第41話 罪と罰
ーー30分後、病室の準備が整い、和美は入室することができた。
「食事は明日からになりますので、今夜は
すみませんが、売店のお弁当か、院内の食堂が8時までなら営業していますので…どうぞご利用なさってください」
そう言って、マニュアル通りの言葉で伝えた後、看護師は退室した。
和美はベットに深く座り、窓越しに見える夜の街のネオンをぼんやりと眺めていた。
修二が売店で弁当とお茶を買ってきて病室に戻ってきた。
「お弁当とお茶を買ってきたんだ。一緒に食べない?」
修二の視線が和美に向くが、「……」返事はない。
「そういえばさ、何も食べてなかったと思ってさ」
修二は備え付けのオーバーテーブルに買い物袋からお弁当とお茶を取り出して
置く。
「罪と罰だね」
和美が か細く消えそうな声で囁いた。
「え…」
修二が和美に視線を向ける。
「神様はさ、最後に私から女の一番大事な物を取り上げるんだね」
「……」
「なんかさ…お前にはそんなもん必要ないだろって言われてるみたい…
和美の肩が震えている。
「ねぇ…和美さん…。手術しよ」
「手術なんかしたら…もう二度と…子供が…」
和美の瞳(め)から涙が流れ出してきた。
「……」
修二は和美の背後に回り、その震える体を包み込むように抱きしめる。
「やっとさ…人並に幸せになれると思ったのに…こんなの残酷すぎるよ…」
修二はぎゅっと強く和美を抱きしめる。
「本気で修二君との子供が欲しいって思ってたのに……ごめん…」
「なんで謝るの? 俺は和美さんに生きていて欲しい。俺の為に1年でも2年でも
長く生きて欲しい…」
「修二君…」
「だからお願いします。手術を受けて、和美さん…」
「子供はいいの?」
「和美さんが死んじゃったら、子供もないでしょ? でもさ、生きてさえいれば
方法はいくらでもある…」
「修二君…わかったよ…。でも、一つだけ約束して」
「何?」
「もしも、この先、私以外に好きな人ができたら私と別れてその人と
一緒になること」
「……!?」
少し沈黙が続いた後、修二は頷いた。
「ーーーわかったよ…」
「ありがとう…修二君…」
「私はさ…修二君が幸せなら私も幸せだからね…」
「…うん。じゃあさ、一緒に幸せになろうか…」
「……ありがとう」
「和美さん…大丈夫、罪はね、もう償い終わってるから…賞味期限切れ」
「じゃ罰は?」
「もうこれ以上の罰はこないよ」
和美は修二の方へ顔を向けると、修二に視線を合わせキョトンとした顔で
修二を見ていた。
「もしも 次に罰がくるとしたら…」
「くるとしたら?」
「そうだな…俺と別れた時かな」
「え…?」
修二はイタズラに はにかむと、その唇は自然に距離を詰め
優しく和美の唇に口づけをする―――ーーー。
甘くてトロトロに
感触に和美の心はドキドキさせられていた。
〈心も体も 修二君から離れられなくなっていたのは私の方だーーー〉
と、和美は気づいてしまったのだったーーー。
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