第38話 幸子は生きていた

「ピンポーン」

修二の指がインターホンを押す。


「はいはい、ちょっと待ってね」


中から女性の声がして玄関が開いた。


「はい、どちらさんですか?」

 

小柄で人が良さそうな ふくよかな女性が玄関から出て来た。


「あの…えっと…」


和美が『何て聞いたらいいのだろう』と、

言葉を詰まらせていたら、

隣にいた修二が口を開いた。


「すみません、俺達、人を探していて…。もう20年も前になるんですけど…

こちらに赤ちゃんっていませんでしたか?」


「え、もしかして、さっちゃんのことかしら?」


「さっちゃん?」

修二が聞き直す。


「ああ、幸子ちゃんだと思うけど…」


「あ、そうです!」

和美は身を乗り出すようにいつもより少しだけトーンを上げて声を出す。


「私も詳しい事は知らないのよ。兄が亡くなる少し前に聞いたことがあって…」


「え?」


「幸子ちゃん、この神社に捨てられてて母が見つけてね、みんなで

育てたって言ってたかしらね。それが?」


「……いえ、俺の知り合いがどこかの施設に預けてたみたいで、こちらに

引き取られたって聞いて…。あ、やっぱり違ってましたね、俺の勘違いです。

すみません…」


咄嗟についた修二の嘘だった…。


〈幸子が生きてた……〉


「それじゃ失礼します」


和美と修二は帰って行った。


「あっ、ちょっと、さっちゃんなら今…」


「おばさん…誰か来てたの?」


女性の背後から幸子の声。


「ああ、誰かを探してるみたいだったけど…。さっちゃんを探しに

来たのかしらね」


「え?」


「さっちゃんの彼氏だったりして。すごくイケメンだったわよ」


「えー、誰だろ(笑)。私の彼氏は今日、仕事だって言ってたし…」


「もうすぐ結婚とか?」


「えー、どうだろ(笑)。私達はまだかなあ…」


そう言いながら、女性と幸子は居間に向かって廊下を進んでいた。


「あ、おじさんに風邪薬飲ませたよ」


「いつもありがとね、助かったわ。悪いわね、違うなのに」


「ああ大丈夫ですよ。婦人科専門でも薬くらいはもらえれるし」



その頃、須崎神社を出た和美と修二は道なりを歩いていた。


「よかったね和美さん。やっぱり、娘さん生きてたじゃん」

「う…うん…」

和美は一気に肩の力が抜け、目の前に垂直に伸びた電柱に手をついて

しゃがみ込んだ。


「よかったあ……」


〈幸子が生きていてくれてよかったよぉ……〉


「だから言ったじゃん。和美さんの生命線のDNDを受け継いでるんだもん。

俺は絶対に生きてると思ってたよ」


〈修二君… 〉


そう言って、修二は優しく和美の肩にそっと手を添えた――――ーーー。






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