第27話 音葉の彼氏
「ただいまー」
その後、音ねぇが彼氏を連れて帰ってきた。
「おかえり、音ねぇ」
「ただいま、さっちゃん。はい、これプレゼント」
「わあ、ありがとう」
「音ちゃん、おかえり」
「ただいま、おばあちゃん」
「そちらさんは? 紹介してな 」
「ああ、私の彼氏」
「
「お前も結婚するんか」
トトさんがさらりと言った。
「お前もって…。もしかして、お姉ちゃん結婚するの?」
「うん、まあね。さっき、お父さんに許しをもらったとこ」
「おめでとう」
「ありがと。それで、音葉達はどーなの?」
「私らはまだそこまでは…ね。一応、おばあちゃんに紹介しとこうと思って…」
「そうなの?」
「この家を出た時、『彼氏ができたら紹介してな』って、おばあちゃんと
約束してたから」
「そうなんだ。それで、よく彼氏も一緒に来てくれたね。ーーーというか、どこかで見た顔なんやけど…篠宮さんって…」
「はあ、篠宮って…あの篠宮祐樹かいな」
「え、お父さん知ってるの?」
「知ってるもなにもプロ野球選手やないかい」
「え、そんな有名選手がなんで音葉なんかと…」
「有名選手じゃないですよ。まだ、控え投手やし…。年棒もサラリーマンと
変わらないですよ」
「だって、トトさん、野球好きやもんね。控え投手でもいい選手はトトさんの
印象に残ってるんだよ」
「ありがとうございます」
篠宮さんは若いのに礼儀正しい人だなあ。と、思った。やっぱ、スポーツしている
だけあって体つきも
「……」
それなのに、トトさんは目を合わすこともなく、そっぽを向いていた。
多分、男親というのは娘の彼氏や結婚相手を目の前にして、
どうしていいのかわからないのだと思う。
「ねぇ、音葉、どこで知り合ったん」
三奈ねぇがさりげなく、聞いていた。
「半年前にな雑誌の取材をしたことがあって、それで意外と気が合って…。
まさか、お父さんが野球見てるなんて思わんかったけど…(笑)」
「なあ、そろそろ蕎麦にせんか?」
夕食の準備ができたおばあちゃんが台所から
叫ぶ。
「そうやね。こうして、みんな揃ったんやしな」
「おばあちゃん、私、手伝うよ」
私はその場を離れ台所へ向かう。
「ありがとう、さっちゃん」
いつも除夜の鐘が鳴る頃 食べていた年越し蕎麦も いつの間にか
夕食の時間に一緒に食べるようになっていた。
みんな、それなりに歳をとり、夜中に起きるのが億劫になっていたからだ。
この日、トトさんは上機嫌にビールを飲んでいた。まだ、これから除夜の鐘を
鳴らさなあかんのに、ビールをゴクゴク飲み干していた。コップ3杯目になると、
おばあちゃんはビールの代わりに麦茶をコップに入れてトトさんの前に置いた。
トトさんは何も知らずに麦茶をビールだと思って飲んでいた。
ーーーが、本当は気づいていたのかもしれない。
口数は少ないが、トトさんは音ねぇの彼氏がプロ野球選手の篠宮祐樹選手
だったから嬉しかったのだろう。
篠宮さんのことをトトさんは『若手選手なのによう頑張っとる』と
テレビの前でずっと言っていた。
あんな楽しそうに笑っているトトさんを見たのは久しぶりだった。
三奈ねぇ、結婚おめでとう……
音ねぇ、彼氏とお幸せに……
気づいた時にはトトさんの姿はなく、時計の針がちょうど12時を差した時、
「ゴーーン、ゴーーン」
除夜の鐘が鳴ったーーー。
その音色は今まで聞いた中で一番の除夜の鐘の音だった。
「ゴーーンーー、ゴーーンーー」
みんなの幸せを願うように、トトさんが鳴らす除夜の鐘の音色は町中に
響き渡っていた。
「ゴ―ン……ゴ―ン……」
トトさんは力いっぱい心を込めて、ずっしりと重い鐘を鳴らした――ーー。
それは、まるで祝福の音色のようだったーーー。
私は部屋に戻ると早速、プレゼントを開けて見た。
奇遇にも三奈ねぇと音ねえのプレゼントはカジュアルの手袋だった。
しかも色もデザインも同じものだった。
くす(笑)。仕方ない、、、かわりばんこに履くとしよう……。
私はそのままベットに横になり、いつの間にか眠りについていたーーー。
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