第26話 三奈子の結婚
「ピンポーン」
玄関の方からインターフォンの音が聞こえてきた。
「あ、三奈ねぇか音ねぇかなあ」
私は夕食の準備を途中で中断して台所を出て行く。
お姉ちゃん達がお客さんを連れて来るゆうて電話があったもんだから、
私とおばあちゃんは大急ぎで夕食の支度をしていた。
『お客さんって、もしかして彼氏かな?』
『三奈ちゃんもええ歳やからな、もしかしたら結婚するかもなあ』
そんな話をおばあちゃんと話していた所だった。
『結婚かあ…。相手、どんな人なんやろかなあ? 楽しみやなあ…』
『あ、でも、普通の友達かもしれんけん、帰って来ても、さっちゃん ”しー”やで』
と、おばあちゃんは私に念を押すように口元に人差指を立てて言った。
『うん。わかってるよ』
ここは、口にチャックです。私は唇を閉ざしたまま、自分に言い聞かせるように
心を無にする。
「こんばんわ、おばあちゃんいる? さっちゃんー」
この声は三奈ねぇだ。
廊下を足早に走る私が玄関にいくと、三奈ねぇの隣に男の人が立っていた。
「お帰り、三奈ねぇ。待ってたよ」
「ただいま、さっちゃん。お誕生日おめでとー」
私は三奈ねぇから誕生日プレゼントを受け取る。
「うわあ、ありがとう」
「あ、紹介するね、さっちゃん。こちら
「樋口さん…」
「それで、こっちが妹のさっちゃん」
「幸子です。あ、まあ、どうぞ上がってください」
「おじゃまします」
「ねぇ、さっちゃん、お父さんは?」
私の耳元で三奈ねぇが囁いた。
「相変わらず、年末やから忙しくしてる」
「そうだよね」
「あ、でも、もうすぐ帰ってくるんじゃないかな…」
「そうか…」
「あ、三奈ねぇ樋口さんと結婚するん?」
私は三奈ねぇに肩を寄り添っていき静かに聞いてみた。
「んー、まあね(笑)」
三奈ねぇは嬉しそうにはにかんでいた。
居間に入ると、おばあちゃんがお茶菓子の準備をしていた。
「おばあちゃん」
「三奈ちゃん、よう来てくれたの」
「こちら樋口さん。同じ職場の人。付き合って3年くらいかな」
「そうかい。樋口さんもよう来てくれたの」
「樋口宏伸です」
「樋口さん、まあ、そんな固くならんと座りんしゃい」
「はい…」
樋口さんと三奈ねぇは仲睦まじく並んで座っていた。
(くす)樋口さんは人が良さそうな人だ。照れた顔がなんだか可愛い、、、
「さっちゃん、手伝って」
「はーい」
私はおばあちゃんと一緒に残りの夕食の準備に取りかかる。
「ただいまー」
暫くして、トトさんが帰ってきた。
「おかえり」
居間に入ってくるなりトトさんは見知らぬ男の人がいたもんで
少し驚いた表情を見せていた。
「なんや、三奈子、帰ってたんかい」
「毎年、この時期には帰ってるし、それに、昨日の夜も電話したんやけど」
「そちらさんは?」
「あ、あのね、お父さん」
「結婚でもするんか?」
「え」
「去年は男なんぞ連れて帰って来んかったからよ」
「お父さん、この時期は忙しいもんな」
「手短に頼むわ。
あかんのだわ」
「まだ時間さ、たっぷりあるだろ。大事な話があるんや、康夫、ちゃんと聞いたれ」
台所からおばあちゃんが声を張り上げて言うと、「わかったよ」と、トトさんは
その場に座り込んだ。トトさんもおばあちゃんにはかなわない。
「なんや? 」
「実はね、お父さん…」
「三奈子…俺から言うよ」
樋口さんは男らしく堂々とその口を開いた。
「お父さん…三奈子さんと結婚させて下さい」
「なんや、そんなことかいな」
「え?」
「こんな娘でよかったら、もっていけ」
「なんやの、それ…(笑)」
トトさんは意外にもあっさりしていた。
もっと、反対するのかと思っていた。
でも、それは照れ隠しで言ったことだって私は気づいていた。
「おめでとう」なんて、実の娘には面と向っては言えんもんなあ。
それが父親だ。
「おめでとー」
私は台所から祝福の声をあげた。
「ありがと、さっちゃん」
三奈ねぇは私に視線を向けて微笑んでいた。
おばあちゃんもにっこりと笑っていた。
「なんやね、康夫、そのそっけない言葉は」
おばあちゃんはトトさんに近寄って行ってダメ出しを言っていた。
「男親ってそんなもんだろ」
「もっと、娘の結婚を喜べ、バカタレが!!」
「知るか、ほっとけよ。こういう性格だ」
「ったく、ほんとにもう気の小さい男だね、
情けない…」
私の声も届かず、
ブツブツとおばあちゃんの小言は少しの間 続いていたのだったーーー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます