第42話 過去を乗り越えて~再会

無事に手術を終えた和美は病院のベットで窓越しに映る景色を

呆然と眺めていた。


〈子宮の全部を摘出した。命と引き換えに私はもう二度と子供が産めなくなった〉


『コンコン』

ドアをノックする音。


病室のドアが開くと修二が入ってきた。


「和美さん…どう、具合いは?」


「――ん、なんか、まだ少し、違和感がある感じ…」


「手術はね、取りあえず成功だってさ。でも、5年は他の臓器に転移していないか

るための経過観察と治療が必要だからね」


「うん、さっき担当医師の人が来て、説明して言ったから」


「そうなんだ」


「ねぇ、修二君、術後、どれくらいで退院できそう?」


「多分…何もなかったら2週間くらい?」


「お金…たくさんかかるね…」


「和美さんがそんなこと気にしないの。俺、多少の貯金はあるから」


「退院したら私も働くよ」


「あんまり無理しないでね」


「じゃ、大晦日は病院で過ごすことになるんだね…」


「あ、そうだ。今日はね、和美さんに会わせたい人がいるんだ」


「え?」


修二は和美の頭を軽く撫でると、

『手術、よく頑張ったからね。俺からのご褒美』

と、和美の耳元で囁いた。


「え?」


「入って来てもいいよ」

修二は廊下で待つ幸子と昴流に声をかける。



「失礼します」


幸子と昴流が病室に入ってきた。


「なによ、先輩、もったいぶっちゃって」

幸子は修二に視線を向けて口を開く。


「まあまあ…」と、修二は笑ってごまかした後、その視線を和美に向け、

「和美さん、紹介するね。俺の友人の水野昴流君と須崎幸子さんです」

と、2人を和美に紹介する。

 

幸子はあっけにとられた顔を浮かべ、昴流に視線を向けるが昴流も状況が

把握していなく、「—ん!?」という顔で幸子を見ていた。

2人はポカーンとした表情で修二と和美を見ていた。


「え…!?」

〈幸子…? この子が…〉


さちは俺の高校の時の後輩であり命の恩人なんだ。そして、ここの婦人科で働いてるんだよ。それで、隣の昴流がさちの彼氏です」


「な、先輩、何をベラベラと患者さんに…」


「今は患者さんだけど…そうじゃないんだ」


「え?」


「紹介するよ、俺の彼女の小宮和美さんです」


「え?」


「世話になった2人にはさ一番に紹介したかったんだ」


「先輩…そうだだったんだ」

幸子は和美に視線を向けて、

「ごめんなさい…」と、軽く頭を下げる。

「あ、いえ…」

「改めて、担当看護師の須崎幸子です」

「え……?」

和美の視線が修二に向くと修二は優しい笑みを浮かべて頷いた。

 


昴流がちょこちょこと修二に近寄っていくと、

『おい、修二、いつの間にナンパしたんだよ、こんなキレイな人』

と、見えないようにその肘で修二の腹を突っつきながら小さく囁いた。


『バカ、ナンパなんてしてねーよ』

修二は照れながら答えていた。


〈バカだ…〉

その光景を幸子はあきれた顔で見ている。


そして、和美は過去から解き放たれたように少しはにかんだ表情で微笑んでいた。

そんな和美の笑みが幸子の横目に入ってきた。


修二と和美の幸せそうな顔を見て、幸子の顔にも笑顔が溢れていた。


2人の笑顔が視線に映った修二もホッとした眼差しを向けて微笑んでいた。



「それじゃ、また後で」

幸子は昴流と仲睦まじく病室を出て行った。



和美は修二に視線を向け、「なんなのよ、これは…」

と、少し照れた表情を浮かべその視線を逸らす。


「驚いた?」


「そりゃ、驚くよ」


「親がいなくても子供は育つ」


「え?」


「いい子になってるじゃん、和美さんの娘…。っていうか、

俺と和美さんが結婚したら、俺がさちのお父さんになるのか? 

なんか、複雑だなあ…」 


「じゃ、やめてもいいんだよ。私には修二君を縛る権利ないし…」

和美は修二に視線を向けて言った。


「……やめないよ」


不意に修二の唇が和美の唇に触れた。


「……」


ゆっくりと修二の唇が和美の唇から離れ、数センチの所で止まる。


「幸(さち)に娘だって言わなくていいの?」


「あの子が元気ならそれでいい…。ちゃんと自立して幸せなら私はそれでいいよ。

彼氏もいい子みたいだし…」


「まあ、昴流はいい奴だよ。もしかして【】って名前さ、

幸せになって欲しくて付けたんじゃないの?」


「—―ん、どうだろ…。もう忘れたよ。名前の由来なんてさ」


さちね。助産師を目指してるんだって知ってた?」


「え…」


「育ててくれたおばあちゃんがね産婆さんだったんだって」


「そう…。いい人に育てられてよかった、、、真っすぐでキラキラしてたわね」


「ああ…」


「あ、 前に言ってた命を助けてくれた太陽みたいな子って…もしかして?」


さちだよ」


「そう…俺達が出会ったのには意味があったんだよ」


「……そうかもね」


「和美さん…」


「なに?」


「退院するまでの2週間、思いっきりさちに甘えればいいよ」


「え?」


「患者さんが元気になって退院するために看護師がいるんだからさ」


「修二君…」


「俺も同じだよ…だから、早く元気になって、いっぱい楽しい思い出作ろうね」



「ありがとう……修二君……」


額を擦り合わせた修二と和美の顔には笑顔が溢れ幸せを感じていた。

それはこの先何年経っても、何十年経っても変らないだろうという

2人だけの居場所を見つけた瞬間でもあった。


〈つらい現実も楽しい瞬間も2人でならきっと乗り越えていける〉


〈それは歳の差なんて関係ない〉


〈―――愛とか恋とかそんな感情でもない〉


〈ーーーあるのは、ただ一緒にいたいだけ〉


〈あるのは相手のそばにいたいだけ…〉


〈隣にいてこんなにも落ち着ける場所なんて、そんな簡単に見つかるものでもない〉





〈最後に神様は幸せを運んできてくれたみたいだ……〉










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