第34話 宝探し6

 背後でクロエの声が放たれ、強い衝撃波が彼らを襲う。

 「っし、来い、モーム!」

 その隙を狙って、クロエはモームへと手を差し伸べた。どこぞの少女漫画のように。

 立場が逆転しているなと思いながらも、モームは素直に手を伸ばし、クロエの手を掴む。そして二人は、再び逃げ出した。


 クロエの魔法、大声おおごえはその名の通り、彼女が発した言葉を大きな音として発する魔法である。込める魔力が大きいほど、そして地声が大きいほど威力は増し、遠くからでも聞こえるようになる。

 今回、彼女は30%の魔力と、80%の地声で大声おおごえを放ったため、威力はさほど強くなかった。しかし、衝撃波は強かったので寮長二人が麻痺に似た状態になり、動けなくなったのである。

 また、彼女の”大声”は宝探しのフィールド全体に響いていた。大半のものは面食らい、実害がないとわかると大して気にしなくなるが、少数の者は”これは魔法だ”と気づき、その原因を把握しようとする。

 ___よって、彼女たちの前に”パールアイ”の寮長が現れたのも、しょうがないことだった。


 「あら、貴女だったのね。ちょうどいいわ、さっきもイリヤの子達に会ったの。あの子達はすぐに隠れてしまったけど、貴女達は隠れられないようだし。少し、一緒に遊びましょうか」


 パールアイ寮長、コルヌヴィア=フィルランドはその美しい顔を綻ばせて言う。

 クロエとモームは、その笑顔に悪寒を覚えた。


 今、最悪の鬼ごっこが始まる。



 場所は打って変わって、シャドウラフ本拠地。

 「 __ 、よし次。…うん、分かった、そのまま頼む。次は?」

 周囲に数え切れないほどの”モニター”を浮かべ、イリヤは”補助”に回っている寮生たちと連絡を取っていた。

 「了解。皆このまま、収集頑張れ」

 一度”補助”との連絡を絶ち、イリヤは立ち上がる。

 「リファ、キミの魅せどころだよ。精一杯、”嘘つき”をすると良い」

 「ん、りょ〜。じゃあいってら」

 なにかの準備をしていたリファに見送られ、イリヤは宝がある場所へと移動した。

 「ノア、そっちは?」

 ”なんとか相手してるが、そろそろ奴さん、痺れを切らしそうだ。イリヤ、準備は終わったか?”

 「ああ、終わったよ。一分後にボクとキミの座標を入れ替えていい」

 ”じゃあ、それまで頑張りますか。僕だってやるときはやるしな”

 そうだね、と言って、イリヤは”宝”に手をかざした。

 「”モニター”」

 そう呟くと同時に、宝の周囲がたくさんの”モニター”で包まれる。

 イリヤは満足げにうなずき、一歩、下がった。

 「…58、59、60」

 次の瞬間、イリヤの目の前に”シーフワイト”寮寮長が現れる。

 イリヤは薄く笑いながら、彼に向けて魔法を放った。

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