大忙し配信編

【ホラー配信】イケボ彼氏と深夜の学校を探索する!?【ゲーム実況/シチュボ】

 いつも通り配信の準備を始めると、私の第一声よりも前に多くのコメントが流れ始めた。いつもの挨拶を期待する声と、配信が始まったことによる歓喜の声。

 少し恥じらいと緊張を感じながらも、小さな咳払いをしてマウスを握り締めた。


「こんばんわ。マコトです。今日も見に来てくれる皆が大好きだよ」


スレイマンの星:きた!!

カルボナーラ:マコトく~ん、スキ~!!


「今日は、皆と一緒に深夜の学校に行こうかな。こういうデートもちょっと楽しいよね」


A~A~:この無邪気さで救われる命があるッ!!

耕:は、お前可愛いかよ

豚の餌:あ、オタク浄化されちゃうぅぅ!?

モネ:ショタと深夜の学校とか、事案では!?


「完全初見だから、超楽しみ。でも僕、ホラーは得意なんだよね」


【カルボナーラさんが250円スパチャしました】

カルボナーラ:先に悲鳴代渡しておくね

ビスケット:悲鳴代www


「いや、ビビらないから。お化けとか平気なんだよね。むしろ、生きてる人間の方が怖い」


モネ:でた、陰キャwww

豚の餌:まぁ、ぶっちゃけそれはある

マックのポテト:これでビビってたら可愛いw


「じゃ、進めていきまーす」


『マコトは、彼女のサチと共に町で噂になっている都市伝説を確かめに来ていた。不気味な深夜の学校で7不思議の探索をしていたが、何も起きずその日は帰った』

『しかし数日後、ネックレスを失くしたので取りに行くと言っていたサチと連絡が取れなくなってしまう。そこで、マコトは再び、不気味な学校へと赴くのであった……」


「……なんで夜に行くん? 昼行けばいいんじゃないの。怒られるから行かないの?」


モネ:もっともな指摘じゃん

トーマの母:この学校、すでに廃校になってるからだよ

トリスカイデカフォビア:ゲーム的な事情に突っこんでて草


「学校とか、いい思い出少ないけど、夜なら余裕で行けるね」


カルボナーラ:嫌なタイプの陰キャだwww

ステップステップ:夜だと強気なの笑う


「あ、さっそく教室になんかある」


『サチのネックレスを手に入れました』

『このネックレス、サチが着けてたものだ……。サチはどこに?』


「サチのネックレス、ダッサ!? え、コレ僕がプレゼントしたものだとしたらセンスを疑うけど!?」


ビスケット:今時、デカい真珠のネックレスとかヤバ

豚の餌:ババアが付けてる奴じゃん


「ホントだよ。めっちゃ厚化粧の小太りババアが付けてそう」


豚の餌:偏見すご

カルボナーラ:今のダッサの部分だけリピートください


「カルボナーラさん、ダッサの部分だけリピート? ……ダッサ」

「え、コレ本当に需要ある?」


トーマの母:あ、驚きポイント来るよ


『……風の音が強いな」


バンッ!! ガタガタガタ


「わぁ、今の、音大きくなかった? 調整必要かな?」


耕:めちゃくちゃ冷静じゃん

トリスカイデカフォビア:マジで驚かないね。ホラー耐性つよ~

豚の餌:え、ショタに守られるとか天国?


「じゃあ、先進もうか~」


『サチを探さなきゃ。……まずはどこに行こうかな?』


「あ、選択肢タイプか? これ、どこ行ってもイベント一緒かな」


豚の餌:音楽室、おススメ

ビスケット:音楽室行ってみたら?

トリスカイデカフォビア:音楽室に行けるよ


「え、皆、めっちゃ音楽室推すじゃん。そんなに言うなら、行ってみようかな~」

『とりあえず、音楽室に行ってみよう。サチは楽器が好きだから』


「音楽室まで来たけど、何ある? あ、選択肢。鍵盤、絵、黒板、音楽準備室」


『少し、音楽準備室を覗いてみよう』


トリスカイデカフォビア:あ……

ビスケット:初手、そっちか~

トーマの母:サチ死んでるから、グロ注意!!


『そこには、首のない死体があった。何かに挟まれて頭が斬り落とされているらしい。その服装には見覚えがあり、サチが気に入って着ていたワンピースだった』

「あ、コレ、さっきの女の子が来てた服じゃん。え、めっちゃ血出てる」


カルボナーラ:ネタバレうざ~www

スレイマンの星:開始数十分で目的果たしてて草


「まぁ、通報するよね……って圏外。そりゃそうか。で、あとは出口も開かないパターンね」


スレイマンの星:マジで全然動じないwww

ビスケット:マコトくん、メンタルつえ~!!


 なんやかんやとゲームを進めていき、特に驚くことなくあっさりとクリアする。胸糞の悪いエンディングではあったが、大きな悲鳴を上げたりすることも無かった。少し盛り上がりに欠けるかとも心配したが、視聴者たちはその反応すら楽しんでいた。


「じゃあ、今日はここで配信終わろうかな。配信見に来てくれてありがとう。スパチャは明日の雑談配信で読ませてもらいます。今夜、君と夢で会えますように」

「SeeYouAgain」


 視聴者たちのコメントを眺めながら、配信を終わらせる。薄桃色のタンブラーに注がれた水が温くなっていたので、冷蔵庫から氷を取りに行く。

 配信用のPCをシャットダウンさせたら、モニターを繋げ直して、動画編集用のパソコンを立ち上げなきゃ……。


 あ、そういえば、ヴォイドさんからゲーム誘われてるんだ。配信に載せないとはいえ、少し練習しておかないと。プロになるかは悩んでいる最中だけど選択肢を潰す真似はしたくない。


「あとはー、アレか。切り抜き動画2つ作って、シリーズ物の動画も取らなきゃ。セリフ読みのDM溜まってるし返さないと」


「真琴!! 配信お疲れ様。お願いがあるんだけど……」


 リビングに出てきた私を呼び止めたのは、前髪を可愛いピンで留めたほのかだった。スマホには私の配信の画面が表示されているが、再生ボタンが停止されている。


 色違いのお揃いで買ったルームウェアを着ているだけなのに、モデルのように着こなしていた。

 私が着ているときは、少しオシャレなくたびれスウェットみたいなのに。


「さっきの配信見たいんだけど、ホラー苦手だからさ。一緒に見たいって言ったらダメかな?」

「なんだ、お願いって言うからもっと深刻かと思った。そのぐらい全然いいよ」


 いや、正直言えば、自分の配信を見るというのは恥ずかしいけど。……アレ? さっきまで視聴者相手に愛の言葉を囁いていたけど、それを自分で聞くってこと!? 羞恥プレイにもほどがあるでしょ。


「怖いゲームやるって聞いてたからさ。一人じゃ見れなくて……」

「そんなに怖くなかったけどなぁ~」


「それ、真琴が怖いの得意なだけでしょ。お化け屋敷とかいっつも1人で行っちゃうんだから」


 ほのかが小学生の時、私の家族と遊園地に行ったことがあった。その時、お化けを怖がるほのかを置いてズンズン先に進んだことを言っているらしい。あの時は冗談抜きで1万回ぐらい謝り倒した覚えがある。


 ほのかにはもちろん、私の両親にもそれなりに怒られた。


「あ、でも、忙しい?」

「……平気平気。自分の配信見返すのも、ある意味タメになるし!!」


 気遣い半分本音半分といったところだ。

 ここ数日のほのかは、思いつめた表情をしていることがあった。どうしても心配で学校まで押しかけてみたが、親友を名乗る女の子が居たので、少しは安心できる。


 それに先日帰ってきたほのかは、ずいぶんとすっきりした顔をしていた。私の伝言の効果もあったと信じたい。


「じゃ、見ようか」

「ちょっと、どこ触ってるの!? もう、そういうのは見終わってからね!!」


 ……終わったらいいんだ。という言葉は飲み込んで、ソファに二人で座り手を繋ぎながら動画を再生し始める。こんな時間が、永遠に続いてほしいと願いながら。

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