第6話 望まれない出産、捨てられる数時間前――


私は産まれてきてはいけなかったんだと……。


私は望まれてできた子じゃなかったんだと……。


私は母に抱かれ、どこか別の部屋へと入っていった。


少しして、水が流れる音が聞こえてきた。


母に抱かれた私は母の体温を肌で感じていた。


「さあ、お風呂に入ろうか」

そう言って、母は私を抱いたまま 少しだけ入った湯水に浸かる。

ほどよく温まったお湯は身体中がポカポカしてきた。

「沐浴って初めてなんだ。でもね、本屋さんで立ち読みしたの。

うまくできなくてごめんね」


母の胎内の温もりとはまた違う あたたかさがそこにはあった。


「さっちゃん、ごめんね……」


もちろん、母が言った言葉など理解することはできなかった。

だけど、抱きしめられ、不器用に私の身体を洗う母の手は震えていた。

私の身体に冷たい水泡がポタッ、ポタッと滴る。


それは、まるで優しさと悲しみが入り混ざった別れの予感がした。


私の濡れた身体はタオルで拭かれると、小さなベビー服を着せられた。


そして、私の身体は強く抱きしめられた――。

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