第22話 ミルク+離乳食がはじまる
幸子が須崎家に来て半年が過ぎようとしていた。
幸子はすくすくと順調に育っていた。
動くオモチャに反応し、音葉と三奈子が遊び相手になってくれていた。
「そろそろ、離乳食をはじめてみようかの」
多江は食べやすい物からすり潰し、野菜と一緒に混ぜ合わせてみるが、
味薄な食事に最初は上手く食べれず、幸子は『ペッペッ』と吐き出していたが、
多江の辛抱強さと、体力と熱意に負け、次第に幸子は離乳食を少しずつ食べるようにもなってきていた。そのうち、幸子の口の中にも変化が見られ下の前歯2本が生え、離乳食もドロドロにすり潰した味薄な食事から柔らかめの固形になり、幸子の成長と共に徐々に固めの固形へと変わり、味も薄味から次第に濃い味へと変化していった。
そして、周りの人と同じものが食べたくなり、音葉や三奈子が食べている物を欲しがるようにもなった。
音葉が一口 口に入れてあげると幸子は喜んでもう一回と訴えかけるように口を開ける。こうして幸子は段々と皆と同じものが食べれるようになっていった。
赤子は世話をしてくれている人の事を日々の暮らしの中でちょっとずつ時間をかけて自分の母親だと認識するらしい。
実際に幸子は多江のことを「ママー、ママー」と、無意識に呼んでいた。
幸子自身も多江のことをママだと思い込んでいた。それは、まだ幼い幸子が成長するかてにおいて必ず通る道だった。いつかは本当の事を知る日がくるだろう…。
だけど、幸子が自分から聞いてくるまでは『このままでいよう』と、須崎家のみんなは温かく幸子の成長を見守っていたのだった。
赤子の時の記憶など成長していく度に少しずつ古い記憶は抹消され、それと同時に
新しい記憶がどんどん上書きされていく。人間の脳は自分の都合のいいようにできているのだ。
赤子に関わらず、人は皆 都合のいい生き物にすぎない。
もはや幸子の脳裏には実の母親と父親の記憶さえもなく、ましてや捨てられた日の事など、とっくに忘れていたのだった―――ーー。
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