第7話 自己紹介

 「ボクは”シャドウラフ”の寮長をやらせてもらっている、イリヤだ。好きなように呼んでもらって構わないよ」

 「僕は副寮長のノア。イリヤ同様、好きなように呼んでくれ」

 「あたしは4年リーダーのダルク。4年生をまとめているから、関わることは少ないかもね、クロエちゃん」

 「3年リーダー、ジグ」

 「2年リーダーのクーでぇすっ。よろぴく〜」

 口々にシャドウラフ寮生は、新しい後輩に自己紹介をする。寮長に始まり、リーダーズ、そして寮生という順番で後輩に名を告げていた。シャドウラフは他の寮よりも寮生が少ないため、名前を覚えるためにかける苦労が少ない。だが、一発で覚えられるわけではないので、新しい後輩は必死に名前を覚えようとしながら自己紹介を受けていた。

 「…うん、だいたい全員自己紹介できたね。後もう数人ここにいない寮生がいるけど、後々会えるから、今日はここまで。それじゃあ、みんな、始めようか」

 自己紹介の進捗を確認して、イリヤは全員に聞こえるように宣言する。

 「新入生歓迎パーティ、開幕ッ!!」


 「「「「かんぱ〜い!!!」」」」


 ロビーのあちこちでグラスがぶつかる音がする。歓談する声も聞こえ、それだけ聞いたら洒落ている空間だった。…それだけ聞いていたら。

 「ねえ〜クロエちゃんは好きな人とかいるの〜?いるならあたしに教えなさいよぉ〜」

 「ダルク、酒呑んだだろ。どっから持ってきた?」

 ベロベロに酔ったダルクが、クロエに絡んでいた。4年生の中には自分の意志で4年生二回目をしている者もいるので、酒が飲める年齢の者もいる。ダルクも、その一人だ。

 ダルクはううん、と眉を寄せながら応える。

 「え〜?いいでしょ、別に。あたしのモノだから迷惑じゃないわよ〜。ねっ、ク・ロ・エちゃぁん」

 「…うわエッロ」

 ぐりぐりとダルクに頬を指で突かれながら、クロエは呟いた。ダルクはシラフの状態でもかなりセクシーな女性であるのに、酒が入って更に色気が増したからだ。

 なるべく仏頂面を心がけて、クロエはダルクの質問に応える。なるべく、見えそうになっている胸の谷間を見ないように。

 「…ダルクセンパイ、今は好きな人はいないです。多分、これからできますかね」

 「え〜そうなの〜?じゃあ、タイプはあるの?」

 「タイプ、かぁ…。う〜ん」

 少し間をおいて、クロエは言った。ちなみに、この時ロビーに居るシャドウラフ寮生は全員耳をそばだてていた。

 「無言でも気まずくならない人、ですかね…。後は、物理的に寄っかかっても倒れない人」

 「え〜、クロエちゃん欲少ないんだ〜。じゃあ、今ここにいる人たち、みい〜んなその条件のうちの一つに当てはまるんじゃない?だって、みんなクロエちゃん支えられるよ〜。物理で」

 「…ああ、確かにそうかも知れないですね」

 クロエは周囲の寮生を眺め、ニコッ、と笑う。今の攻撃で、寮生の内の数人が撃沈してしまった。そこで、ダルクがあることに気づく。

 「あれ〜クロエちゃん何か顔赤くない?」

 「そうなんですか?自分じゃちょっとわかんないです」

 普段なら酔っぱらいの虚言と思っただろうが、なにか感じたのかイリヤがさっと駆け寄る。そして、クロエが持っているグラスを取り、中身を少し飲んだ。

 「…ねえ、ダルク。これ、酒なんだけど」

 「あ〜混ざっちゃったのかな〜。クロエちゃん、体調は悪くない〜?」

 「なんかふわふわします」

 「「…」」

 ダルクとイリヤは真顔で見つめ合う。先に動いたのは、イリヤだった。

 「ダルク、酒没収。いいね?」

 次にダルクは酒をかばうようにして抱える。だが、抵抗虚しく、イリヤに没収されてしまった。

 「あ〜あたしの相棒〜」


 歓迎パーティは続く。

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