第7話 過ち

和美が赤子を抱いて脱衣所から出て行くと、目の前には

偉そうに腕組みをした亮介が立っていた。

「お前、そのベビー服どうしたんだよ」

「お年玉とかお小遣いを貯めてたお金があったから」

「へぇ…」

亮介の視線が和美をじっと見つめている。

「あ、たまたまね。ほんとに偶然なんだけど、デパートで安いの

見つけちゃってさ…ついね、買っちゃっただけだよ」

「別に…俺に言い訳なんかしなくていいよ 」

そう言って、亮介は早々とリビングに向かっていた。

和美は赤子を抱いたまま亮介の後を追うが、長い歩幅で

先を歩く亮介は和美を待つこともせず自分勝手に進んでいく。

そして、和美がリビングに入ると、亮介の姿はなかった。

「あれ? 亮ちゃん?」

〈確かリビングに入ってきたと思ったんだけどな…〉

和美は取りあえず赤子をソファーに寝かせると、手荷物の手提げバックから

くるみを取り出し、そっと赤子の体に巻いていく。

そのおくるみは可愛いいレースがついたブランケット生地でできていた。

一応、和美の手作りだった。

「これね、家庭科の授業で先生の目をぬすんで、こっそりと縫ったんだよね。

上手くできなかったけど…。これでも縫物は好きな方なのよ」


ガチャー。


リビングの奥にある部屋から亮介が出てきた。


そして、亮介は和美の前にベビーかごを置く。

「これに入れていけ」


「え? 亮ちゃん、このかご、どうしたの?」


「粗大ごみの日に出てたやつを拾ってきた」


「え?」


「ーー妊娠がわかった時、俺、おろせって言ったけど、

お前の様子がなんかおかしかったから…まさか…と思って……」


「ほんと、亮ちゃんって…」

〈根っからの冷たい人間じゃないのかも……。だけど、私達はまだ若い。

この子を育てることなんてできない。認知もできない〉



〈ーーだから、自分達が犯した過ちを抹消するしかないんだ。

両親に知られないように隠すしかなかった〉



〈まだ、子供だった私達はその過ちを軽く考えていたーー。

そう、大人になれば、過去のことなどすぐに忘れてしまう〉


〈この時の私達はそれ程、重大な事でもなかったし、深くも考えていなかった〉



〈―-その程度にしか、考えてはいなかった〉

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