この同棲がバレたら（社会的に）死ぬ

【案件動画】ドラゴンライダーなのに龍王倒したったｗｗｗ【終末の飛竜/案件動画】

　……すぐに動画を作り終えられれば、なんとか間に合うだろうか。なんて考えられるのは、案件の大変さを知らなかったからだろう。

　増田から連絡を貰って、すぐに動画制作に取り掛かった。プロモ動画とは違って、普段のゲーム実況に近い動画形式だ。完成してすぐに増田に送ったが、さすがに寝て居るらしく返事はなかった。

　私も仮眠をとって、らんさんとのコラボに備えようとしていたのもつかの間――

『すみません、全体的にリテイクでお願いします。クライアントからの要望そのまま伝えますね』

　気が滅入るような動画の撮り直し、実況の付け直し。さらには、勝手に次も案件配信をすることになっていて、それを前提とした動画を作らされた。

『マコトさん、明日の配信の打ち合わせ、何時からにしますか？』

　増田のメッセージに埋もれた、らんさんからのメッセージ。昨日の段階で送られてきており、全く気が付かなかった。慌てて、返事をしようとして言葉に詰まる。……おそらく、今送ったばかりの動画もリテイクと言われるだろう。

　明らかに時間が足りない。人手が足りない。技術が足りない。

『ごめんなさい。別件で手が離せないので、今回のコラボは延期にさせてください。突然の連絡になってしまって申し訳ないです』

　絞り出すようにして、謝罪のメッセージを送る。

　しばらくの間。

　画面上には『らんさんが入力中……』とだけ表示されており、返事を見るのが怖かった。

『中止じゃなくて、延期ですか？　……都合悪ければ、いったん白紙でも大丈夫ですよ』

　労うようなスタンプ付きの柔らかい返信。急な連絡になってしまったというのに、怒ってないようだ。

『自分の都合なのに、申し訳ないです。せっかく誘っていただいたので、改めてスケジュール組ませてください!!』

『分かりました。落ち着いたころに連絡ください。なるべく空けておきますね』

　再び謝罪のメッセージを送って、一息つく。同じ頃に増田からの連絡も着ており、内容は、お察しの通りだろう。何度目か分からないリテイクに気分が下がる。

『話は変わりますが、5万人記念配信、いつ頃やりますか？』

　……ああ、それもあるのか。

　いや、分かっていて目を逸らしていたことだ。ヴォイドさんも待たせているし、らんさんにもお祝いさせてほしいと言われている。もちろん、レナさんとオタクさんもだ。

　それだけじゃない。一番長く待たせてしまっているのは、リスナーだ。

　案件配信が無ければ、すぐにでも企画を立てて配信をするつもりだったのだが、そうも言ってられない状況になってしまった。

　どうにか時間を工面しようにも、今までに比べて規模の大きい配信になると思うので、都合が合わない。

『すみません。記念配信の日程も決まってないです。スケジュール合わせられるようにしますので、もう少しだけ待ってください』

『そうなんですね。一応、お盆の頃とその後1週間以外なら、時間ありますので、いつでも誘ってください』

『あと、延期の件、Twitterでも報告しますよね？　何時ごろにしますか？　理由は2人とも急用が出来たって言っておけば角が立たないと思うんですけど……』

　何かを察したであろうらんさんの気遣い。Twitterでの報告はすぐにでも済ませることに決まり、急いで文面を作る。多くは、延期を悲しむ声や、次への期待のメッセージで溢れていたが、わずかに、私への中傷も含まれていた。

　……よほど、昨日の案件配信が悪く響いたらしい。

「もっと、面白くできたはずなのに。……私の責任か」

　さらに届く増田からの連絡。内容は、今までと同じ。気安く言っているが、5分の修正に30分は掛かるのだ。あくまで軽い手直しだったらという話だけれど。

　ここ数日で、嫌というほど見慣れてしまった『終末の飛竜』のタイトル画面とは裏腹に、全く練習が出来ていない『ソルジャー＆ファイト』

　5万人記念配信。プロゲーマー。コラボ配信。ゲーム実況。シチュエーションボイス配信。TwitterのDMに届くボイメリクエスト。思いついているのに形にできていない企画。

　……考えなくてはならないことが多すぎる。

「ほのか……」

　うわ言のように呟くが、当然のように返事はない。

　震える手を必死に押さえつけながら、パソコンに向き合って動画を作る。増田から届く無神経な最速のメッセージと無茶な手直し要求に答えながら、ギリギリの時間で動画が完成した。

　なんとか時間を守ってアップロードする。

　Twitterの方で告知もするが、やはりリスナーの反応は厳しいものだった。動画のタイトルもサムネも内容も、全部が私らしくない。

　ありていに言えば、『ファンタジークエスト』の実況動画で有名なYouTuberのパクリと言われても仕方がないような内容だった。もちろん、それとなく抗議をしたが封殺された。

　普段とは違い、高評価よりも低評価の数が多い。

　コメントも……悪い意味で増えていた。

モノラル：完全にパクリで草

ＥＮＧＡＧＥ：案件臭キッショ

トーマの母：あー、マコトくんもそっち行っちゃったか～ｗｗｗ

レッドカード：なにこれ、ファンクエの人のパクリ？　おもんな

powerたん：えｗなんか既視感あるんだけど笑

マコくん最強卍：ぜんぜん、マコくんらしくないね

　わずかに『やってみようと思いました』というような肯定的なコメントも見受けられるが、本当に少数だ。ほとんどが、動画のパクリに言及するコメントばかりで、見ていて気が滅入る。度が過ぎているコメントや、他のリスナーにまで害が及びそうなものは消しているが……。

「あはは、これ、何……？」

　今までとは比べ物にならないスピードで再生回数は上がり、比例するかのようにコメントの数も増えていく。……当然、いい意味ではない。

「はぁ、もう、やめようかな」