神社の鐘の音

神宮寺琥珀

プロローグ

幸子…元気にしていますか?


幸子…今、幸せですか?


あの頃、本当はこの腕の中にあなたを優しく抱きしめてあげたかったーーー。


でも、あの時の私はまだ子供だったんだ。


ごめんね…幸子…… ごめん…幸子……


あなたを捨ててごめんなさい……


ふと,見上げる夜空には粉雪が舞っていた。込み上げてくる想いが

瞳から涙を流していた。


あの大晦日の夜も、こんな風に粉雪が舞っていたーーー。


あの時の罪を忘れる為に私は高校卒業後、この町から逃げ出し都会暮らしを選んだ。

だけど、東京で暮らしていても、どこにいても私の頭からあなたのことが離れる

ことはなかった。


夢に出てくるのは、いつもあの日、最後に見た幸子の幼顔だった。

寒い粉雪が舞う夜空の下,須崎神社に置き去りにして、籠の中で

白く冷え切ったあなたの顔が夢に出てくる度に『どうか、幸子が生きています

ように…』と願う。


スマホや新聞、テレビのニュースで幸子の事が取り上げられることはなかった。

幸子は生きている。きっと,あの後で幸子は神社の人に拾われて育てられたの

だろう…… そう考えると、なぜだか、心が少しホッとした。

それだけでも私は救われた気がしていた。




そして、いつの間にか10年以上の月日が流れていた。


ーーーまさか、再びこの町に戻ってくることになるなんて……



小宮和美こみやかずみは粉雪が舞う夜空を見上げるーーー。



粉雪は頬を伝いゆっくりと溶けていく。そのうち水滴はじわじわと垂れ流れていた。


それでも私は暫くの間、粉雪が舞う夜空を仰いでいたのだったーーーーー。



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