神社の鐘の音
神宮寺琥珀
第1話 捨てられた赤ん坊
寒い寒い粉雪が舞う大晦日のことでした。
私は淡いピンク色の刺繍で『幸子』と書かれた白いブランケット生地に
可愛いレースがついたお
眠っていた。微かに耳の奥で聞こえる靴の音は私が眠る籠をどこかに置くと
小さくなりやがて消えていった。
私は衰弱したまま、泣くこともなく眠りにつく。
この冬空の下、粉雪はお
きっていた。瞼が
夜空を照らす光もなく、賑やかな声もしない、あたたかな日差しを浴びた昼も
わからない真っ暗闇の世界は四方八方を黒の絵具で塗りつぶされ、小さな物音さえ
失われた場所にポツリと置き去りにされたような感覚だった。
お
粉雪が舞う寒空では何の防寒もないようなものだ。
冷たい、寒い、凍えそうだ。
もはや手足の感覚は殆どなく、凍りつくような小さな身体は動かなくなり、
心音は小さく、だんだん弱く、まるでロウソクの炎が消えていくようだ。
私はこのまま死んでしまうのだろうか……。
まだ、上手く泣くこともできない私の声は誰にも届かない。
微かな息が小さく途切れかけた時――
『ゴーン、ゴーン』と鳴る鐘の音が町中に響き渡った。
それは次第に強く、そして、どっしりと重く、まるで
響いていた。
『ザワ、ザワ』風で揺れる木の葉の音と重なって、誰かの足音がこっちに
向かってくる。
足音は私が眠る籠の前で立ち止まると、
「まあ、可哀想に、寒かっただろう」
低い男の声でもなく、甲高い若い女の声でもなかった。
「捨て子かねぇ。もう大丈夫さ、すぐに暖かい場所にいこうかね」
温和でゆっくりとした口調で話しかけてくる人は優しい声をしていた。
私が眠る籠は地面から離れると、何かに覆われ守られているようだった。
私を濡らす冷たい風雪も感じなくなった。
身体中が麻痺しているのだろうか。
いや……
だが、冷え切った体温に微かだけど温もりに触れている感じもしていた。
私はどこに運ばれていくのだろうか……。
薄っすらと積っていく雪を踏んで歩く足音は段々と足早に急いでいた。
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