第41話 罪と罰

和美は病室のベットに深く座り、呆然と横を向いている。

そのには窓越しに見える夜の街のネオンがぼんやりと映っていた。


修二が売店で弁当とお茶を買ってきて病室に入ってきた。


「お弁当とお茶を買ってきたんだ。一緒に食べない?」

修二の視線が和美に向くが、「……」返事はない。


「そういえばさ、何も食べてなかったと思ってさ」

修二は備え付けのオーバーテーブルに買い物袋からお弁当とお茶を取り出して

置いている。


「罪と罰だね」


和美が か細く消えるような声で囁いた。


「え…」

修二は和美に視線を向ける。


「神様はさ、最後に私から女の一番大事な物を取り上げるんだね」

 

「……」


「なんかさ…お前にはそんなもん必要ないだろって言われてるみたい」


「ねぇ…和美さん…。手術しよ」


「手術なんかしたら…もう二度と…子供が…」

和美の瞳(め)から涙が流れ出してきた。

「……」

修二は和美の背後に回り、その震える体を包み込むように抱きしめる。


「やっとさ…人並に幸せになれると思ったのに…こんなの残酷すぎるよ…」


修二はぎゅっと強く和美を抱きしめる。


「本気で修二君との子供が欲しいって思ってたのに……ごめん…」

「なんで謝るの? 俺は和美さんに生きていて欲しい。俺の為に1年でも2年でも

長く生きて欲しい…」

「修二君…」

「だからお願いします。手術を受けて、和美さん…」

「子供はいいの?」

「和美さんが死んじゃったら、子供もないでしょ? でもさ、生きてさえいれば

方法はいくらでもある…」


「修二君…わかったよ…。でも、一つだけ約束して」

「何?」

「もしも、この先、私以外に好きな人ができたら私と別れてその人と

一緒になること」


「……!?」


少し沈黙が続いた後、修二は頷いた。

「ーーーわかったよ…」

「ありがとう…修二君…」



「私はさ…修二君が幸せなら私も幸せだからね…」

「…うん。じゃあさ、一緒に幸せになろうか…」

「……ありがとう」



「和美さん…大丈夫、罪はね、もう償い終わってるから…賞味期限切れ」

「じゃ罰は?」

「もうこれ以上の罰はこないよ」

「え?」

和美は修二の方へ顔を向けると、修二に視線を合わせキョトンとした顔で

修二を見ていた。

「もしも 次に罰がくるとしたら…」

「くるとしたら?」

「そうだな…俺と別れた時かな」

「え…?」


修二はイタズラに はにかむと、その唇は自然に距離を詰め

優しく和美の唇に触れていた――――ーーー。

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