【誕生日デート】出不精だけどお祝いにお出かけしますwww【誕生日デート/カップル】

 仮眠を終えてほのかが作ってくれたサンドイッチを食べながら、ウキウキした様子で着替える彼女の後姿を眺める。色々な服を自分の体に宛がっては首を傾げ、まるでデート前の少女のようだった。

 ……ようだったっていうか、そうなんだけどさ。


「ほのか、服決まった? 私は青い服の方がいいと思うんだけど」

「こっち? ……外に着るにはスカートが短くない?」


 決してスケベ心で言ったわけじゃないとだけ弁明させてほしい。


「まぁ、いいや。コレは家で着るからやめておくね。こっちにしよ」


 薄桃色のロングスカートに履き替えて、長袖のブラウスに袖を通した。自分の服はどうしようかと思案していると、ほのかはシャツと黒のパンツを用意してくれる。夏場には少し暑い気もするが、まぁ、折角選んでくれたし、これでいいか。……地味で目立たないし。


「じゃあ、いこうか~」

「はいはい。はぁ、今日も暑いね」


 誕生日配信から2日後。休日に合わせて改めて2人きりの誕生日パーティーをすることにした。別に大掛かりなものにするつもりはなかったが、ほのかがどうしても買い物に行きたいというので、日差しで溶けそうになるのを我慢しながらスーパーまで歩いている所だ。


 日影が多くてマシだが、それでも汗が垂れてくる。


 スーパーに着くと、一転して凍えるように寒い。ほのかの目的は定まっているようで、一直線に精肉コーナーまで歩いた。お肉が並ぶショーケースの前で少し悩んだそぶりを見せると、大きなステーキ肉を取った。


「のかちゃん? そんな大きいお肉食べきれるの?」

「まぁ、いけるんじゃない? 誕生日にステーキ食べたいって言ってたの、真琴じゃん」


 そんなことも言ったような気もするが、ここまで大きいとは思わなかった。……いやでもステーキいいなぁ。久しく食べてなかったし、楽しみかも。

 ちょっと、胃もたれが怖いけどね。


 その後、ケーキの材料をそろえて家まで帰る。生ものが多いので帰りは早歩きだ。


「あっつい……。ほのか、先にシャワー浴びてきたら?」

「うーん、時間勿体ないし、一緒に入ろうよ」


 なんて大胆で魅力的な提案!!

 ドキがムネムネ……、もとい、胸の高鳴りを必死に押さえつけながら彼女と共に風呂場へと向かう。


「やふ~。生きててよかった~!!」

「大げさすぎない!? っていうか、どこ触ってんの変態!! あ、馬鹿!!」


 体を洗ってあげるという名目で、ほのかの体をいじくり回す。さすがに本気で怒ったのか首筋を噛まれてしまった。……うわぁ、噛み痕ついてる。


「えー、じゃあケーキを作っていきます」

「ハイ。すいません」

「次やったら、警察に通報するからね。ああいうのは、雰囲気が大事なんだから!!」


 ちょっといろんな意味で警察は勘弁してもらいたい。


「真琴、ケーキの作り方調べて~」

「任せて。へい、Si〇i、日本の景気について教えて」

「誰が経済の勉強しろって言った!? そして、長々と株価情報を読み上げるな!!」


 軽く悪ふざけをしていると、私を無視して準備を始めてしまう。ケーキの作り方は数日前から調べて準備していた彼女のことだから、いまさらレシピを見る必要も無いのだろう。たぶん、念のため、確認程度に見ようとしたのだが、私がふざけているのを見て諦めたらしい。


 やだ、一緒に住んでるのに私への信頼度低すぎ!!

 一緒に住んでるからこそ、低くなったのかもしれない。


「あとは……真琴、これ混ぜてて」

「え、私誕生日……」

「当日じゃないじゃん。それに、手作りケーキが食べたいっていったのも真琴なんだから、少しは手伝って」


 そんなこと言ったかなぁ。……去年ぐらいに言ったかも。言ったわ。

 私はつくづく余計なことを言ってるし、ほのかはいちいちそれを覚えているらしい。


「みて、生クリーム、すごくよく出来てるよ!!」

「本当だ。すごく滑らかそうで綺麗だね。……ちょっと味見しちゃダメ?」

「ダメに決まってるでしょ!? ……ちょっとだけね?」


 2人でボウルのフチに着いた生クリームを舐めてみる。ちょうどいい甘さで美味しい。ほのかがボウルを腕に抱きながらかき混ぜていたせいか、少しだけ温かい気もする。これがこの娘の温かさか。

 ……いや、キモイキモイ。自分で自分にドン引きだ。


「そろそろいい時間だし、ケーキ冷やしてる間にステーキ作っちゃうね? サラダはいつものやつでいいとして……、味付けどうする? ソースか塩か」

「……あっさり系のソースってできます?」

「だし醤油とかをベースにすればできると思うけど、真琴が食べたいって言ってたの、お店みたいなステーキだよね?」


「……最近、胃もたれがすると言いますか」

「まだ、そんな歳じゃないよね!? ……いや、そんな歳か?」


 そこで納得されてしまうと悲しいことこの上ない。というか、いっそ虚しい。


「と、とりあえず、脂身少な目で作ってあげるね」

「ほのかもいずれそうなるんだからね!! 覚悟しておけよ~」

「嫌なこと言わないでくれる? 高校生に僻むなんてオバサン臭いよ」


 はい、いま全国のおばさんを敵に回しました。明日から、全国選りすぐりのおばさんが家に襲撃してきます。……いや、ここ私の家でもあるな。襲撃はやめてほしい。ほのか個人を狙ってほしい。


「まぁ、ほのかが狙われたら、私が全力で守ってあげるけどね」

「なーんか、カッコつけたこと言ってるけど、完全にマッチポンプだからね~?」


 バレた上に怒られた。

 なーんて、私がふざけている間にも手際よく料理は作られていく。完成したステーキと、私の特製サラダ(切っただけ)をテーブルに並べて2人並んでソファに座る。


 小さいローテーブルに料理を並べるのは窮屈だが、向かい合わせはほのかが嫌がるので仕方がない。まぁ、私も隣にこの娘が居ないのは落ち着かないから、むしろ歓迎だけどね。


 何気なくYouTubeを開いてみると、私のチャンネルの登録者数が5万人を超えようとしていた。そしてもうすぐ、予約投稿していた切り抜き動画がアップロードされる時間。

 動画の伸び方次第だが、十中八九、5万人を超えられるかもしれない。


「ほのか、見て!!」

「なに? ――登録者5万人!! え、すごい。やったじゃん。2つの意味でお祝いだね!!」


 興奮したように飛び跳ねて喜びを表現している。私よりも嬉しそうに満面の笑みを浮かべる彼女がとても可愛くて思わず抱きしめた。その意味を誤解しているのか、賞賛と応援の混ざった声を掛けてくる。


「真琴、ずっと頑張ってたもんね。5万人、一つの目標だったもんね」

「まぁね。収益も増えるし、生活にゆとりも出来る!! ほのかのバイトも減らせるもんね。……ここで一気に伸ばした方がいいよな。ちょっと、配信してくる!!」


 コレを利用しない手はない。有名な先駆者たちに倣って、5万人お祝いの配信をすべきだろう。とくに、昨日の配信は短めだったし、さらなく飛躍という意味でも重要度は高い。


「……配信? ダメだよ!! 今日は、私とずっと一緒に居てくれるって言ったじゃん」

「それを言われると、弱いなぁ……」


 もとはと言えば、ほのかがきっかけで始めた配信業。彼女を疎かにするということは自分を否定することに他ならない。それでなくても誕生日当日は配信を優先させてしまった。その穴埋めとして今日1日張り切っていたほのかをがっかりさせたくない。


「……5万人の配信は、また今度にしようか」

「そうして。ほら、料理が冷めちゃうから」


 こうやって、2人で誕生日のお祝いをしていると、去年のことを思い出す。あの時は買ってきたピザを食べながらお祝いしたなぁ。プレゼントも嬉しかったし……。


「あれ、去年の誕プレって何貰った? ……去年も2人でお祝いしてるよね?」

「何言ってるの? 恋人としての誕生日は初めてだよ。私の誕生日は2人でお祝いしたけど、真琴の去年の誕生日は、ほら――アレだったじゃん」


 少し言いにくそうに視線を伏せて呟く。

 ……いくら私が忘れたかった出来事とはいえ、それを彼女に言わせるのはあまりにも酷だ。


「あ、ごめん。そういうつもりじゃ……」

「大丈夫だから。それに、去年より、ずっと楽しい誕生日でしょ?」

「……あ、ああ、うん。楽しい。すごく、楽しいし、嬉しい。幸せだよ」


 言い聞かせるように繰り返す。自分に、ではなく、ほのかに向けてだ。


「あ、誕生日プレゼントも用意してるんだよ!!」

「おお!! 実は期待してたんだよね。なにかな~?」


「……ちなみになんだと思う? 真琴が欲しがってたものだけど」

「ほのかが着る用のエッチな水着?」

「そんなもの欲しがってたの!? 一昨年に買ったビキニじゃダメかな!?」


 あのビキニも大変素晴らしいと思うけど、私とお揃いって言うところがダメポイントだよね。もっと露出の激しい派手なやつを着てくれないと。あとたぶん、胸の辺りとかサイズ合わないんじゃ。……いや、私はおっさんか。


「真琴、付き合い始めてから下ネタ酷くなったよね」

「それはごめん、でもほのかが可愛すぎて。ずっと好きだったわけだし……」

「もう、そんなこと言われても誤魔化されないからね。……おっぱい揉む?」


 私の彼女、チョロいな。

 ちなみに誕生日プレゼントを真面目に考えた結果、ブルーライトカットの眼鏡じゃないかと思ってます。コレは、つい最近欲しいって話をしたからね!!


「あ、そっちか~。いや残念、正解はマイクでした~」

「は、マイク!? しかもコレいいやつだよね!?」


 プレゼント用ラッピングの箱から出てきたのは、軽量ながらも高級感漂う黒いマイクだった。スタイリッシュで無骨なデザインながらも機能性が高く、ノイズキャンセリング機能やハウリング防止に優れた名品だ。


「こ、これいくら……!? っていうか、そんなお金……」

「えへ、バイト頑張ったんだ。配信頑張ってほしいし。それを私の耳だと思って、いっぱい愛の言葉を囁いてよ」


「前半は嬉しいから素直に受け取るけど、後半は重いよ。あと、愛の言葉はマイク越しじゃなくて、本人に直接伝えるから!!」


 私の謎宣言に彼女は顔を赤くして俯いた。


「……真琴、そういうところがカッコつけって言うんだよ!!」


 我慢しないと嬉しさで涙が零れそうだ。それほどに喜ばしいプレゼントだった。値段や性能が――という意味ではなく、純粋に彼女の頑張りと心意気の話だ。


 ありがとう。一生大切にするね。

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