「ごめんごめん!! お待たせ」
すでに美紀と奈緒が待ち合わせ場所についており、2人で何か話していたようだ。あとは健斗を待つだけだが、電車の都合で、もう少しかかるらしい。
「……てか翔太、ほのかと一緒に来たん?」
「ああ、ちょっと用事あったから。なんで?」
スマホをカツカツと鳴らしながら、少し苛立ったような様子で美紀が尋ねる。腕を組んでいる彼女は、薄生地のカットソーの袖口に皺が出来るほどに強く握りしめており、何か言いたいことがあるが、堪えているようにも見えた。
……なんで怒ってるんだろう。
「美紀、イライラしないの。ほのかに当たるのは違うじゃん?」
「別に……!!」
「おそくなって、ごめんっしょ~? 待った感じ~?」
危うく一触即発というところで、ヘラヘラした様子の健斗がやってくる。電車の都合と言っていたが、明らかにコンビニに行った形跡がある。
「てめぇ、待たせといて、コンビニでアイス買ってんなよ」
「これからご飯食べに行くのに!?」
「ああ、翔太、零れるっしょ。あ、おいバカ!! アハアハハ~!!」
冷たそうなアイスを
お昼は少し外れているというのに、中高生で行列が出来ていた。
中には、店の前で写真を撮る女の子たちもいた。レナチャンネルで紹介されているというのもあるが、駅から近くリーズナブルで行きやすいから人気なのだろう。
「あ、学生は30%オフだって」
「マジ? ラッキ~」
看板に書かれた文字を見て奈緒が声を上げる。少し調べてみれば、Twitterでバズるぐらいには広がっており、かなりのお客さんが来ていた。
「すいませ~ん、予約していた古鳥です」
「5名でご予約の古鳥様ですね。お席ご案内します」
黒いエプロンを着た男性の店員さんが、席まで案内してくれる。6人掛けのテーブルに男女分かれて座ると、メニュー表と水の入ったグラスが渡される。
「どれにしよう、迷っちゃうね~」
どれもこれもおいしそうだが、値段が安い。真琴から無理やりお小遣いを持たされたが、使わずに済みそうだ。……あ、奈緒と一緒のにしようかな。美味しそう。
皆で楽しく昼食を食べおえて、少し景色の良い公園を散歩しながらカラオケ店まで歩くことにする。
電車に乗る方が早いけど、夏の暑い中皆でおしゃべりをしながら川沿いを歩くのも楽しい。なにより、青春っぽくて真琴との話のタネになる。
「カラオケ、何時間?」
「とりま18時までで良くない?」
カラオケ店のドリンクバーでそれぞれが飲み物を取ってくる。奈緒と同じオレンジジュースを持って、部屋に入ると美紀と翔太がすでに歌っていた。
「ほのかも歌う?」
「うん!! 奈緒、これ一緒に歌おう?」
「別に一人で……。まぁいいや、一緒に歌ってあげるよ」
翔太からマイクを受け取って、奈緒が好きなアイドルの曲を歌う。少し聞いただけだったので歌詞はうろ覚えだったが、奈緒に引っ張られる形で歌えた。……次、何歌おうかなぁ。
「翔太、これ一緒に歌おうよ」
「またかよ。……俺、それあんま知らねぇからいいわ」
「あ、美紀、私が一緒に歌おうか?」
「ほのかが? ……まぁいいや。一緒に歌おうか」
少し前に流行っていたドラマの主題歌を美紀と一緒に歌う。本当は男女のデュエット曲で音程が違うから私達で歌うには向いていない曲だ。案の定、採点マシンからはバランスが悪いと辛口の評価を受ける。
決して私の歌が下手なせいじゃないと思う。……思いたい。
それから何曲かみんなが歌うのを聞きながら、奈緒と一緒に歌えそうな曲を探す。夢中になって気づかぬ間にグラスが空になったが、なんとなく行きづらくて渇いたまま放置してしまう。
翔太が有名なバンドの曲をがなり声で歌い上げた後、グラスを空にして席を立ちあがった。
「あ、翔太待って。私も行く」
「別に俺が行ってやってもいいけど……。ああ、いいや、一緒にこいよ」
なぜか、美紀が刺すような目で私を見ていた。単純に、歌に夢中になっているだけだと思ったが、奈緒や健斗の顔を見ると、そうではなさそうだ。……私にはよく分からなかった。
ドリンクサーバーの前で、翔太が飲み物を注ぐのを待っていると手を差し出される。咄嗟に意味が分からなくて、真琴にされるのと同じように彼の手を取って握り締めた。わけもわからずに握手をしたことに互いに戸惑っていると、小声で「ちげぇよ」と呟いた。
「何飲むんだよ」
「あ、そういうことか!! ごめんごめん。翔太と同じでいいよ」
「……ほのかって、いつも自分で決めないよな」
何を言われたのか理解が出来ず、苦笑いで誤魔化してしまう。
「ほのかさ、気づいてるかもしれないけど、俺、お前のこと好きなんだよ。だからさ、付き合ってくれん?」
は?
誰が? 翔太が。 誰を? 私を。 なんだって? スキだって?
「なにそれ、冗だ……」
「そんなつまんないこと言わねぇよ。マジで、付き合ってくれ」
好き? とは、どういう意味だろう。私と翔太は友達ではなかったのか。いや、違う。友達だ。奈緒や美紀や健斗と同じ。そう、そうに決まってる。それ以外分からない。
「……意味が、分からない」
「は?」
「なんで、私を好きなの? 私、なの? 本当に……?」
なぜだろう。真琴にスキだと言われた時は感じなかった恐怖を、今は体を縛りつけている。喉の奥から胃液が漏れ出しそうな嫌悪感。違う。私が翔太を嫌いなはずがない。翔太は大切な友達で、私も翔太が好きで、翔太も私が好きで。
――あれ、意味が分からない。
「ほのか? いや、突然言い出したのは悪いと思ってるけどさ。LINEとかでもちょっと話してたし、なんとなく態度で分かるだろ? 健斗も奈緒も気づいてたし。美紀も……」
「わ、分かんないよ。私には、分からない」
彼が行っているのは恋愛的な意味で私をスキだということだろう。でも、それはおかしい。私は恋愛的な意味で翔太をスキじゃない。だから、翔太も私を恋愛的な意味でスキにはならないはずなんだ。
だって、私は真琴のことがスキで、真琴も私のことを好きで、それが恋愛ってことなんだ。
愛情は双方向、でしょ?
それしか知らない。それしか教わってない。友達も、先生も、真琴も。
お父さんもお母さんも、それしか教えてくれなかったじゃん。
「……なんか、タイミング悪かったかな。ゴメン、一回忘れてくれ」
「分かった。忘れるね。それだったら、私も困らなくて済む」
「それ、フッてね? ……せめてフラれた理由ぐらい知りたかったなぁ」
またわけのわからないことを言い出した翔太が怖くて、私は逃げ出すようにみんなの待つ部屋に戻った。
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