【案件打ち合わせ】イケボの『初!!』案件動画・打ち合わせ編【打ち合わせ/ゲーム実況】

 今回、案件を依頼してくれたのは『株式会社アドバンス』の増田さんという方だった。

 ゲーム配信や実況動画を上げているチャンネルをピックアップして、その中でもゲームの雰囲気にマッチしていたということで選んでくれたらしい医。


『マコトさん、初めまして。今回はよろしくお願いします』

「よ、よろしくお願いします……」


 ヘッドセット越しに聞こえる野太い男性の声。溌剌としていて自分とは大違いである。ここ数日の配信で、人と話すのに慣れたと思っていたが、初めての人が相手では緊張する。

 ちょっと声が上ずってしまって恥ずかしい。


『さっそくなんですけど、案件受けていただいてありがとうございます』

「あ、いえ、こちらこそ……」


『今回、配信で取り上げていただきたいゲームがですね、こちらの【終末の飛竜】というゲームになります』


 YouTubeを見ていると、何度も広告として出てくるゲームだ。……広告の内容からはどんなゲームなのか想像できないが、最近流行りのMMORPG系のはず?


『まぁ、【ファンタジークエスト】とかご存知ですかね? アレと似たようなゲームです』

「は、はぁ……。そうなんですか……?」


 広告出す側がそれ言っちゃっていいの!?

 【ファンタジークエスト】と言えば、RPGの金字塔とも呼ばれており、社会現象にもなったほどの有名タイトルだ。いわずもがな、私のチャンネルでも実況している。


「えっと、【ファンタジークエスト】って神天皇グループの子会社が出してるゲームですよね……? その、パクリとか言っちゃって大丈夫なんですか?」

『さぁ? まぁ、でも配信で言わなければ大丈夫ですよ』


 おちゃらけたような増田さんの態度に不安がよぎる。案件ということで私が身構えすぎているだけなのかもしれない。案外、私の緊張をほぐそうとして、冗談を言っているだけなのかも……?

 そんな様子には見えないけれど。


「えっと、ゲームをプレイするだけってことでいいですか? なにかアピールとか……」

『ああ、その辺は全部マコトさんにお任せしますよ。こっちで色々縛っちゃうとやりにくいでしょうから』


「そ、それは……、まぁ、お気遣いありがとうございます。えっと、動画として出すんじゃなくて、配信でプレイするんですよね? ……出来れば台本とかあると良いんですけど」

『台本ですか? うーん、そういうのは用意するつもりないですね~。マコトさんの方で準備してもらう分には構いませんよ』


「あ、そうなんですか……。ちなみに配信の日っていつにしますか? 来月ぐらいなら……」

『ああー、配信日……。えーと、決まってないんですよね~。うーん、それもお任せします。マコトさんのご都合に合わせてもらえれば!!」

「あ、ああー。ハハ、な、なるほど……」


 何から何まで私に裁量があるようだが、本当にそれでいいのだろうか?

 打ち合わせの前に、レナさんの案件動画を見返してきたのだが、紹介する化粧品のアピールポイントなどを話していた。てっきり、その辺りの指示が出るものだとばかり思っていたのだが。


「ゲーム配信だと勝手が違うのかなぁ?」


 マイクに声が張らないように、口の中で言葉を漏らす。ゲーム実況の案件はレナチャンネルではやっていなかったし、らんさんの実況まで見る時間はなかった。あとで確認してみよう。


『とくに、聞きたいこととか無いですかね? 打ち合わせはコレでいい感じですか?』


 ……正直、不安はある。けれど、折角任せてもらっている以上、出来る限り頑張りたい。なにより、増田さんは次の予定が控えているかのように焦っていた。長々と引き留めるのも申し訳ない気がして、打ち合わせを終わらせる。


 なんだか、肩が重い。

 胸の中にモヤモヤした感覚だけが残って、形容できない重圧が身体を押しつぶした。タンブラーの中身も減っていたので補充がてら部屋を出る。


「あ、ほのか……。まだ起きてたの?」

「うん? 打ち合わせ終わったの? お疲れ様~」


 リビングで課題をやっているほのかの姿が目に入る。

 お風呂上りなのか、傍に寄ってきた彼女の体温は高い。けれどそれも、冷房によって刻一刻と冷やされていた。彼女の顔が熱いうちに頬を触って暖をとる。


「わぁ、まこの手冷たいね……?」

「なーんか、色々あってさ~」

「これからご飯だけど、一緒に食べる?」


「……たべる」


 すぐに部屋に戻ろうと思っていたが、気を使ったほのかに引き留められて、リビングのテーブルに座った。キッチンに立った彼女はテキパキと夕食の準備を始めた。

 手持ち無沙汰な私は、何の気なしにTwitterを覗いてみる。いわゆるエゴサというやつだ。


「今日は、夏野菜カレーにしてみました~!!」

「……ただの野菜多めのカレーじゃん」

「いいの!! 夏っぽい雰囲気を出したいだけなんだから」

「申し訳程度の夏要素が名前にしか出ていない!?」


 夏野菜カレーという名の肉なしカレーが登場する。私がお肉を買い忘れるというミスをしたのが発端とは言え、あまりに酷い……。いや、酷いのは私の記憶力の方だった。


「それで、何があったの? 聞いてほしいって顔してたよ~」

「嘘。私って、そんなに顔に出てる?」


 わざとらしく顔を触ってみると、ほのかはくすくすと笑い始めた。


「まこの顔には、ほのかちゃん大好きって書いてあるよ」

「それは一生消えないね~。ほぼタトゥーだね」

「顔面タトゥーとか怖い!?」


 彼女の優しい雰囲気に当てられて、先ほどまで抱えていたモヤモヤが霧散した。カレーを食べ終えて、開いた皿を洗面台にもっていこうとして、手招きされる。


「のかちゃん何~? 大好きって言ってほしい?」

「いいから、こっちきて」


 薄く微笑んだほのかに言われるがまま、彼女へと顔を近づける。ギュっと抱きしめられて、甘い香りと柔らかい胸の感触が顔を包んだ。

 そのまま、私の長く伸びただけの髪を細い指が通る。


「ちょっと聞こえてたよ。なーんか、嫌な感じになってるみたいだね?」

「……うん。何から何まで私任せでさ、投げやりな感じなんだよね」


 不思議と、言いにくいと思っていた言葉がスッと出てきた。と、同時に抱えてた息苦しさも抜けていく。その後も、耐えがたいような意味のない愚痴を聞き続けてくれる。


「ごめん、ほのか。もう、大丈夫だから」

「本当に~? 無理しなくていいからね?」

「大丈夫だって。ありがとうほのか。大好き」


「ん……。もう、真琴は困ったら、すぐにそうやって言うんだから!! ズルいよ」


 顔を真っ赤にして照れながら、ほのかは私の手を掴む。優しくなでる感触がくすぐったい。


「――真琴、

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