第20話 文化祭4 side.Cloe

 ある程度客足が落ち着き、外の様子を見ようとしていた時。出会いは、突然訪れた。


 「ダレカタスケテー!」

 棒読みのセリフを叫ぶ。でも、誰も気づかないし、誰にも届かない。

 当たり前だ。

 人が少ないところに追い込まれた上、相手は防音結界を張っているんだから。

 「何故逃げる?私は何もしないぞ?」

 心底不思議そうに、相手は言う。…その”何もしない”が胡散臭すぎるんだよなぁ。普通、いきなり追って来た人のことを信用できるわけないっしょ。わざわざ丁寧に結界も張っておいて。

 「オマエはアイツの寮生なんだろう?ならば、私のことも知っているはずだが?」

 「知りません誰ですかアナタ。なんで追い込み漁してきたんですか!?」

 いつでも逃げられるよう魔力を体に巡らせながら、相手に尋ねる。同時に、相手に見えないようにスマホを操作し、メッセージを送信した。

 「イリヤさんのストーカーなんて知りませんよ、私をストーカーしないでください!!」

 逃げようとは思っているが、相手の隙がないので、とりあえず煽る。煽り続けて、少しでも隙を作る。

 …だって、そうまでしないとこの人から逃げられない。何なの、この人。見ただけでわかる、めっちゃ強い。さすがイリヤさんのストーカー。

 「…すとーかー?すとーかーとは、なんだ?」

 「おう、まい、ごっと」

 思わず頭を抱えた。やばい、この人ストーカーの自覚がないどころか、ストーカーの概念すら知らない。

 「…ストーカーって、アナタみたいなことですよッ!?」

 ストーカーという存在を教えようとして、いきなり腕を掴まれる。振り払おうとするが、全く揺るがない。ヤバい、逃げられない。

 「放してくださっ、!?」

 掴まれていない方の腕に力を込め、相手を殴ろうとしたがそれも防がれ、両腕が使えなくなる。

 まずいまずいまずい、このままじゃ絶対にやばいことになる。性的な意味か、暴力的な意味かは相手によるけど、抵抗しなきゃとりあえずまずい。

 「”動くな”、目を見せろ」

 「ッッ!!!」

 そう思って魔法を放とうとすると、急に動けなくなった。全身が硬直して、動けない。目が覚めているのに、金縛りにあっているみたいだ。

 「__ふむ。やはり、な」

 相手は顔をぐっと近づけ、私の目を覗き込む。…うわ待って、この人イケメン。めっちゃイケメン。というか、この世界美男美女多すぎる。

 「”もう良い”。やはり、オマエもアイツと同じか」

 イケメンが小さく呟くと同時に、体が自由になる。…よし、今!

 「”なにしやがんだてめえ!!!”」

 「ぐっ!?」

 腹から”大声”を出して、相手を怯ませる。周囲を確認すると、目当てにしていたのが来た。

 「クロエ、遅れてごめん!もう大丈夫、行くぞ!」

 「カイ、ありがと!」

 カイが来て、私の手を取る。そのまま相手を一瞥し、

 「シーフワイトのリョーチョーさんは良いご身分ですねぇ!もう二度と、彼女に近付かないでください!」

 と叫んで、”飛んだ”。


 「クロエ、今日めちゃくちゃいろんなことに巻き込まれてるよな。なんなの、どういう体質なの?」

 「…もしかして、私”ウラ”じゃヒロイン!?…ま、んなわけ無いか。たまたまだよ、たまたま。そう思いたい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る