第15話 年越し蕎麦

台所に行った多江はガスコンロのスイッチを入れ、お鍋に火をかける。

その隣に三奈子が近寄ってきた。

「ありがとな、三奈ちゃん。もうすっかりお姉ちゃんになったな」

「あ、味みてなー」

「わかった」

多江は温まってきた出し汁を少し救い、味加減をみる。

「少し薄口しょうゆをたそうかの」

「やっぱ、おばあちゃんやお母さんのようには美味しくできんわ」

「これも個性や。だいたいよく似た味になってきちょるよ」

「ほんまに?」

「これだけできりゃたいしたもんさ。おばあも助かっちょるよ」

「これから忙しくなるもんね」

「そうやね(笑)」

三奈子はチラッと居間で寝ている赤子の方に視線を向ける。

「三奈ちゃん、器にお蕎麦を入れてくれるかい?」

「わかった」

そこへ音葉もやってきた。

「おばあちゃん、私もなんか手伝うよ」 

「ありがと、ほなうつわを持っていってくれるかい」

「わかった。あれ? 出汁はいれんの?」

「重たいからあっちさいって入れるで。あ、音ちゃん、一つずつでええよ。

うつわ重たいからな」 

「うん、わかった」

多江は居間にいる康夫に視線を向けると、「孫娘たちが手伝っとんのに、

ほれ康夫も手伝いんしゃい」強く言葉を放つ。

「あ、へい、へい」そう言って、温厚な康夫も台所に来てうつわを運ぶのを手伝う。

「ほんまにおまえはのんびりしとるわな」

「……なあ、母さん、あの子、どないする気なんか?」

康夫が多江の耳元で小さく囁く。

「…?」

「まさか、うちで育てる気か?」

「他にどこに連れて行くっていうんかいな」

「そうやけど…」

「警察に届けて、あの子の親、探してもらった方がええんとちゃうか?」

「あの子の親は多分、未成年の若い子や…」

「え?」

「へその緒の切り口を見てわかったんや。産婆を長い事してっとな、

それくらいの事はわかる」

「まあ…そうかもしれんけど…でもな…」


「おばあちゃん、早く出し入れんとのびてしまうよー」

三奈子が居間から台所に向かって叫ぶ。

「パパも早く―」

音葉も居間から康夫を呼ぶ。


「ああ、今、行くで」

三奈子と音葉に向かって言葉を発する。

「とりあえずお蕎麦でも食べながら今後のことは考えようかいな(笑)」

そう言って、多江は出し汁の鍋を持って居間へ向かう。

「相変わらずポジティブやな母さんは…」

そして、康夫も多江の後から居間へと向った。



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