第34話 秘密と過去

修二は再び和美の唇を奪いにいく。優しいキスの後は甘くてトロけるようなキスで

攻める修二。そのうち和美の心も積極的な修二に男を感じるようになっていた。

修二の真剣な眼差しは今まで見たことがない男の目をしていた。繰り返されるキスは和美の艶のある唇を満喫した後、頬へ向けられ耳たぶを通る。修二の熱い吐息が和美の耳元にフゥーと風が吹いたみたいに通過する。修二は和美の顔色を伺いながらめることもなく、その行為を進めていった。修二の指先が和美のパジャマのボタンを外しにいくと、和美の視線は不器用に震える修二の指先を見ていた。

そして、修二の指先が第二ボタンに差しかかった時、突然、再び和美の脳裏に性的暴行を加えられ恐怖に怯えて暮らしていた日常が鮮明に蘇ってきた。




※ 男の顔は黒い影に覆われ、逃げる和美を追いかけ何度もベットへ引きずり戻す。 

  男の突き刺さるような鋭い視線が和美を見下す。抵抗もできず和美は男に衣類を 

  全部もぎ取られ、皮膚が剥がれるほど強くキスマークをつけられる。

  『いい子だ。それでいい…』

  男の唾液は和美の身体中にベトベト付着していた。

  気絶するほど犯し続ける男は更に和美の股を強引に開け、ニヤッと笑みを

  浮かべると、男は和美の肉体美に摺り寄せてきて勢いよく何度も腰を振る。

  男の肉体から溢れ出すように噴射した体液は流れるようにシーツを濡らして

  いた。

  

  

  

2番目の夫と別れて5年経った今でもたまに思い出す性への恐怖に和美の身体は

震えていた。


  

その瞬間、「きゃ、やめて!」と、和美は修二を拒み突き放した。



「和美さん?」

一瞬、修二の泳ぐような目が和美の視線をかすめた。

和美は上半身を起こし、胸元を隠すようにして修二に背を向けると、

怯えたように震え視線を逸らす。

「…ごめん」

「……俺もごめん…」

和美は黙ったまま何も言わなかった。

「ちょっと…強引だったね。俺、あっちで寝るから…」

寂しそうな声が背中越しに聞こえた和美は「はっ」と、我に返り、

視線を戻すと、修二はベットを降りてドアに向かっていた。


〈ち…ちがう…違うの…〉

そう言いたいが、和美は声を出すことができなかった。


〈修二君が好き…でも、恐い…〉

 

〈この身体を見られて、ガッカリする修二君の顔を見るのが恐い…〉


その間も修二の足はどんどん和美から遠ざかっている。


〈修二君…待って…〉


修二の足がドアに差しかかる手前でその手は和美の手に掴まれた。


「え?」


「待って、修二君…」


「和美さん…?」


「違うの…」


「え?」


「私には秘密があるの…」


「秘密?」

修二の視線が和美に向く。


「実は…私…2回結婚して、2回離婚してるの」

そう言って、和美はパジャマのボタンを一つずつ外していく。


「ホントはこの身体を好きな人に見られたくなかった…」

 

全てをさらけ出し、和美の手元からパジャマがヒラリと離れ床に着く。


「……!!」

和美の透き通るような白い肌から肉体美にかけて残る青アザが修二の視線に映る。


「2番目の夫が性依存症でそのうちエスカレートしてね……」 



「殴られて、犯されて…それから…」

1歩、2歩と和美に近づく修二の足音にも気づかず、和美は自分の過去を話す。

 

その瞬間とき、話を中断するかのように修二の手が和美の背中に回り

自分の方へ引き寄せた――――ーーー。


「!?」

瞬時に和美は修二の腕に包まれていた。


「もう、いいから…。言わなくていいから…。ごめん、俺…何も知らなくて…」

〈それが…自殺の原因か…〉


「それと…もう一つ大事なことを言わなきゃいけない」

「なに?」

「私…17の時に子供を産んでるの」

「え? それで?」

「―――ーー殺したの……」

「殺したって?」

「寒い寒い粉雪が舞う大晦日にね、神社に捨てたの。当時、私も17歳で子供なんか

育てられなくて、親にも言えなくて…」

「……!?」

全てを吐き出した和美の心は解放され、そのから線を書くように

涙が流れていた。

「幻滅したでしょ? だって、私 人殺しだもん。この傷は仕方がないの。

こんな傷じゃ私は救われない。私はもっと…罰を受けなければいけないんだ」

「警察は?」

「え…」

「その事、ニュースになった?」

和美は首を振った。

「わかんない…。私、ニュースとか見ないから…」

「もしかしたらさ、そこの神社の人が育ててくれてたかも…。それか…誰かが気づいて警察に届けてくれたってこともあるかも……」

「修二君は他人事ひとごとだからポジティブにいられるんだよ 」

「俺にだって知られたくない過去ぐらいはあるよ」

「え?」

「俺もさ…和美さんと同じなんだ」

「……」


修二の手は床からパジャマを拾い上げると寒そうな肉体美を覆うようにして、

修二は優しく和美の身体にパジャマを着せた。


「俺も…誰にも言えない秘密があるんだ」


「え? 秘密って…まさか修二君も誰かをあやめたことあるの?」


「未遂…。抹殺したいと思ったことはあったよ…」

 そう言いながら、修二も上服を脱いだ。


修二の肌には何か所も黒ずんだ斑点がついていた。

 

「これ、煙草の跡…」


「え?」


「子供の頃にね父親にやられたんだ。お酒飲むと気性が荒くなって、俺の身体に煙草を押し付けるんだ。頭の中で何度も父親の命を奪っていた。でも、現実はできない…俺は弱い男なんだ」


その時、和美は修二の身体を覆うようにして抱きしめる。


〈さっき私のパジャマのボタンを外しながら震えていたのはこの身体を見て

私がどんな反応をするか見るのが恐かったんだね〉


「それでもね、このアザがワイルドだって言い寄ってくる女の子はいたんだ。

まあ、長くは続かなかったけど」


「そう…」


「あの日、和美さんを見て…同じ匂いがしたんだ…。俺も昔、同じようなことが

あったからさ…。その時、俺、ある女の子に救われたんだ」


「彼女?」

和美の手が修二の身体から離れる。


「そんなんじゃないよ」


「じゃあ、何?」


「妹みたいな感じな子。太陽かな…」


「え?」


「俺にはもったいないような子…。明るくて、よく気がきくし、優しくて…

仕事も一生懸命だし…」


「その子のことが好きなんだね…」


「もう、怒るよ 和美さん」


「まあ、まあ、照れなくてもいいよ」


「ああ、好きだよ」

修二は子供扱いする和美にイジワルを言いたくなりワザと

開き直った口調で言ってみせた。


「え?」

一瞬、和美の目はキョトンとなり焦点が合わず泳いでいた。


修二はそんな和美が可愛く、そしていとしく思えた。


「…ラブじゃなくライクの方ね」


「……え?」


「ラブは和美さんだけだよ」


不意を突くように修二の唇が軽く和美の唇に触れた。


名残惜しそうにゆっくり唇が離れていくと、修二と和美は互いに視線を交わし

再び見つめ合っていた。お互いを求め合いその身体に触れたと願うその距離は

引き寄せられるように少しずつ縮まっていく。


そして、修二の唇は優しく光沢のある和美の唇に触れていた――――――ーーー。






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