第36話 デート…嬉しいプロポーズ

和美はいつもより念入りにオシャレな服を着てお化粧をする。

〈本日のデートのお相手は15歳年下のイケメン。かなり若作りしないと

恥ずかしくて修二君の隣なんて歩けない〉


「修二君、お待たせ」


和美が玄関で待つ修二に駆け寄っていく。


「‥‥!」

修二は和美のその美しい容姿に見惚みとれ、赤く色づく頬を照れ隠し、

その視線を和美から逸らす。

「―…ん? どうしたの?」

「別に…」と、口籠くちごもる修二の前に立ち、和美は上目線で

修二の顔を覗き込む。その顔はとても38歳には見えない程に愛らしく

修二の視線に映る。


そんな和美の可愛く振舞う仕草に修二は再び赤面する、、、、、、。


「どうしたの? やっぱ、この格好、変化かな? かなり、頑張ってみたんだけど」


「……変じゃないよ」


「え?」


チラッと横目で和美の唇の場所を確認すると、不意をつくように

修二の唇が和美の唇に触れた。


〈…ドキッ〉


「すごく、キレイだよ。俺、今、すっげードキドキしてる」


「修二君、、、、」

〈今日の修二君、なんだか大人っぽい感じがする。修二君も私に合わせて

くれたんだね、ありがと〉


「和美さん…行こうか…」


「うん…」

修二が差し出す手を和美がゆっくり取ると、修二は照れながら頬を赤く染めて、

その手を握り返してきた。

〈修二君…〉

次第にポワッと身体中が火照ほてってきた和美が恥らいを隠すように

その顔を伏せると、修二はそんな和美に視線を向け優しくはにかんでいた。


ぎこちなくも肩を並べ修二と和美は寄り添うように部屋を出る。


2人がマンションの外に出ると青空に白雲が流れるように泳いでた。


修二はその繋いだ手を離すことはなく、和美の歩幅に合わせ まったりと

道なりを歩いていく。


「今日の朝ご飯も美味しかったね。修二君が作る卵焼きもお味噌汁も

めちゃくちゃ美味しかったよ」


「和美さんの胃袋をつかんでないと逃げられたら困るし……」


〈……ドキ、、、〉


「じゃ、今度 私も料理作ったあげるね。一応、これでも主婦してたし…別れた夫の口には合わなかったみたいだけど…。『こんなもん食えるか!』って、殆ど家で食べたことなかったし…」


「…え?」


「そんなこと言われたらさ、ご飯なんて作る気なくなるよね(笑)」

和美は苦い昔話を淡々としゃべり面白く笑い話に変えていた。


「私の魅力はこの体だけなんだってさ。性欲だけ満たせればいい…みたいな?

女の美貌なんてさ、いつか衰えてくるのにね(笑)」

 

「……」


「ああ、だから私は暴力を振るわれてたんだなきっと…女の価値がなくなって

きたから」


自然が流れるように修二の指が和美の指の間をぬって絡まってくる。


「俺は和美さんが作る料理なら全部食べるよ」


「……え」


「それにさ…いつか、人間は衰えていくものでしょ。それは女も男も同じだよ。

俺はそう思うけど…」


「修二君……」


「でも、修二君が衰える前に私の方が先におばあちゃんになっちゃうかも…」


「じゃ、俺がずっと見ていてあげる」


「え?」


「和美さんがどんなおばあちゃんになっていくのか楽しみだなあ…」


「修二君…それって…」


「ねぇ、和美さん…俺と結婚しない? っていうか、俺と結婚して下さい」


「修二君、それってプロポーズだよ。意味わかってるの?」


「あ、また子供扱いしてる? 和美さんって、ちょこちょこ俺の事、

子供扱いするとこあるよね」


「だって……」


「和美さんとずっと一緒にいたいんだ。それだけじゃダメかな?」


「ダメだよ」


「え?」


一時いっときの感情に流されちゃダメだよ。いつか修二君、

後悔するよ」


「―--かもね」


「え?」


「でもさ、一緒に居たいんだ。意味なんてない。理屈じゃないんだ。

たださ一緒にいたいだけ。同じ朝を迎えて、一緒にご飯を食べて、同じ景色を見て、

たまにこんな風に出かけたりさ。結婚てさ、今の生活の延長じゃん」


「修二君…」


「それに…少なくとも俺と一緒にいると、また和美さんがバカな考えを

起こす前に止められるし…」


「奇跡だね。もしも、あの日、修二君に出会わなかったら、私はこの世に

いなかったかもしれないんだもんね」


「きっとさ、俺と和美さんが出会ったのには何か運命があるのかなって…」


「ほんとに私でいいの? 15歳も歳が上なんだよ。修二君が33歳になったら、

私は48歳。修二君がまだ43歳で私は58歳。修二君がやっと53歳になっても

私68歳? 死んでるわ、、、、」


「ぷっ(笑)。そんな先まで考えてどうすんの?」


「考えるでしょ。普通、考えるよ」


「それに和美さんは68歳で死なないって…」


「そんなのわかんないじゃん。人間の命なんてさあっけなく散っていくんだから」


「それでも、俺がちゃんと最後まで見届けるから」


〈修二君……〉


和美は涙が零れにように天を仰ぐと、目尻についた水泡を親指で拭う。


「修二君、ありがとうね。最高のプロポーズだよ」


修二は眩しい程の笑顔で微笑んでいた。


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