【まったり生活】2人でマック食べます【百合/イチャイチャ】

 警官の心配をよそに、特に何事もなく家まで着いた。ほのかと並んでキッチンに向かうと透明なグラスに水を注いで、手渡される。何かを言うわけでもなく、うがいをしろという意味だ。まぁ、イケボ(笑)配信者として売り出してるから、大事だよね。


「マック、マック、楽しみ~」


 私はダイニングのローテーブルに袋を無造作に置いた。ご機嫌なほのかはオシャレにウェーブさせた髪を揺らしながらピンク色のルームウェアに袖を通している。ちなみに、お揃いで買ったけど、私は一回も着ていない。

 くたびれた枯れ木が可愛い服着てたら笑うよね。笑わない? むしろ、ドン引き?


「ほのか、バニラシェイクだよね?」

「そだよ~。あ、今一口飲みたいから頂戴」


 零さないでね。と声を掛けながら冷たいカップを渡す。口をつけたて吸いだしてもシェイクが飲めないらしい。ストローをかき混ぜながら首をひねっていた。


「歩いたから溶けてると思ったのに~」

「深夜だから冷え切った状態で提供されたんじゃないの?」


「へぇ、そうなんだ。マコト物知り~」


「……いや、適当に言っただけなんだけど」

「嘘かい……」


 別に嘘を吐いたわけじゃないんだけど。と反論しようとするが、口をとがらせてシェイクを吸いだそうとしているほのかの可愛らしい仕草に微笑みを浮かべる。


「私、まだ下履いてないのに~。私のパンツ見て興奮したの? 真琴のえっち」

「別に~。可愛いパンツなんて見てないよ」


 私の言葉に頬を赤らめる。若干の身長差もあって上目遣いにこちらを見てくる姿にはドキリと胸が跳ねた。誤魔化すようにコーラに手を伸ばすと、不満をぶつけるように脱いだばかりのスカートを投げてくる。


「お腹空いたし、ポテト食べよ」


 気ままな彼女に振り回されながら肩を竦めた。座椅子に腰かけて包装を広げる。

 テーブルの向かい側に彼女の分を置いていたが、ほのかがスススッと移動させて隣へと移動してきた。小さい机に対して座椅子2つは横幅が足りない。


「そういえばさっき、姉妹に間違えられちゃったね」

「なんでだろうね。私とほのか、全然似てないのにね」


 陰鬱としていてお化けのように青白い顔の自分と、ハキハキしていてどこか温かみのある表情を浮かべているほのかでは天と地ほどの差がある。百歩譲って従妹だというのなら辻褄は合うのかも……。いや、合わないか。


 事実、私とほのかは家が隣同士だっただけの幼馴染だ。


 たしかに長いこと一緒に居るが、顔や雰囲気が似ているとは思えない。……というか現役女子高生で毎日肌の手入れをかかさないほのかと、引きこもりで髪すら纏めていない自分では、似ている所を探す方が難しい。せいぜい、人類の女であることだけが共通点だ。


「顔も声も正反対だもんね」


 キャピキャピしていて全体的にトーンが明るい彼女に対し、私は大声を出すのが苦手で、いつも不機嫌そうな声を出してしまう。素の声が女らしくないということもあって、緊張している配信中は無意識にイケボ(笑)になるのだ。


 まぁ、視聴者の言う通り、声だけは自信がある。それ以外が絶望的だけど。


「そういえばさ~、今日の配信でマックの話してたじゃん?」

「ああ、私がアボカドバーガーを前に茫然としてた話ね」


「そんな重苦しい話じゃなかったよね!?」


 陰キャの私にとってみれば注文を間違えられるというのは、地獄の拷問にも等しいのだ。何せ、店員さんに間違ってますと言えないのだから。


「あれさ、続きあるよね?」

「続き……? 小学生のほのかに泣きついて、商品変えてもらったこと?」

「それも話した方が絶対面白くなったでしょ」


 ほのかの言う通りだった。多分、その話をオチにすれば、皆ももっと盛り上がれたかもしれない。

 今、ほのかと一緒に暮らしていることは内緒にしなければならないが、高校生の頃の話をするだけならば、いくらでもボカして喋れた。


 そして私は、未だに年下の女の子に助けてもらっていた。


「我ながら変わらないな……」


 くしゃくしゃになったマックの包装紙を見ていると、アボカドバーガーを目の前に頭が真っ白になっていた昔の自分を思い出す。


「聞きそびれてたんだけど、ほのかはどうしてあのマックに居たの?」

「覚えて無いな~。お父さんとお母さんがだからじゃない? で、暇だったから真琴のことをストーカーしてたとか。小学生の私ならやってそうじゃん?」


「怖いよ。女子小学生は、ストーカーされる側に居てよ。する側になっちゃいけないんだよ」

「ストーカーは基本的に誰でもする側になっちゃダメだよ」


 ほのかのストーカー気質は未だに直っていない。どうも、1人きりになるのが怖いようで、お風呂や寝室、果てはトイレまで付いて来ようとする。いや、可愛いからいいんだけどさ。

 美少女が刷り込みされたひよこみたいに後ろくっ付いて歩いてるとキュンキュンするよね。


「まぁでも、ほのかがストーカーされるなんてことになったら、絶対、私が助けるから」


 彼女と手を重ね合わせて、まっすぐに目を見つめて言う。ほのかは潤んだ瞳は点のように小さくなって、途端に顔を真っ赤にした。

 

ブンブンと手を振るが、振り払おうとはしない。


「真琴って、昔からカッコつけだよね。バーカ、バーカ、髪長お化け、イケボ、あんぽんたん」


 イケボは普通に褒めてるだろ。と突っ込みたくなるのを我慢して、ほのかの肩を抱いた。文句を言いながらもゆっくりと抱き返してくる。


「ニヤニヤすんなよ~!! 真琴のバカ。明日、外に連れてってやる!!」

「照れなくていいよー。ほのかはかっこつけでも私のこと好きだも……」


 今、何か不穏な発言が聞こえたような……。


「ほ、ほのかさん? 今なんておっしゃいまして!?」


「明日、出掛けるから。マコトも一緒にね」


 有無を言わさない小悪魔のような瞳に見つめられて、私は視線を逸らすことしかできなかった。外出イベントを無事に回避できるかどうかは、明日の私に託すしかないか……。

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