第23話 違和感

私が不信感を抱いたのは5歳の頃だった。

幼稚園の年中の頃までは気にならなかった周りの目が気になるようになっていた。

ちょうどその頃、私の視力は0.8くらいまでは見えていた。

遠近感もわかるようになり、言葉も殆どしゃべれるようになっていた。

私は口癖のように「なんで? なんで?」とよく聞いていた。

その度に口籠くちごもるママやパパ、じいじ、三奈ねぇ、音ねぇに違和感さえ

覚えたのを覚えている。須崎家の人々と距離を感じるようになったのも、この頃からだったように思う。みんな、何かを隠している。だけど、私は聞けなかった。


いつも思っていた。


三奈ねぇや音ねぇはママのことを「なんで、おばあちゃん」って呼ぶのだろうか?

と、私の頭の中に1つの疑問が生まれた。

私は気になったらとことん気になるタイプだということがわかった。


それに仏壇に飾れている写真を見るたび、誰なんだろう…って…思っていた。


その写真は若くて、キレイな人だった。



この違和感は何だろうって…ずっと思っていた。


でも、誰にも聞けなかった……。



もしも本当の事を知ったら今よりもっと残酷な真実が待っているような気がして、

幸せが壊れていくような気がして怖かったんだ…。


幼稚園の友達のママは若くて綺麗なのに、私のママは顔や手にたくさんシワがあり、歩くのも遅い。私がママだと思っていた人は本当のママじゃないんじゃないかって、

疑問だらけの頭の中はいっぱいになりとうとう限界がやってきた。


「なんで、ママはそんなにヨボヨボなの? お友達のママはいつも綺麗なのにさ」

私はひどい言葉を投げ放った。ママは悲しそうな顔で私を見ていた。

私をここまで大きくしてくれた人なのに、なんでそんなひどい言葉が言えたの

だろうか…なんて、思う頭がまだ4年しか生きていない私にあるはずもなく、

理由なんてなかった。それは簡単に口から出た言葉だった。

ママは黙ったまま何も言わなかった。


次の日、ママはいつもよりオシャレな服を着て、普段、化粧なんてしないのに

「さっちゃん、どうだい10年、若くなっただろう?」と、白い顔に真っ赤の口紅をつけて普通に言うもんだから、私は思わず吹き出した。

「ごめん…。もういいよ…。やっぱり、前の方がいい…」

「お、そうかい」

そう言って、ママは顔に塗りたくった厚化粧を水で流していた。

「少しなら化粧してもいいよ」

私が照れた口調で言うと「そうかい 」と、ママは口紅を薄く塗って玄関で待つ

私に歩み寄ってきた。

「さっちゃん、おまたせ。ほな、幼稚園に行こうか」


私は差し出すその手を取り、ママと一緒に幼稚園に向った。


ママの手はシワシワでガサガサしていた。


私が視線を向けるとニッコリ笑った顔にも目尻にシワが2本、3本できていた。


だけど、その手は温かくて、私に優しい笑顔を向けて微笑んでいた。


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