第2話 須崎多江に拾われた幸子

幸子が捨てられていたのは須崎神社の境内だった。

ちょうどその日は12月31日の大晦日で白い粉雪が踊るように

美しく舞いを踊っていた。


この須崎神社も数年前までは除夜の鐘を聞きに訪れる参拝客で賑わい、

新しい年を迎えるのが恒例行事だったが、今では寒気が漂う真夜中に皆、

外出したがらなくなり、翌日の1月1日(元旦)に太陽が空を照りつくす

日照時間が明るくなったお昼前に初詣に来る参拝客が大半となっていた。


幸子が眠る籠は鳥居をくぐった木陰のそばに置かれていた。

籠が置かれた場所はそれほど入り込んで見つけにくい場所でもなかったが、

神社の境内へ続く参道は人気もなく静寂した夜が流れていて、朝まで

放置していたならば幸子は確実に死んでいただろう。


この屋敷に住む須崎多江すざきたえ(65歳)は、お蕎麦の出し汁を作って

いる途中になぜか嫌な胸騒ぎを感じ、孫娘の三奈子みなこ(11歳)に任せて

屋敷から出て来たのだった。

外はニュースで流れていた天気予報通り、この冬一番の寒気によって白い

粉雪が舞い散っていた。多江の背格好は小柄で、笑うと目元に小ジワが

できる可愛いい感じのおばあちゃん。

昔、助産師をしていた多江は今でも たまに自宅出産を願う近所に住む

妊婦さんの出産を手伝いに行くこともある。


須崎家、家主である3代目宗呂の須崎二郎すざきじろう(67歳)とその妻、多江、

その息子、康夫やすお(40歳)と2人娘、三奈子と音葉おとは(7歳)の

5人家族である。


3年前に康夫の嫁、由布子ゆうこを病気で亡くしてからは多江が2人の孫娘を

育ててきた。すっかり 三奈子も音葉も多江になついている。


多江は半纏はんてんの襟ぐりを両手で掴み、首元を隠すように少し上げると、

薄っすらと積もる雪の上を雪駄がシャキシャキ音を立てながら小走りに

踏んでいった。そして、木陰にちょこんと置かれた籠を発見したのだった。

多江が籠を覗き込むと、青白くなった赤子が眠っている。


多江はゆっくりと籠を持ち上げると、雪でこれ以上 赤子が濡れない

ように半纏はんてんの内側に赤子が眠る籠を抱きかかえると、急ぐようにして

屋敷へと向かって行ったのだった。

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